知ってますか? 男性の乳がん

知ってますか? 男性の乳がん
女性のがんの中では最も患者数が多い乳がん。女性特有のがんと思われがちですが、実は全体の0.6%程度の患者は男性です。毎年、新たに500人前後の男性に乳がんが見つかっています。(国際放送局WorldNews部 記者 永楽真依子)

「まさか自分が乳がんに」

神奈川県に住む73歳の男性は45歳のときに乳がんを患いました。異変が現れたのは左の胸でした。乳頭にしこりができ、その後、乳頭から出血が始まりました。男性は病気とは思わず、仕事も忙しかったため、しばらく放っておきました。しかし、シャツに血がにじんでいるのを見た妻に病院へ行くよう勧められ、詳しい検査を受けたところ、乳がんと診断されました。

男性は「まさか自分が乳がんになるとは思いもしなかった。生まれて初めて頭が真っ白になって、先のことを一切考えられなかった」といいます。男性は、左胸の一部を切除する手術を受け、いったんは退院しました。
しかし、55歳と64歳のときに同じ左胸で乳がんが再発し、さらに2回、手術を受けました。その後、容体は安定していますが、今も月に一度、病院に通って再発を防ぐための治療を受けています。

どうして男性も乳がんになるの?

乳がんの患者数は毎年増え続けています。日本乳がん学会によると、2015年の乳がんの患者数は8万7000人余り。10年前に比べると4倍以上も増えています。男性の割合は全体の0.6%前後ですが、年々、増え続けています。
男性の乳がん患者は毎年500人前後見つかっている
なぜ、男性も乳がんになるのか。それは、男性にも乳腺があるからです。乳がんの原因は、遺伝や女性ホルモンが関係していると言われています。男性は女性に比べて、乳腺が未発達なため、乳がんにかかるリスクは少ないものの、決して、無関係な病気ではないのです。

乳腺外科が専門で昭和大学の沢田晃暢准教授は「男性の乳がんは認知度が低く、発症する年齢も女性より高い傾向があるため、発見が遅れることがある。また、治療実績が少ないため、まだまだ女性の乳がんに比べてわからないことが多い」と話しています。

男性患者ならではの悩み

男性の乳がん患者が抱える特有の悩みは社会の無理解です。女性特有のがんと思われがちなため、職場に乳がんであることをなかなか打ち明けることができないことも多いといいます。

また、治療のためには乳腺外科に通わなければなりません。周囲は女性ばかりで、待合室で診察を待ったり、マンモグラフィー検査を受けたりする男性の姿に、奇異の視線が投げかけられたことも少なくないといいます。

患者の1人は「退院後の生活や治療法について調べようと思っても、ほとんど情報はありませんでした。病気の悩みを打ち明けることができる患者どうしのつながりもなく、孤独感を感じていました」と話してくれました。

同じ悩みを共有したい

こうした男性の乳がん患者を支援しようという動きが始まっています。

がんに関する情報発信や患者支援を行うNPO法人「キャンサーネットジャパン」が、ことしから、男性患者のための交流会「メンズBC会」を始めたのです。1月に初めて東京で開かれ、3か月ごとに開催されています。最初の参加者は3人だけでしたが、徐々に広がりを見せ、先月は11人が参加しました。

乳がんの専門医も参加し、治療の最新情報を伝えたり、薬の副作用の相談にのったりしています。
参加者の1人で自身も乳がん患者であるフリーライターの野口晃一郎さんは、この交流会を足がかりに、男性の乳がん患者のための患者会を設立したいと考えています。
野口さんが患者会のモデルにしているのがアメリカの患者会「The Male Breast Cancer Coalition」です。

4年前に設立され、全米の男性乳がん患者およそ300人が参加しています。年に1回、交流会を開いているほか、早期発見のための啓発活動も積極的に行っています。

また、ホームページには、100人を超える患者の体験談が写真つきで掲載されています。野口さんは、去年4月、カンザス州で開かれた交流会に参加し、メンバーと意見交換を行いました。
野口さんは、アメリカの患者会の活動を参考にしながら、ほかの患者と一緒に、男性がん患者のためのホームページを立ち上げたり、患者会のロゴマークの制作をしたりする準備を進めています。

乳がんは、早期発見によって適切な治療を受ければ、ほかのがんと比べて生存率が高いとされています。野口さんは「患者会ができることで男性の乳がんの認知度が高まれば、早期発見につながる。また、乳がんと診断された男性が、治療に関する正しい情報を得たり、悩みごとを相談したりできる場所にしていきたい」と話しています。
国際放送局WorldNews部
記者 永楽 真依子
平成20年入局
鳥取 徳島 岐阜局などを経て現職 主にNHK WORLD のウェブニュースを担当