盆栽王国が抱える深き悩み

盆栽王国が抱える深き悩み
盆栽は手入れが大変だ。ものになるまでに大変な時間がかかる。苗から育てたり、買ってきて育てたり。ケースはさまざまだが、毎日の細かな管理が欠かせない。
ただ、それだけの価値があり、数千万円の単位で取り引きされたものもある。数十年間育てたもの、樹齢400年のもの、それを育てていない誰かが深夜に一瞬で持ち去る。そんなどろぼうが相次いでいる。手塩にかけた芸術品はどこに行ったのだろう。
(さいたま局記者 清有美子、浜平夏子/ネットワーク報道部記者 後藤岳彦、玉木香代子、田隈佑紀)

パーカーの男

日本の盆栽王国は埼玉県です。関東大震災で被害を受けた東京の盆栽業者が多く移り住んだこともあり、「盆栽美術館」や、盆栽園が集まる「盆栽村」まであります。日本の盆栽の出荷・販売数量の70%を占めているというデータもあります。

その盆栽園で見せてもらった防犯カメラの映像は衝撃でした。
撮影は去年11月1日の午前2時20分ごろ。パーカーのフードを頭からすっぽりとかぶった人物が、さいたま市の盆栽園の棚から特定の盆栽を、それも“迷うことなく”選んで外に運び出して、いや、盗み出していました。

盗まれたのはおよそ10鉢、300万円ほどの値をつけようとしたものもありました。

防犯カメラは、その半年ほど前にも、およそ10鉢が盗まれたため、設置したものでした。

カメラには、携帯電話で撮影しながら高価な盆栽を物色するような人物も映っていたといいます。

「とても残念です。夜の見回りを強化したり、盆栽の撮影をやめさせたりするなどの対策を検討したい」(盆栽業者 浜野博美さん)

高価な盆栽が狙われる

そう、盆栽王国で高価な盆栽の盗難が相次いでいるのです。

埼玉県川口市では今月13日の朝、盆栽業者が手塩にかけて育ててきた4つの盆栽が盗まれました。最も高価なものは、樹齢400年とされ、販売するとすれば最低でもおよそ600万円になると言います。
盆栽業者の飯村誠史さんも、特定の高価なものが計画的に狙われたと感じています。

「3000鉢もある盆栽のうち比較的、高価な盆栽ばかりが盗まれているんです。計画的でないとできない。精魂込めてつくった盆栽で本当に悲しい」

盆栽は海を越えたか?

取材をすると、一晩に100鉢以上が盗まれたという業者もいました。川口市の業者で3年前から毎年秋ごろに被害に遭っていて、盗み出されたのは、
▽去年はおよそ10鉢
▽おととしは100鉢以上
▽さきおととしはおよそ数十鉢でした。

「被害総額ですか?だいたい6000万円くらいです」(盆栽業者 松岡清之さん)

防犯カメラも設置した、番犬も飼った、敷地に有刺鉄線も張った。しかし番犬も殺害され、有刺鉄線は切断され、盗難が繰り返されているそうです。
防犯カメラには、前かがみになって大きな鉢を抱え、そろそろと歩きながら盗み出す様子が映っていました。

よく似た盆栽

松岡さんはどこかに転売されていないか、インターネット上を調べていたところ、あるサイトに目が止まりました。

ベトナムの人が自分の庭を撮影した写真。そこに盆栽園にあったものとよく似ている複数の品があったというのです。
左)盗まれた盆栽 右)松岡さんが見つけたというベトナムのWEB上の写真
「自分で育てたものなので、間違いない。転売されて、富裕層の手に渡ったのかもしれない。警察にも届けたが、海外なので捜査は難しいのではないか」(松岡さん)

偶然の遭遇

盗まれた盆栽は、海外に持ち出されたのではないか、そう話す業者は隣の東京にもいました。東京 江戸川区で盆栽園を経営する小林國雄さんです。

海外とも取り引きをしていて、ロンドンに出張中に、弟子から電話が入りました。

「盆栽が鉢だけ残して中身がなくなっています」
盗まれたのは3鉢で、大きいものは90センチあり、被害額は合わせて1500万円といいます。中には中国の愛好家に売却契約を済ませていたものもありました。

「弁償にわび状に本当に大変だった。木刀持って飛び出したいくらい許せなかったよ」(小林さん)
左)盗まれた盆栽 右)ベトナムで見つけたという盆栽
ところが翌年、取り引きのあるベトナムの盆栽園に行ったとき、盗まれた盆栽を、偶然、見つけたというのです。業者に聞くと、別のベトナムの業者から買ったと言われたそうです。

柴犬に防犯カメラ

二度と盗まれないよう番犬の柴犬を3匹に増やし、盆栽園を取り囲むように防犯カメラを設置しました。

盆栽に関わっておよそ40年。小林さんはこれまでに30を超える国々に出向いたり、海外からも弟子をとったりして盆栽の魅力を伝えてきました。
今や、盆栽園を訪ねる人の7割も海外からの人たちが占めています。

「海外の多くの人たちの間で盆栽を愛でる文化が広がってきたことは本当にうれしい。けれど、海外の盆栽ブームを受けて大切な盆栽を盗むやつに愛でる気持ちなんてこれっぽっちもないね。本当に許しがたい」(小林さん)

目利きの犯行?

小林さんは盆栽のプロが盗難に関わっていると考えています。

盆栽の価値の見分けは素人には難しいのです。左右の盆栽、値段が数十倍違うと言います。違いがわかるでしょうか。
高いのは右側の盆栽。樹齢200年ほどで根の張り、立ち上がり方も力強く枝の付き方もバランスが良いそうです。売値は川端康成が持っていたとされる“ゆかり”もあいまって数千万円以上です。

対して左側は樹齢100年ほど。根からの立ち上がり方がまっすぐなのは単調とされ、枝の付き方も右と比べればいびつだそうです。売値は100万円ほど。

「盗むのは、間違いなく盆栽のプロだね、目利きに違いないよ、高級なやつを狙えるんだから」

ただ、持ち出しは難しい

目利きが関わっていそうな盆栽盗難。愛好者などでつくる日本盆栽協会に聞くと、盗んだあと、海外に持ち出すのは難しい面もありそうです。

「国内の盆栽園に持ち込まれたとすると、高級品ほど“どこで手に入れたのか?”とたずねられます。“この盆栽を盗まれた”と写真が出回ることもあります。国内に出回ることは考えにくい」(日本盆栽協会の担当者)

「一方、高級盆栽は形を崩さないように運ばなければならず、海外に持ち出すには手荷物に入れること自体が難しい。さらに、植物の病害虫の侵入を防ぐために植物検疫を受ける必要があり、その段階で見つかる可能性がある。簡単に持ち出すことは難しいと思う。持ち出されたとすれば、何か特別な犯罪ルートがあるのかもしれない」(日本盆栽協会の担当者)

盆栽はわが子

盆栽は日本で独自に発展を遂げた生きた芸術品です。美しい姿になるには長い時間がかかり、わが子のように苦労して苦労して、愛でて愛でて育てていきます。

「盗むやつに盆栽を愛でる気持ちなんてこれっぽっちもないね」

小林さんの言葉が重く響きます。