増産せよ!激減の国産ホップ

増産せよ!激減の国産ホップ
年の瀬も近づき、忘年会シーズンまっただ中。一年の疲れをビールで癒やしたいという人も多いはずです。中でも最近、人気を集めているのが、国産のホップを使った、上質なクラフトビール。各メーカーとも品ぞろえを充実させようとしています。しかしその人気とは裏腹に、国内のホップの産地では、ある異変が起きています。いったい何が起きているのでしょうか。(盛岡放送局記者 嶋井健太)

需要高まる国産ホップ

ホップは、ビールの味と香りを決める重要な原料の1つです。
国内で使われるホップの9割は、ドイツなど海外から輸入されていますが、いま国産ホップの需要が高まっています。

背景には、消費者の好みの変化と、ビールメーカーの戦略があります。

ビール系飲料の市場は、人口減少や若者のビール離れを背景に縮小が続いていますが、個性的な味や香りを売りにした、クラフトビールの市場は拡大。
値段は一般のビールより高めですが、市場規模は5年間で2倍になりました。

このため各メーカーは、専用の醸造設備を設けたり、新商品を開発したりと、取り組みを強化しています。輸入もののホップに比べて、国産ホップはとれたての新鮮さが売りで、質の高いビール造りに欠かせない原料として、注目されているのです。

激減する国産ホップ、その理由は

しかし、国産ホップの生産量は、ピークだった昭和50年代の実に1割ほどにまで激減しています。背景にあるのは、高齢化による農家の減少です。

ホップと言えば北海道を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、岩手県遠野市は国産ホップの2割を生産する有数の産地です。
ここでも40年前におよそ240あった農家が、34にまで減っているというのです。

その理由について、3年前に生産をやめた中村繁男さん(68)は「ホップの生産は、労力に見あうだけの収入を確保できない」と話しています。
中村繁男さん
日本のホップ畑は、海外に比べて狭いとされ、収穫用の機械も入れません。収穫や手入れをすべて手作業でやらなければならず、こうした負担が農家の減少につながっているのです。

ビールメーカーがホップ作りに参入

疲弊する産地を後押ししようと、大手ビールメーカーが動きだしました。

「キリン」は、金融機関とともに、2億5000万円を出資し、遠野市に新たな農業法人を立ち上げました。
浅井隆平さん(左)
キリンから農業法人に派遣されたのは営業畑出身の浅井隆平さん(37)。産地をよみがえらせるため、地元の農家と検討を重ねてきました。

浅井さんがモデルにしようと思ったのが、日本のおよそ170倍ものホップの生産量を誇るビールの本場・ドイツです。冷涼な気候で、遠野と緯度もほぼ同じ。ドイツの大規模栽培を取り入れれば、ホップを増産できると判断したのです。
浅井さんたちは、ドイツの栽培方法を徹底的に研究しました。その結果、ドイツの畑は区画が大きく、大型の機械を積極的に導入していることがわかりました。狭い畑で人手に頼って作業する日本と違い、ドイツでは、運転手1人だけで、広大な面積を収穫できます。

浅井さんたちは、遠野でもホップ畑の区画を大きくし、大型の機械で作業できる態勢を整えようと考えました。
浅井隆平さん
実現に向け、目指しているのは8ヘクタール(東京ドーム1.7個分)の土地の確保。
地権者を一軒ずつ回って、土地の買い取りや借用ができないか働きかけています。これまでに半分ほどの面積が確保できたということで、再来年には本格的な収穫を目指しています。
「みずみずしく、華やかな香りのするビールを作るため、国産ホップは必要だ。生産量を減らさない仕組みづくりに取り組みたい」(浅井さん)

各地で広がる増産の動き

ほかのメーカーも、国産ホップの増産に取り組んでいます。

「サッポロ」は、北海道にある研究施設で、作業の手間がかからない品種の開発を進めています。

ホップの栽培は伸びたつるの手入れを人の手で定期的に行う必要があり、これが重労働となっています。そこで手入れしなくても、自然に成長する品種を開発しました。これまでに16の品種を開発し、国産ホップを使ったビールを積極的に販売しています。

このほかにも、中小のクラフトビールメーカーが農家とともに、九州や関西、それに関東などでホップ栽培を始める動きも出ています。

まだ、生産の減少を補うには至っていませんが、国産ホップを使った多彩なビールがわれわれを楽しませてくれる日も遠くないかもしれません。
盛岡放送局記者
嶋井健太
平成24年入局
宮崎局をへて盛岡局
現在、経済や農業を担当