なりたい自分になる。VTuberが拓く!

なりたい自分になる。VTuberが拓く!
日本観光をPRする大使、テレビ番組の司会者、漫画雑誌のグラビア出演。2018年、これらに起用されたのは、タレントでもアイドルでもなく、バーチャルYouTuber(VTuber)と呼ばれるキャラクターたちです。大きな注目を集めている理由を取材してみると、意外に深い背景が見えてきました。
(ネットワーク報道部記者 管野彰彦)

年の瀬のお台場が大変なことに!?

2018年の年末。東京・江東区の寒空の下に現れた長い列。お目当てはバーチャルYouTuber、キズナアイさんのコンサートです。

スクリーンに映し出されたキズナアイさんが、キレのある歌とダンスを披露すると、約2000人の観客がリズムに合わせて一斉にペンライトを振り、大きな歓声を上げます。
大阪公演のようす
オリジナル曲など14曲を熱唱、中には、Perfumeなどで知られる音楽プロデューサー、中田ヤスタカさんと制作した楽曲もあり、人気アーティストのコンサートのような熱気に包まれていました。

のど自慢に集結!

また、1月にNHKで放送された「バーチャルのど自慢」という番組では、バーチャルYouTuber13組が一堂に会し、自慢の歌声を披露。

なかには、馬の仮面をかぶった男性やゴリラの姿、また現役の漫才師によるバーチャルYouTuberも出場するなど、バラエティに富んだラインナップでした。
(1月10日午後11時55分から再放送予定)

バーチャルYouTuberって?

そもそも、バーチャルYouTuberとは何なのか。

「ユーチューブ」に動画を投稿している人を「ユーチューバー」と呼びますが、簡単にいうとそのキャラクター版のことです。

3次元(3D)や2次元(2D)のキャラクターが、人間に代わって動画の中で会話をしたり、ゲームの実況をしたりしています。

2017年の年末ごろから盛り上がり、2018年に一躍、ブームとなり、去年1月時点で、およそ200人だった人数は、この1年で30倍以上となる6000人に達しました。(ユーザーローカル調べ)

海外でも人気上昇 中国市場を狙う動きも

人気は国内にとどまりません。

中国でもキャラクターによる動画配信がはやり始めていて、30万人以上のチャンネル登録者をほこるキャラクターも出てきています。

バーチャルYouTuberの動画配信アプリを手がけているゲーム会社のグリーは、中国の大手動画配信サービスと協定を結び、日本のバーチャルYouTuberの動画配信を行っているほか、今後は中国向けの動画制作やグッズ販売なども進めていく計画です。

何が受けている?ブームの背景は?

バーチャルYouTuberの何が魅力なのか。

キズナアイさんのライブ会場で話を聞くと、ファンからは「何事も諦めずに頑張る姿が好き」とか「元気で明るいところが好き」といった架空のキャラクターという存在を超えて応援している人が目立ちました。
香港から来たファンの男性
設定の斬新さや動画の真新しさに加え、それぞれのキャラクターの個性に人気が集まっているようです。

技術革新と新サービスの登場

そして、ここに来て一気にブームを拡大させているのが、CG制作やアプリなどの技術革新による新サービスの登場です。

バーチャルYouTuberになるためには、一般的にはアバターと呼ばれる3Dキャラクターを作り、それを動かす必要があり、これまでは専門的な技術や高額な機材が欠かせませんでした。

しかし、アバターを動かすための機器が手ごろな値段で手に入るようになったうえ、アバターを誰でも簡単に作ることができるパソコンやスマートフォン向けのサービスが相次いで登場しているのです。
その1つ、去年8月にリリースされたパソコン用ソフト「Vカツ」(IVR)では、髪型や目の色、ほくろの大きさなど、あらゆるパーツを自由自在に変更することができます。

外部に制作を依頼した場合は300~400万円かかるともいわれる3Dアバターが、無料で作れるようになっています。

私も、アバター作ってみた

「カスタムキャスト」というスマートフォンのアプリは、アバター制作から動画配信までできる手軽さがうけ、10月のサービス開始から10日余りで100万ダウンロードを達成しました。
私も試しに、このアプリでアバター作りに挑戦しました。操作は画面を見ながら顔などのパーツを選んでいくだけで、思っていた以上に簡単です。あっという間に“もう1人の自分”ができあがりました。

アバターはスマホの内側カメラで顔や口の動きを読み取り、自分の動作に連動して動くので、まさに分身のような感覚です。
左:筆者   右:開発担当者
この時は、まだ女性アバターしか対応していませんでしたが、1月には男性アバターも利用できるようになるそうです。

アプリの開発に携わっているドワンゴの助田徹臣さんは「日本にはもともと、アニメやキャラクターの文化があり、流行する下地はあったが、2018年は通常なら3~4年かかるほどの盛り上がりが1年で起きた。2019年はさらに市場が広がっていくのではないか」と話していました。

夢をかなえるために

次々に登場するこうしたサービスを通じて、動画を見ていた個人が、みずからバーチャルYouTuberとして活動を始める動きが現れています。

関東地方に住む20代の女性、Aさん(仮名)。

声優になることが夢だというAさんは、「REALITY Avatar」(グリー)というアプリで、動画のフリートークなどを配信しています。

動画にはファンのコメントがつくほか、直接、会話することもあり、アドリブ力や表現力を学んでいるといいます。
Aさんが使用しているアプリ
また、このサービスでは、動画の視聴者からギフトという贈り物を受け取り、実際のお金に換えることもできます。

Aさんの場合は、生活できるほどの収入にはならないものの、活動費用に充てているといいます。
VTuberとしての活動は声優としての勉強になりますし、この活動が認められて評価されれば、将来的にはアニメなどの声優になるという夢に近づくと思っています。(Aさん)

性差や身体を超えたもう1人の自分

今回、バーチャルYouTuberに関わる人たちを取材していて、よく耳にしたのが「なりたい自分になれる」、「さまざまな制約を乗り越えることができる」という言葉でした。

アバターを使えば、顔を出さずに自分の好きなことを発信したり、歌を披露したりすることができます。なかには、男性が女性のキャラクターを使い、女性が男性のキャラクターを使うことで、性別にとらわれずに活動をしている人も数多くいます。外見だけでなく、声のトーンを変えたり、表情やしぐさも思いどおりになります。

取材した1人は「みんな子どものころはヒーローやアイドルになりたかった。でも、現実はそうではない。バーチャルYouTuberになることで、その願望をかなえているのではないか」と話していました。

“アバターが拓く”新たな可能性

アバターを使うことで、さまざまな壁を乗り越える。新たな可能性を感じさせるバーチャルYouTuberに出会いました。

石川県の精神科医、一林大基さんです。
去年11月、バーチャル精神科医として活動を始めました。

きっかけは、若い人やその親に精神病への理解を深めてもらいたいという思いでした。
精神病は早く治療を始めれば治る可能性も高いですが、症状が重くなってから病院にくる人が多いのが実情です。若い世代に人気があるバーチャルYouTuberとして情報発信をしようと思いました。
一林さんは、白衣を着たキャラクターのアバターでうつ病について解説する動画など、6本をこれまでに配信をしています。(1月6日時点)

現在、一林さんは地元の病院の勤務医で、活動はあくまで私的なボランティアとして行ってますが、将来的に大きな期待を寄せているのが、バーチャル精神科医としての相談や診療です。

精神病の患者のなかには、社交不安障害などの病気で人の目を見て話すことが苦手な人もいます。そうした人たちが、アバターの医師が相手だと、治療の面でいい効果が生まれるかもしれないと言うのです。
YouTubeより
バーチャルYouTuberの姿での診察が可能になれば、病院に来られなかったような人が来ることができるようになるかもしれないですし、話すことができなかった悩みなども相談できるようになるのではないかと思っています。
動画の視聴者からは「おもしろい」「前向きな気持ちになった」という反応が寄せられていて、今後は動画の生配信にも挑戦したいとしています。

誰もが活躍する社会への扉

2018年に大ブームが起きたバーチャルYouTuber。今後はどうなるのか。

東京大学バーチャルリアリティ教育研究センターの稲見昌彦教授は次のように話します。
VTuberは情報化社会の中にあって、新たな身体そのものであり、デジタルサイボーグともいえる存在だ。これによって、性別や障害といったハンディキャップを乗り越えて、誰もが活躍できる時代が到来するかもしれない。今後、さらに気軽に多くの人が利用し、文化として根づいていくと思う。

壁を超えた先には

冒頭で紹介したキズナアイさんのコンサート。2時間近くの熱狂のあと、アンコールが終わって終演、舞台の上のキズナアイさんの姿がスクリーンから消えた時です。

私は不思議な“違和感”に包まれました。続いて、戸惑い。

それは、魂が宿った人格を持った存在が、突然、目の前から消えたような感覚。

集まった観客と同じように、私もいつのまにか、バーチャルな存在であるはずのキズナアイさんに、魂を奪われていたのです。

バーチャルなアバターが、新たな身体性を持ったキャラクターとして活動し、本人の分身として、さまざまな壁を乗り越えていく。

その存在を眺め、直接会話し、関わりを持っていくこと自体が、現実の世界や社会の中にわだかまるさまざまな見えない壁を取り払っていくことにつながるように感じました。
ネットワーク報道部 記者
管野彰彦(VTuber版)