株価の波乱要因?! 超高速取引の実態は

株価の波乱要因?! 超高速取引の実態は
人がまばたきをするよりもはるかに速く株を売買するーーー。今、株式市場で「超高速取引(HFT)」が存在感を高めています。最近の株価乱高下の要因になっているとも指摘されますが、業者のほとんどは海外勢で取り引きの詳しい実態は不透明です。どういった投資手法がとられているのか。今回、日本に本拠をおく唯一の業者が取材に応じました。(経済部記者 櫻井亮)

研究室のような社内

訪ねたのは、東京駅に近いオフィスビル。国内に本拠をおく唯一の高速取引業者「ダルマ・キャピタル」です。

中に入って目にしたのは、いくつかのデスクと会議室が1つあるだけのシンプルなオフィス。社員もわずか8人で、大量の取り引きを瞬時に発注している様子はうかがえません。
塩谷明達代表
「ここでは取り引きは行いません。取引所のシステムの近くに設置したコンピューターが自動で発注しています」

こう話すのは、塩谷明達代表(46)。もともと外資系投資銀行のトレーダーでしたが、「運に左右されがちなトレーディングよりも、科学的な裏付けのある仕事がしたい」と会社を辞め、2015年に今の会社を設立しました。

運用額は非公表ですが、「1回数万円の単位で売買を繰り返し、1日では50億円から100億円ほど売買する。ただ、規模でいえば海外の大手業者の数十分の1程度」(塩谷代表)だと言います。
オフィスにはホワイトボードや黒板がいくつもあり、見慣れない数式が多く書かれていました。塩谷代表らは高度な数学を使って取引プログラムを開発。それをもとにコンピューターが自動で売買を繰り返します。投資会社というよりも、大学の研究室とも言えるような雰囲気を感じました。

利益を生む戦略とは

超高速取引で、どう利益を上げているのか。塩谷代表は2つの戦略を挙げました。

1つは「マーケットメイク」。同じ銘柄に売り注文と買い注文の両方を出し、ほかの投資家の取引相手になる手法です。ある銘柄に100円で買い注文を出すと同時に101円で売り注文を出し、差額の1円を儲けるイメージです。どの銘柄に、どのくらいの量の売り注文や買い注文をいくらで出すのか。その点が利益を上げるための最大のノウハウで、「中心極限定理」と呼ばれる数学の理論をもとに、市場全体の売買状況や株価に応じてコンピューターが常に最適と思われる価格を提示していくと言います。

もう1つが「アービトラージ(=裁定取引)」。東証など複数の場所で取り引きされている銘柄について、値動きのタイミングで、一瞬、価格に差が生じることがあると言います。その瞬間に、安いところで買って、高いところで売る手法です。

“ナノ”単位の勝負

自社開発のプログラムについて説明する塩谷代表
これら2つの戦略そのものは広く知られていて、ライバル同士ではどうしてもプログラムが似通って来ると言います。このため究極的には、市場の変動に応じていかに速く注文を出せるかがカギになります。

この会社は、取引所のサーバーに近い場所に自社のサーバーを置き、注文を出しています。ケーブルの距離が短ければ短いほど、情報をやり取りするスピードがわずかでも上がるためです。

さらに、東証から送られてくる売買の情報を受けてから、次の注文を出すまでのプログラムの反応速度をなるべく速くするようシステム開発を重ねています。その速度は1秒の10億分の1、「1ナノ秒」の単位での競争になると言います。
「ぬれ手にあわの商売と思われがちですが、スピードを上げるためのコストが極めて高く、競争はしれつです。開発競争に敗れて廃業する会社も多いのです」(塩谷代表)

相場への影響は

想像のつかない速度での株取引。実態が見えにくいこともあり、最近の株価乱高下の要因になっているとも指摘されます。しかし、その点について塩谷代表は、こう話します。
「私たちは市場の状況に応じて売買を行っているだけで、自分たちから株価を乱高下させようと仕掛けることは一切ありません。むしろマーケットメイクは価格の変動を和らげる効果があります。高速取引はアルゴリズム取引の一種でしかなく、市場に与える影響という文脈では区別して考えてほしい」(塩谷代表)
高速取引自体が原因ではないと言うのです。

実態把握 どこまで

世界的に広がる超高速取引。東京市場でも、取り引きの半分程度を占めるまでになっているとも言われます。

実態把握のため、日本では2018年4月から事業者が登録制になり、これまでに海外勢9社と日本勢1社が登録(2019年1月時点)。システムトラブルや誤注文を防ぐ体制を整えることや、取り引きの記録や売買プログラムを一定期間、保存することが義務づけられています。

マーケットメイクのように市場の流動性を高める効果が期待できる戦略がある一方、投資戦略によっては、市場の混乱を招く可能性も否めません。登録制のもとでの、より詳しい実体把握が欠かせないと言えます。
経済部記者
櫻井亮

平成24年入局
宇都宮局をへて
東証・証券担当