成長担う「ど真ん中」を子会社へ~NEC再起への“奇策”

成長担う「ど真ん中」を子会社へ~NEC再起への“奇策”
NECがアメリカ・シリコンバレーに去年、設立した子会社が、業界を驚かせました。企業のデータ分析の自動化をビジネスとするこの子会社のCEOを務めるのは、NECのトップ技術者。資金調達や人事など経営について高い自由度も認められ、NECの今後の成長を担うと期待された人材、技術の「ど真ん中」を切り離した格好だからです。背景にあるのが、グローバルな競争に勝ち残るための「スピード」でした。

“虎の子”を社外に

Tシャツ姿がトレードマークの藤巻遼平さん(37)。NECがシリコンバレーに設立した子会社、「ドットデータ」のCEOです。実は「機械学習」の専門家で、4年前、33歳の時に、NECの研究者の中で1%にも満たない主席研究員の1人に、史上最年少で選ばれたトップ研究者でもあります。
実際にビジネスが動きだしてから半年あまりですが、藤巻さんは手応えを感じています。
「初め2ヶ月ほどは取引先に会ってすらもらえなかったが、最近はいいプレゼンもできるようになってきて、僕らのビジネスへのニーズは確かにあると実感している。今、まさに企業として成長している。楽しくてしかたない」
「ドットデータ」のビジネスは、企業の課題解決のためのデータ分析の自動化です。
例えば、製品の需要予測のために、必要なデータの分析、収集、需要の予測モデルの設計などを自動化し、AIで答えを導きます。これまでは、熟練の「データサイエンティスト」と呼ばれる専門家がいなければ難しかった作業を、誰でもできるようにすることを目指します。従来3ヶ月かかっていたデータ分析が1日で終わったという大手企業の事例もあるといい、NECにとっても「虎の子」の技術でした。

求められるのは”スピード”

そんな「虎の子」の人材、技術をあえて子会社に切り離したのは、従来のスピードでは、「稼げない」という危機感でした。

かつては、携帯電話や半導体など、数々の事業を持っていたNECですが、経営の悪化で、多くの事業から撤退。売り上げも、5兆円を超えていたピーク時と比べると、今は3兆円を割り込んでいます。

経営の立て直しを進める中で、次に稼げる分野を育てることは急務でしたが、大企業ゆえの「遅さ」が課題でした。研究成果の製品化を目指していた藤巻さんもNECの「遅さ」に危機感を抱いていました。
「大企業では、研究開発に3年、製品化に2年、実際に販売するまで5年も6年もかかる。顧客のニーズが目まぐるしく変わるなかで、これでは世界で通用しないと思っていた」
ドットデータのメンバー
トップ技術者である藤巻さんの直訴もあって、自社での事業化を求める反対もある中、NEC経営陣は子会社としての独立を決めます。しかも、子会社の中では異例とも言える自由な経営も認められました。
CEOは研究者である藤巻さん自身が務め、ほかの研究者たちも一緒に独立させた上で、ビジネスに関わる中核技術の権利も移管しました。さらに、ほかの子会社と違い、人事制度、給与体系もNECの基準は適用されません。独自に優秀な人材の採用が可能です。

極めつきは、現地のベンチャーキャピタルなどから資金を得られた結果、NECの出資比率が下がり、子会社ですらなくなっても構わないというのです。

NECは「ドットデータ」の企業価値が上がることによる資産価値の上昇と、日本におけるサービスの独占販売から利益を得ます。自社で事業を運営するより、利益が小さくなる可能性もありますが、それでも成長スピードを最重要視した、なりふり構わぬ策でした。
「NECとして、何年も苦しんでいて、新しいことにチャレンジしないといけないと、社内のみんなが思っていた。リスクはあるけれど、やらないとやせ細るだけだと思って、チャレンジさせてくれた」

本場で目指す成長

藤巻さんは「ドットデータ」を「ユニコーン」、つまり企業価値、10億ドル=1000億円以上に成長させることを目指しています。
「企業は核になるような技術を開発することに焦点をあてがちです。けれど、世の中の誰かの問題を解決してこそ、初めて技術は役に立つ。今回の手法は、企業が持つ技術を稼げるものにするための、新しい方法になると思うので、成功させないといけない。市場の動きはとにかく早いので、スピードを上げていきたい」
日本の大企業は、今でも優秀な研究者を抱え、そこには多くのビジネスのタネもあります。ただ、それをビジネスとして世に出すスピードで、ほかの国の企業に負けてしまう。NECの異例の挑戦は、ビジネスのタネをどう成功に結びつけるか、新たな手法として、注目されています。
経済部記者
加藤 陽平

平成20年入局
富山局、千葉局などへて
現在は電機業界を担当