“100万人収容” ウイグルで何が起きているのか

“100万人収容” ウイグルで何が起きているのか
かつて中央アジアを横断する「シルクロード」だった中国の新疆ウイグル自治区。2000万人を超える人口のうち、イスラム教を信仰するウイグル族が半数近くを占めています。中国政府は長年、ウイグル族の分離・独立運動への警戒を強めてきました。この地で今、テロ対策を名目に、ウイグルの人たちが次々と中国当局の「収容所」に入れられているというのです。その数は「100万人に上る」という指摘もあります。取材を進めると想像を超えた実態が浮かび上がってきました。(国際部記者 篁 慶一)

「家族に会いたい」 悲痛な訴え

中国西部に位置する新疆ウイグル自治区。中国全体のおよそ6分の1を占める広大な大地は、かつて中国とヨーロッパを結ぶ東西交易路「シルクロード」として栄えました。
2010年撮影
毎年3月21日は、この地で半数近くを占める少数民族、ウイグル族の「お正月」。イスラム教を信仰するウイグル族の人たちが大勢で食事をしながら歌や踊りを披露する「ノルズ祭」という伝統行事が各地で行われます。

ところが、日本に住むウイグル族はことし、この伝統行事を中止しました。

日本には2000人から3000人のウイグル族が住んでいると言われていますが、その多くが故郷の家族と連絡が取れなくなっているというのです。

「こんな状況では楽しむ気持ちになれない」

それが中止の理由でした。ウイグルでいったい何が起きているのか。私はことしの春以降、日本に住む30人以上のウイグル族の人たちから話を聞いてきました。
その結果、彼らはこの2年ほどの間に、突然家族との連絡が途絶えたり、家族から「連絡しないで」とお願いされたりしていたことがわかりました。中には「家族や親族の中に『収容所』に入れられた人がいる」と打ち明けた人も多くいました。

国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、新疆ウイグル自治区で今、テロ対策を名目に、不当に拘束されて当局の「収容所」に入れられるウイグル族が急増し、「信頼できる推計で収容された人は100万人に上る」と指摘しています。
また、海外に住む家族や知人と連絡を取るだけでも拘束されるというのです。

取材を通じて、「家族に会いたい、声を聞きたい」と涙ながらに訴える人に何人も出会いました。

その1人、グリスタン・エズズさん(34)は、おととし、故郷で弟のアスカル・ベクリさん(21)が中国当局に連行され、一切連絡が取れなくなったといいます。
「私が日本に暮らし、弟と連絡を取っていたので拘束されたのかもしれません。弟は無事なのか本当に心配です」

グリスタンさんは、弟が「収容所」に入れられていると考え、不安な日々を過ごしています。
弟のアスカル・ベクリさん

「収容所」の実態は

「収容所」とは、いったいどんな施設なのか。

ことし11月、その実態を知る人物が人権団体の招きで来日しました。新疆ウイグル自治区出身で、10年前に移住先のカザフスタンで国籍を取得したオムル・ベカリさん(42)です。
オムルさんは去年3月、実家に里帰りすると5人の武装した警察官が現れ、「収容所」へ連行されました。拘束はおよそ8か月間続きましたが、カザフスタン政府の働きかけで解放されたということです。

取材に応じたオムルさんは突然、バッグから鉄製の鎖を取り出し、自分の両手と両足を縛りました。収容所で自分が置かれていた状況を再現したのです。
そして、早朝から深夜まで思想教育を強制されたと語りました。
1日およそ15時間、手足が縛られた状態で国家や中国共産党をたたえる歌を歌わされたりウイグル族への政策のすばらしさを教え込まれたりしました。『中国共産党のおかげで、今の自分がある』と思い込ませ、『共産主義を愛するロボット』にさせようとするのです。
さらにオムルさんは、「テロ行為を計画した」という容疑をかけられ、取り調べで虐待を受けたことや、虐待によって命を落とした人もいたことを明らかにしました。
夏は厳しい暑さの中で立たされる。冬ははだしで氷の上に立たされ、冷たい水をかけられる。イスに縛られ、後ろから棒で殴られました。2人が私の目の前で死にました。まるで死を待っているような生活でした。
新疆ウイグル自治区では、一部の勢力が中国からの分離・独立を目指して活動を続けているとして、中国政府が監視や取締まりを強化してきました。

中国政府は「収容所」について、「過激思想の影響を受けた人を対象に、職業訓練を行って社会復帰を支援している」と説明しています。

ことし11月には、ウイグル族が不当に拘束されているという国際社会からの懸念の声に対し、王毅外相が「根拠のないうわさ話だ」と一蹴しました。

日本人カメラマンが見た「異変」

一方で、新疆ウイグル自治区の異変は、毎年現地を訪れている日本人カメラマンも感じ取っています。

「街の魅力がどんどん薄れている」

そう語ったのは、ウイグルでの留学経験もある川嶋久人さん(32)です。
以前から監視体制の強化を目の当たりにしてきましたが、ことし訪ねると監視カメラや検問所がさらに増えて、今まで気さくに接してくれたウイグル族の人たちも急によそよそしくなったといいます。

川嶋さんによりますと、モスクの中には「愛党愛国」と書かれた看板が掲げられ、警察官がにらみをきかせるところや、カフェや駐車場に姿を変えたところもあったということです。
2018年撮影
礼拝に訪れる人の姿も見当たらず、町なかではスカーフを巻いた女性もずいぶん減ったといいます。

「自治区全体が重苦しい雰囲気です。ウイグル族はこれからどうなるのか、とても心配です」

中国政府のねらいは

ウイグルでなぜ、厳しい政策がとられているのか。

中国近現代史に詳しい明治大学の水谷尚子兼任講師は、中国政府が進める巨大経済圏構想「一帯一路」や豊富な地下資源の存在を挙げ、治安がより重視されていると指摘しています。
中央アジアに抜ける『一帯一路』のルートとして、新疆ウイグル自治区の地理的な価値が高まっている。さらにレアメタルや天然ガス、石炭など多くの地下資源があるので、中国の沿海部に供給するため、中国政府はますます重要な地域と見なすようになっている。土地は非常に重要だが、もともといたウイグル族は不要だと考えているのではないか。

「不当な拘束」に終わりは来るのか

冒頭で紹介したウイグル族の伝統行事「ノルズ祭」。日本のウイグル族の人たちは、来年は開催することにしています。

「中止が続けば文化が継承されず、中国政府の思いどおりになってしまう」と考えたからです。ただ、現状が改善されなければ、心から楽しむことはできないままです。

貿易などで中国と厳しく対立するアメリカの政府や議会はことしの夏以降、ウイグル自治区の問題を積極的に取り上げ、中国政府に「収容所」の即時閉鎖などを求めています。
国連の人権理事会でも各国から懸念の声が次々と上がり、国連人権高等弁務官も現地への立ち入り調査を認めるよう中国政府に求めています。

こうした動きが、ウイグル族への「不当な拘束」を終わらせることにつながるのか。日本のウイグル族の人たちも固唾をのんで見守っています。
国際部記者
篁 慶一
(たかむら・けいいち)