夢を追い続ける会社員“ラッパー”

夢を追い続ける会社員“ラッパー”
皆さん、「ラップ」をご存じでしょうか?メッセージ性を込めた歌詞をリズムに合わせてしゃべるように早口で歌うのが特徴です。日本での広がりはまだまだ限られていますが、ラップに魅了されふるさとや家族を思いながら“ヒップホップドリーム”を追い続けている男性を紹介します。(佐賀放送局記者 本田光)

貧困や差別を歌ったラップ

1970年代初頭のニューヨークの一角
リズムに合わせてしゃべるように早口で歌う「ラップ」。「ヒップホップ」とも呼ばれるその音楽は、1970年代のニューヨーク、アフリカ系アメリカ人などが集まる貧困地域で行われていたことば遊びに起源があるとされています。

時を経るにつれて、貧困や差別に苦しむ人たちの現実をありのまま表現することで共感を集め、社会性を帯びていきます。
ケンドリック・ラマー
アメリカの有名「ラッパー」ケンドリック・ラマーは、去年、優れたジャーナリズムに贈られるピュリツァー賞を受賞するなど、今ではその人気は確固たるものとなっています。

日本でも、1980年代にタレントのいとうせいこうさんたちが先駆けとなって取り入れ、その後、数々の“ラッパー”が誕生しましたが、その広がりは限定的です。

日本語ラップは難しい?

ラップは、「韻を踏む」=同じ母音のことばを繰り返す、ことでリズミカルになり意味も理解しやすくなるとされています。

この方法は、飛鳥時代に天武天皇が詠んだ和歌、
淑き人の よしとよく見て よしと言ひし
芳野よく見よ よき人よく見つ
などにみられるのをはじめ、現代でもこれを意識した数多くの楽曲があります。

英語では、否定形もNOTやNEVERなどで表現し、単語で区切るため、韻が踏みやすいとされているのに対し、日本語は文章全体でニュアンスを表現することが多く、韻が踏みにくいとされています。

このため、ことばを置き換える「倒置法」や、歌詞の最初のほうで韻を踏む「頭韻」を用いるなど、さまざまな方法が模索されてきました。

ラップに魅了されて

日本語ラップの曲作りの技術で定評がある「ラッパー」がいます。「DEJI」こと、出嶋洋平さん(37)です。

歌の流れを損なわずに、数多くの韻を踏んでいる作品を生み出してきました。高校まで暮らしたふるさと佐賀を思って作った「佐賀から来た韋駄天」という歌では。
「98」「18」「田舎町」「わからない価値」「友達」「行ったし」のいずれも末尾のことばの母音が立て続けに「ai」で韻を踏んでいます。
「音にばっかりこだわると意味がわからなくなるし、意味にこだわると音として聞けなくなる。両立させるところが肝ですね。スタイルにもよりますが、私の場合は両方あってはじめて優れたラップになりうると思っています」

夢を追い続けて

DEJIさんがラップに出会ったのは高校2年生の時。軽快なリズムや奥深さに心を打たれ、自分でも手がけるようになりました。
大学時代のDEJIさん
早稲田大学に進学したあとも、情熱が衰えることはなく、ついにはプロのラッパーになることを決意しました。就職はせず、作品を作ってはステージに上がり続けました。

しかし、現実は甘くありませんでした。ラップだけで生活していけるのは、ごく一握りの人たちだけ。

しばらくはアルバイトをしながら生活していましたが、7年前結婚したのをきっかけに、都内のIT企業に就職しました。
2児の父親となった今では、平日はサラリーマン、休日はラッパーとして、活動を続けています。

ふるさとからのプレゼント

地道に活動を続けてきたDEJIさんに、うれしいニュースがありました。ふるさとの佐賀県から、去年の明治維新150年を記念した楽曲をラップで制作してほしいという依頼があったのです。
作品には、明治維新を主導した“薩長土肥”の1つで幕末の佐賀(肥前)藩の近代化の礎を築いたとされる10代藩主、鍋島直正の偉業をたたえ、佐賀を誇りに思う気持ちを込めました。
そして、去年10月、地元で凱旋ライブも行いました。
佐賀市での凱旋ライブ(去年10月)
「今の自分を育ててくれた佐賀に恩返しがしたい。それを大好きなラップでできるのなら、こんなうれしいことはないですね」
駆けつけた地元のファンの1人も「佐賀のことを忘れてないとか地元を大切にしてくれていることとか、仕事をしながらでも夢を追い続けて頑張っている姿をみると自分も頑張ろうと思う」と話していました。

夢に向かって

いずれはさらに大きな舞台に立ちたいと話すDEJIさん。これまでに150曲以上作り、アルバムも6枚リリースしました。

最近のテーマは、仕事や家族、子育て。年とともに変化してきていますが、ラップと出会った20年前のままに、自分の思いを発信し続けたいといいます。
私自身、社会人になって挫折も経験しました。しかし、DEJIさんを見習って、夢や目標を大切にしたい。新年にあたって気持ちを新たにしています。
佐賀放送局記者
本田 光

平成25年入局
現在は県政を担当