デートに行ける!作業着の進化が止まらない

デートに行ける!作業着の進化が止まらない
作業着って、ボロボロで、汚れてて、泥臭い…漠然とそんなイメージをもっていた私。でも、今「スーツ」代わりに着られて「デートに行ける」ほど、作業着は激変していました。(ネットワーク報道部記者 藤目琴実)

人生が変わるスーツ

“生まれ変わった作業着”を象徴するのがこちらのネットCM。そのあらすじをお伝えすると…。
“スーツに見える作業着”に出会って人生が大きく変わったというストーリーになっています。

ビフォー/アフターの激しい動画はインパクトが強く、ネットでは「こんなのほしかった」「学校の先生とかこれちょうどいい」と評価する声も。一方で「職業に貴賤をつけている」など批判的な意見も出ていました。

挑戦的なCMとネット上のざわつき、これは取材するしかない…そう思ったのです。

スーツに見える作業着って、いったい誰がどういうねらいで作ったの? 調べてみると、正体は水道工事の会社でした。水道工事の会社がスーツに見える作業着? 謎が深まり、東京・豊島区にある会社を訪ねてみることにしました。
迎えてくれたのは、中村有沙さん(32)。ス-ツに見える作業着の発案者であり、販売する「オアシススタイルウェア」の社長です。

実はこの会社、水道工事の会社を出発点に事業の多角化を進めているのだそうです。
中村さんは「おもしろいことをやってる会社だな」と思い、東京大学を卒業後、周りが大手企業に就職する中、入社したそうです。

どうして作業着をスーツ風にしようと思いついたのか? 率直な疑問をぶつけました。

「本業の水道工事では採用活動に苦戦していました。前年の技術職の採用はゼロ。人手不足の上、若い世代からは汚れる仕事が避けられて困り果てていたので、まずは制服からリニューアルしようと提案したんです」(中村有沙社長)

当時、人事担当をしていた中村さん。水道工事の技術職の社員のひと言をふと思い出したそうです。

「いいよな、営業のお前らはスーツで」

水道設備のメンテナンスを行う現場の社員は作業着姿。帰りに飲み会があると、わざわざ着替えを持参していました。

「作業着で電車に乗って通勤するのが恥ずかしい」という若手の声も聞こえてきました。
『若い人たちの作業着に対するイメージを変えたい…』

リニューアルした社内の制服のコンセプトは「デートに行ける作業着」。試行錯誤の末、たどりついたのが“見た目スーツ”の作業着だったそうです。

見た目はスーツ風ですが、作業に支障が出ないように撥水性や伸縮性など機能にこだわりました。試作品を着てもらい、現場の社員から意見をもらって改良を重ねたそうです。

うちもほしい!うちも!

水道工事会社による自社の制服リニューアルだったはずのスーツ風作業着。ところが、思わぬ展開が。

新しい作業着で働く社員を見た取引先から「うちの会社でも導入したい」と相次いで声がかかったのです。
その1つ、「三菱地所コミュニティ」。全国で約4000のマンションを管理する大手管理会社です。

マンション管理員の制服として、スーツ風作業着を導入しました。実際にどんな効果があったのか、現場を取材させてもらいました。
東京・新宿区にある24階建てのマンション。“スーツ風作業着”姿の管理員、中岡美津雄さんが働いていました。定年後、管理員の仕事をはじめたそうです。
「定年までは長年スーツで働いていたんですよ。なのでジャケットを羽織ると気持ちが切り替わりますね。ここでの仕事は、ゴミ出しや電球の交換などの作業が多いですが、ストレッチの効いた生地で動きやすいです」(中岡さん)

住民に聞いてみると「きちんとした感じがあって、マンションのグレードが上がる気がします」と特に女性から好評のようでした。
導入した三菱地所コミュニティの壬生真紀子さんは「住民=顧客満足度の向上を目指して、何かできないかと検討している時に、スーツ風作業着の存在を知りました。住民の方にとっては一生住む場所なので、高級感などの付加価値も求められていると思います。導入したことでお客様の満足度やブランドの向上につながっていると感じています」と話していました。

ショッピングセンターに出現!

スーツ風で話題となった作業着ですが、業界を取材してみると、アウトドアやスポーツの世界でも存在感を発揮していました。悪天候や真冬の厳しい現場にも耐える、機能性に優れた作業着が、今、安価なアウトドアウエアとしても人気を集めているのです。
東京・立川市のモノレールの駅を降りると、目の前にある巨大なショッピングセンター。そのテナントとして去年9月にオープンしたお店を訪ねました。

明るい木目調の店舗は、一見するとアウトドアのお店かな?という印象。しかし、壁には「WORKMAN Plus」の文字。そうです、作業服と作業用品の専門店、あの「ワークマン」です。
店内には平日の午後にもかかわらず多くの客の姿がありました。

防寒ブーツを品定めしていた20代の夫婦は、ショッピングセンターを歩いていてたまたま入店したとのこと。

バイクが趣味という夫は「ワークマンはライダーの間で話題になっていたんですが、店に入ったのは初めて。防寒の靴はデザインもよくて、バイクにも釣りにも活躍しそうです」と早速、足に合うサイズを探していました。

20代の男子大学生2人組は「ワークマンっていうと作業服のイメージがあったので、カジュアルでデザイン性が高いことにびっくりしています。価格が安いのが学生にはありがたいです」と話していました。
印象的だったのは、女性客の多さ。オープン時のアンケートでは客全体の50%近くにも上ったそうです。女性に人気の商品の中には、意外なものも。レストランなどの調理場用の滑りにくい靴。雨の日でも滑りにくいと妊婦の間で話題となり、小さいサイズは売り切れが続いているそうです。
ワークマンプラスは、2018年秋から展開する新業態としてショッピングセンターを中心にこれまで4店舗を出店。なぜ、この業態を始めたのか?営業企画部の加藤良介さんに話を聞きました。
事の始まりは3年ほど前。ワークマンの防水・防寒作業服がバイクのライダーのSNSで話題になりました。高機能なのに価格が安い点が評価され「ツーリングはこれで十分」「コスパが最強」とSNSで拡散。バイクや釣りを楽しむ人たちの間で支持が広がったそうです。

もともと、過酷な環境で毎日着ることを想定してつくられた作業服。痛んだら買い替えられるように価格は低く設定され、アウトドアブランドの2分の1程度、6000円台で販売しているそうです。

きっかけはリーマンショック

実は、デザイン性の高い作業服は、業界全体の流れとなっています。きっかけは10年ほど前のリーマンショック。建設業の落ち込みは激しく、社員に制服を支給することができなくなった中小企業では「1着は支給するけど、あとは自前で買ってくれ」ということもあったそうです。

「どうせ買うならかっこいいものを」と考えた人たちがスタイリッシュな作業着を求める動きが広がり、機能性+デザイン性という流れになったそうです。

じわり、アパレルに浸透

冒頭で紹介した「スーツに見える作業服」。ゴミ回収業者、設計事務所、イベント運営会社など、導入事例はおよそ100社に上りました。さらにデザイン性を高めた新たなブランドを立ち上げ、海外展開も視野に入れているそうです。

スーツに、カジュアルに、スポーツにと進化する作業服。次はどんなものが登場するのか?しばらく目が離せそうにありません。