わたしと、結婚してくれますか

わたしと、結婚してくれますか
結婚しようと思っている相手から「実は話していなかったことがある」と切り出されたら、あなたはどうしますか? しかもそれが、これから一生つき合うことになる、相手の家族の話だったら…。恋人に言いたくてもなかなか言い出せない、そんな「ある事情」を抱えた人たちが、今、少しずつ声を上げ始めています。(社会部記者 三浦佑一/ネットワーク報道部記者 岡田真理紗)

「#きょうだい児」

最近、ツイッターなどで「#きょうだい児」というハッシュタグが広まっています。「きょうだい児」とは、障害者の兄弟姉妹のこと。このタグと共に発信されるツイートの中には、家族への愛情ではなく、激しいマイナスの感情をあらわにしたものが少なくありません。
「何で私が我慢するの? 何で私が諦めるの?」
「親に利用されて人生が終わるぞ」
「介護や遺伝の話題が嫌で結婚出産も諦めてんだよ」
そこには、幼い頃から障害のあるきょうだいを支える役を期待され、自分のことを後回しにされてきた不満がうかがえます。

特に「きょうだい児」が成長してから直面する問題が、「結婚」です。

少し古い調査になりますが、平成20年に障害者福祉の活動を行っている団体が行ったアンケートでは、障害のあるきょうだいの存在によって結婚に「影響があった(またはある)」という回答が30%を占めました。

ツイッターでも、「彼女の親が結婚を強く反対した」などと、理解を得られなかった経験をつづっている人が少なくありません。

弟のことを考えると…

「きょうだい児」の1人が、自身の経験を話してくれました。横浜市に住む磯脇洋平さん(37)。独身です。

2歳下の弟に重い知的障害と自閉症があります。子どもの頃、弟は突然立ち上がったり声を出したりといった不規則な行動をとることがありました。両親は周りの目を気にしてか、旅行や外食に行こうとはしなかったといいます。磯脇さんはやりたいことを我慢しながらも、そうした家族の状況をしかたのないことと思っていました。

そんな生活が大学まで続いたあと、磯脇さんは23歳の時に就職して一人暮らしを始めました。「これからは自分の時間を大切にしよう」と思っていたやさき、恋人との別れが訪れました。
「実家を出て半年ほどたった頃、大学の時からおつきあいして結婚したいと考えていた女性から別れ話を切り出されました。『悪いところがあったら直すから』と食い下がり続ける私に対して、彼女は『あなたの弟さんのことを受け入れる自信がない』と言いました。ことばを返せませんでしたね。障害が子どもに遺伝するかもしれないとか、いずれ弟の面倒を見なきゃいけないんだろうかとか、彼女は考えていたのかもしれません。心優しい人でしたから、障害者とその家族を傷つけるようなことばを告げることには迷いもあったと思います。でもそこまで言ったのは本気で別れたいからだと、私は理解し、諦めることにしました。そのことで弟を恨む気持ちはありません。私が至らなかったから、別れを告げられただけだと思っています」(磯脇さん)
恋人と別れてまもなく、弟は実家近くの施設に入所。以来、磯脇さんと弟は生活上の接点はほぼ無くなりました。しかし弟の存在は、磯脇さんの家族観に影響を与えているといいます。
「結婚したくないわけではありませんが、子どものいる家庭を築きたいという願望が自分にはないことに気付きました。弟は夜、自分が決めた遊びなどをやり終えるまで何時になっても寝ないのですが、発作が起きないよう見守る母親は夜中まで眠れない日々を過ごしていました。私に子どもができたとしても障害があるかどうかなんてわかりませんが、妻となる人に私の母親のような子育ての苦労をさせる可能性があるくらいなら、夫婦2人だけで楽しく過ごしたいと思っています。女性とおつきあいすることがあっても、『子どもが好き』とか『子どもがほしい』と言われると、一歩引いてしまう自分がいます」(磯脇さん)

声を上げた“きょうだい児”

今、同じ悩みを抱える「きょうだい児」どうしがつながろうとする動きが出ています。去年11月、東京で「きょうだいのわたし、結婚どうする?」というイベントが開かれると聞き、取材に訪れました。
イベントを企画したのは、聴覚障害のある弟がいる弁護士の藤木和子さん。藤木さんは、去年4月に、「きょうだい児」がつながるためのインターネットサイト「シブコト」の運営を始めました。そのなかで、結婚が大きな悩みになっていると感じ、経験を語り合う場を設けたいと考えるようになったのです。
イベントの当日。藤木さんのほか、知的障害の弟がいる太田信介さん、ダウン症の兄がいる持田恭子さんの3人が、既婚者として自身の経験を語りました。会場の関心を集めたのは、障害者のきょうだいがいることを交際相手に伝える「カミングアウト」のタイミングでした。

藤木さんは、自分はできるだけ早く交際相手に伝えるようにしていたことを説明しました。

一方で、参加者がグループに分かれて悩みを話し合う場になると、そもそも「カミングアウト」することの難しさを打ち明ける声が上がりました。
「好きな人を自分の人生に巻き込んでしまう、重荷を背負わせてしまう罪悪感がある」「幸せそうに結婚していく友達を見ていると羨ましい。自分はあんなふうに結婚できない、と思ってしまう」
藤木さんは、結婚は人生のすべてではないと前置きをしたうえで、「今回のイベントが同じような悩みを抱える人のヒントになれば」と話しています。

はじめは“犠牲ばかり”

そのヒントになりそうな話を、イベントに参加した男性から聞くことができました。沖縄県那覇市出身で、重い知的障害のある兄がいる稲福達也さん(32)です。
小学2年生のころから、毎日学校が終わると養護学校のバス停まで兄を迎えに行き、家で世話をしていました。父親は達也さんが小学6年生のときに県外に出稼ぎにいったまま帰らず、その後、母親と離婚。残された3人の生活はとても苦しく、達也さんが高校生になるころには300万円の借金を抱えるように。達也さんは進学を諦めて東京の自動車メーカーで期間従業員として働き始めました。土日は引っ越しのアルバイトをして、手元に5万円だけ残し、すべて実家に仕送りしました。3年間、1度も沖縄に帰らずに働き、借金を完済しました。

しかし、過労で体調を崩し、いったん仕事を辞めて沖縄へ帰りました。久しぶりに会った友人たちは、大学卒業を控えて就職活動の真っ最中。みんな、前向きに生きているように感じました。でも、自分と家族はずっと同じ。生活は自分の仕送り頼みのまま。自分だけが何もかも犠牲にして働いて、その先に何があるのか。抑えていた感情が、爆発しました。

母親に「自分にこういう思いを味わわせるために生んだのか。もう家族の犠牲になるのは嫌だ。自分の人生に集中したい」と切り出し、縁を切ると宣言しました。

ただ、家族と縁を切る手続きについて調べると、自分の身元保証人がいなくなってしまうことに気付きました。次第に、「持続可能な家族のかたち」を作らなければいけないと考えるようになった達也さん。気持ちを切り替えて、公的な支援について調べ、母親が働けるように、兄には施設に入所してもらいました。達也さんも再び働き始め、正社員への登用試験にも合格しました。

一方で、うまくいかなかったのは、結婚でした。当時、達也さんには10年にわたって交際していた女性がいましたが、別れてしまいました。
「相手の家族が兄のことを気にしているのではないかと感じていました。すれ違いが続き、最終的には自分から別れを切り出しました」(達也さん)

ほぼ初対面でカミングアウト

転機が訪れたのは、3年前でした。達也さんは、自宅近くのバーで、後に妻となる祐子さん(42)と出会いました。ほぼ初対面の祐子さんに、達也さんは、自分の兄のことや母子家庭で育ったことなどを率直に打ち明けました。一方で、家族それぞれが自立して生活できるように環境を整えたことも合わせて伝えました。打ち明けられた祐子さんは、すぐにその人柄にひかれ始めました。
「ほとんど初対面で家族の話を聞かされて、こんなことを話すんだとびっくりしました。でも、オープンに話してくれて、困難にぶつかっても一緒に話し合って乗り越えることができる力がある人だと感じました」(祐子さん)
交際して半年で、結婚を意識。祐子さんは、母親にメールを書きました。
「彼の親は離婚して母子家庭、お兄さんは知的障害があり、いまは施設。経済的には苦労したし進路の選択肢も狭かっただろうけど、そのぶん、自分で考えて動く力がある。/いずれ会わせたいから、少しずつ話していくね」
その後、達也さんと会った両親は、結婚に賛成してくれました。ふたりはおととし5月に結婚。祐子さんは、「どんな人と結婚しても、病気とか介護とか、なんらかの障害は避けて通れないと思います。“今”障害者のきょうだいがいるから大変だ、ではなく、“この先”どんな困難にぶつかっても、この人なら話し合って乗り越えて行けそうと思うことができました」と話しています。
達也さんは、こう話しています。
「障害者が身内にいる人には、なおさら恋愛をしてほしいです。自分と家族だけじゃない世界が広がるし、受け入れてもらうにはどうしたらいいか考えていく過程で魅力や強さを手に入れる。そして、受け入れてくれる人がいることもわかる。自分には障害者のきょうだいがいるから幸せになってはいけない、と考えるより、みんなで幸せになるためにどうするか考えてほしい」

あなたはどう考えますか

障害のある人だけではなく、そのきょうだいも複雑な問題を抱えていることは、あまり知られてきませんでした。「きょうだい児」が抱える結婚の問題。皆さんはどう考えますか。私たちはこの問題について取材を続けたいと思っています。ぜひ、ご自身の経験やご意見をお寄せください。

アドレスは次のとおりです。
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