スマホ決済は地方を救う?

スマホ決済は地方を救う?
IT企業や、銀行、コンビニなどが続々と参入する「スマホ決済」。財布を出さずに、手軽に支払いができるため、利用する人が増えていますよね。こうしたキャッシュレスでの決済は都市部に偏りがち…と思われていますが、実は地方では「活性化の切り札」として独自の広がりを見せています。旗振り役は、地域密着の金融機関です。(経済部記者 大江麻衣子)

地方で注目 スマホ決済の現場は

キャッシュレスが一気に進んだ場所がある、と聞いて訪れたのは岐阜市のショッピングセンターです。ここは去年10月から“館内まるごと”でスマホ決済を導入。100余りのテナントのほとんどでスマホ決済が可能です。
仕掛けたのは、地方銀行の「大垣共立銀行」。QRコードによるスマホ決済アプリを展開するベンチャー企業「Origami」と業務提携し、このアプリの導入を一気に進めました。

地方銀行みずからが導入を進めたのは、地方ならではの事情がありました。地方の小規模なお店にとっては、キャッシュレス化のノウハウが少なく、どのように決済サービスを利用すればよいのかわかりにくいのが現状です。
そこで、ふだんからつきあいのある地方銀行がお店に出向いて、手取り足取り、スマホ決済アプリの登録方法や使い方などを伝授。多くの店が一度にキャッシュレス化することで、都市部から進出した大型店舗への対抗策にもなるということです。
ショッピングセンターの運営会社も、タブレット端末を各テナントに無料で貸し出すなどキャッシュレス化を後押し。導入から2か月となる去年のクリスマス商戦は、スマホ決済のキャンペーンを展開したことなどから、客数が伸び、前の年と比べて館内全体の売り上げが10%ほど増加したということです。

効率的な経営にも

スマホ決済で経営のしかたが変わったお店もあります。岐阜市の隣、大垣市の美容院では、去年4月の導入以降、来店客の半数以上がスマホ決済を利用。顧客の決済データから、店の来店頻度などの情報がすぐにわかります。
そして割り引きクーポンを案内することで商品のまとめ買いが増えるなど客単価が20%ほど上がりました。現金を数えるレジ締めの作業も減り、限られたスタッフで効率的な経営につながったと言います。

もちろん、銀行にとっても、地元の店舗が潤えば、融資拡大のチャンスが広がるなどのメリットがあります。
担当する大垣共立銀行IT統括部の山田和幸さんは「地方は、キャッシュレスを使って売り上げを拡大する余地が大きい。スマホ決済のデータを生かすことで“身の丈にあったIT”を活用し経営改善にもつながると思います」と話していました。

“地域通貨”で地元消費

岐阜市から北に車で2時間。古い町並みが残る高山市やその周辺では、スマホ決済による地域通貨「さるぼぼコイン」が普及しています。手がけたのは地元の飛騨信用組合で、800余りのお店で利用できます。スマホ決済のチャージ額の1%をポイント還元する仕組みで、地元での消費を増やすねらいがあります。
利用者の小峠賢次さんは、「さるぼぼコイン」を利用することで地元で消費しようという意欲が高まったといいます。日頃の買い物や飲食だけでなく、なんと乗用車もこのコインで購入しました。小峠さんは「ポイントもつくし、地元にも還元できると考えました」と話していました。

店や企業が受け取ったコインは、企業どうしの仕入れなどの決済にも使われ始めていて、域内でのお金の循環を生んでいます。まさに「お金の地産地消」です。
飛騨信用組合の山腰和重常務理事は「地元で使ったお金が外に出て行くのではなく、地域でぐるぐると回ることで域内GDPの拡大を目指したい」と話していました。

地域に根ざしたスマホ決済 全国で

地域の特徴を生かしたスマホ決済は全国で広がっています。青森県では「ねぶた祭り」に訪れる観光客の消費拡大につなげようと、青森銀行が企画して市街地のお店でスマホ決済すると10%割り引きになるキャンペーンを展開しました。

千葉県木更津市では、君津信用組合などが手がける地域通貨「アクアコイン」の運用を去年10月から開始。地方銀行独自の決済サービスでは、「はまPay」(横浜銀行)、「YOKA!Pay」(福岡銀行)、「Payどん」(鹿児島銀行)と地元に根ざした名前のサービスが相次いで登場しています。

キャッシュレス決済でポイント還元されるという仕組みが、消費税率引き上げに伴う景気対策として盛り込まれましたが、地域密着の金融機関が後押しすることで、なかなか進まないとされてきた地方のキャッシュレス化が広がるかもしれません。

ただ、実際に現場を取材してみると、さまざまな決済サービスが乱立することでかえって普及を阻むことにつながらないか、今後の課題だと感じました。スマホ決済で地域の暮らしを豊かにできるのか、注目していきたいと思います。
経済部記者
大江麻衣子
平成21年入局
水戸局 福岡局を経て
経済部 金融担当