激減のタコ 不可能だった養殖を実現へ

激減のタコ 不可能だった養殖を実現へ
スーパーで気軽に買えたタコが、最近値上がりして買いづらくなったと感じている方も、多いかもしれません。タコの国内の漁獲量が最盛期の3割にまで落ち込み、海外からの輸入も激減しているためです。
強い危機感をもった広島県尾道市にある研究機関は、不可能とも言われてきたタコの養殖につながる技術を開発しました。(広島放送局記者 寺西源太)

タコなしタコ焼き

取材のきっかけは、居酒屋でタコの刺身を食べていた時の店主のことばでした。

「最近、タコが手に入りにくくて困ってる。このままじゃ“タコなしタコ焼き”が出回るかもしれないよ」

冗談かと思いきや、店主の目は真剣そのもの。
これはただごとではないと感じたのです。
取材を進めると、確かにタコを扱う料亭でも、ここ数年、価格が高騰し仕入れに困っているといいます。
タコの価格は、いまや1キロ1400円と、高級魚とされるタイやブリを抜いて、10年前の1.5倍にまで上がっていたのです。

最盛期の3割 輸入も激減

なぜ、タコは値上がりしているのか。私は瀬戸内海有数のタコの産地、広島県三原市に向かい、長年、タコ漁を続けている赤穂清人さんの漁に同行しました。

軽快な手さばきで海底から引き上げられたタコつぼからは、大きなマダコが次々と顔を出しますが、赤穂さんの表情は険しいものでした。

「もう全然だめだよ。漁獲量は例年の3分の1以下で、この先どうなるのかわからず不安だ」(赤穂清人さん)
漁獲量の減少は世界共通の悩みです。乱獲や海の環境の変化などが指摘されていますが、原因はわかっていません。

昭和43年のピーク時には国内で年間10万トン以上水揚げされていましたが、ここ数年は3万トン余りにまで落ち込んでいます。

海外からも輸入していますが、中国など世界的な需要の高まりで、最近では輸入量も激減し価格が高騰。「庶民の味」だったタコは、「高級食材」に変わりつつあります。

“タコの養殖” 実現へ

本当に“タコなしタコ焼き”を食べなければいけなくなるのか。

そんな心配を打ち消してくれるかもしれない研究が、広島県尾道市にある「水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所」で進められています。

タコの養殖は極めて難しく、国内の数多くの水産研究機関が昭和30年代から試行錯誤を繰り返してきましたが、安定した養殖技術を確立できなかったと言います。

それが、これまで「不可能」とも言われてきたタコの養殖を、大きく前進させることに成功したというのです。
施設に並べられた水槽の中をのぞいてみると、1円玉くらいの大きさに育った、かわいい稚ダコがたくさん泳ぎ回っていました。

「ここまで育てるのに、50年かかりましたよ」
笑顔で語りかけてきたのはプロジェクトの中心メンバー、山崎英樹さん。苦難の道のりがあったことを教えてくれました。

原因不明の死

漁獲量の減少が顕著なタコ。このままでは将来、タコがいなくなってしまうのではないかと強い危機感をもった山崎さんは、10年以上前からタコの資源を回復させようと養殖技術の開発に取り組んできました。

しかし、ふ化したタコは20日以内に9割近くが原因不明で死んでしまい、ほぼ壊滅状態に。

「ふ化はしても成長しないーー」
この問題が半世紀以上にもわたって、研究者たちを悩ませてきました。

餌や水温を変えるなど、あの手この手で試してきましたがうまくいかず、研究をあきらめようかと悩んでいた山崎さん。

水槽を眺めていたある日、水の流れに原因があることを突き止めたのです。
酸素を供給するエアポンプの泡は上に向かって流れます。その流れが水面までたどりつくと、今度は跳ね返って下向きに流れるため、小さなタコはそれに巻き込まれて水槽の底に流されていたのです。

このことが餌を食べる時に問題になっていました。幼いタコは本能的に天敵の多い海底を嫌がるため、底に流されると食べようとしていた餌を離して浮上してしまうのです。再び餌を捕まえても同じ事を繰り返してしまい、衰弱して死んでいたのです。

対策1:カギは“水の流れ”

それならばと、強い流れが起きるエアポンプを使うのをやめ、酸素を含ませた海水を直接、底のほうから流してみたところ、水の流れは従来の下向きから上向きへと変わりました。

効果は絶大。
タコが生後20日まで生き残る割合は、これまでの14%から77%に一気に改善しました。

対策2:餌の餌に着目

さらに山崎さんが注目したのは稚ダコが食べる餌です。

「餌だっておいしい餌が食べたいんです」

そう言いながら見せてくれたのは、タコの大好物、ワタリガニの赤ちゃんです。

山崎さんは、このワタリガニの赤ちゃんにプランクトンを与えて栄養価を高めてからタコに与えてみたところ、生後20日のタコの体重は従来は2ミリグラムだったものが、改良後は10ミリグラムに。

生き残る割合だけでなく、成長速度を格段に上げることにも成功しました。

半世紀越しのタコ養殖に活路

この成果に、いまでは岡山県や香川県それに民間企業も加わり共同研究を行っていて、タコの養殖に熱い視線が注がれています。

山崎さんは「50年間越えられなかった壁を、今回越えられました。5、6年から遅くとも10年先には皆さんの食卓に養殖したタコを届けたいです」と意気込んでいました。

今後は、ふ化したタコを出荷できるサイズまで安定的に成長させることが目標です。

また、タコは成長すると共食いをすることがあるので、これをどう防ぐかも課題だということです。

研究者の努力によって、養殖されたタコが当たり前のように、食卓に上がる日もそう遠くないと感じました。研究所のさらなる成果に期待するとともに、次は養殖されたタコの味について報告したいと思います。
寺西源太記者
平成28年入局
広島放送局をへて
現在、福山支局