昆虫食 はじめました

昆虫食 はじめました
「2XXX年、気候変動により、牛や豚など地表の大半の家畜が死滅、海洋汚染も広がる中、人類は新たな食糧を求めて未知の領域へ足を踏み出していく…」 SF小説のような話ですが、そんな時代の到来を予感させる「あるもの」が九州に登場しました。(熊本局記者 杉本宙矢)

昆虫食専門自販機とは

熊本市にある昔ながらの商店街、その一角に設置された「世界初・昆虫食専門自動販売機」。仰々しい横断幕とともに、ハチやテントウ虫のデザインがあしらわれた真っ白い大きなボックスは、商店街の玄関口にあって異彩を放っています。
売られているのは、素揚げされたバッタやカブトムシ、それに、コオロギのプロテインバーや芋虫のチョコレート。値段は600円から1000円となっています。
近くの学校の通学路に面し、買い物客や学生たちがその存在に気づくと、足を止め、おそるおそる近づいてきます。

「通るたびに気になっていました。間近で見ると気持ち悪いので、自分では食べようと思いませんが…」

どうにも無視できない存在のようです。

誰が何のために

いったい、どんな昆虫マニアが設置したのか。気になって、所有者の店舗を訪ねました。店内にはおしゃれでかわいらしい風船が並びます。自動販売機を設置したのは、バルーンショップの店主、友田敏之さんでした。
昆虫の自動販売機を設置したワケを尋ねると、意外な答えが。

「私、虫はもともと大嫌いなんです。ゴキブリがでたら妻に退治してもらうくらい嫌いです」

友田さんが昆虫食に関心を持ったきっかけは、東日本大震災の直後に生まれた娘の存在でした。当時、東京で生活していた友田さんは、原発事故の影響を心配し、「食の問題」を調べるようになったそうです。

国連も注目の昆虫食

子どもたちが安心して食べていける社会をつくりたい。そんなときに目にしたのが、国連の農業食糧機関(FAO)が5年前に発表した昆虫食の報告書でした。
報告書は、人口爆発や気候変動の影響で世界が食糧危機に陥るおそれがあると指摘。そのうえで、昆虫食はタンパク質などの栄養価が高い上、過酷な環境でも生産しやすいことから、その打開策になるとされていました。

「日本にもたくさん食べ物があって、たくさん捨てられている中で、世界では昆虫を食べていくことが少しずつ、現実味を帯びてきていることを知ってほしい。食べなくてはいけない時代がくるのであればみんなで早めに慣れておこうと」(友田さん)
昆虫食を気軽に手にとってもらおうと思いついたのが、自動販売機でした。

自販機は大人気

自動販売機はすぐにインターネットで話題になり、販売開始後、わずか1か月で500個以上売れる反響ぶり。最近は品薄状態になることも少なくありません。

「問い合わせが殺到していて、本業よりも多いぐらいです」

人々が昆虫食を買い求める理由はさまざまです。

高校生「友達の誕生日プレゼントで買いに来ました」
若いカップル「インスタグラムにあげようかな」
話題性が一つの理由のようです。怖いもの見たさやゲーム感覚で買っていきます。

純粋な食の関心から手を伸ばす人もいました。昔よく遊んでいたというカブトムシを購入していたこちらの男性は、早速試食したものの…。
「足とかがパキパキしていてなんかもう、ちょっとこれはきついです」

一方、コオロギのプロテインバーを食べたアメリカ人は。

「これ本当にコオロギはいってるの?おいしい!ありがとうございます!」

すっかり気に入ったようです。

味はどうなのか

実際のところ、どんな味なのか。私もテレビリポートの撮影のために挑戦することにしました。

何気なく選んだのは「タガメ」。パッケージからとりだして出てきたのがこちら。
黒々とした胴体と長く伸びる手足、くりっとした目に、今にも羽ばたきそうな茶色の羽。「無理だ」と思いましたが、すぐ横でカメラマンが「スタンバイOK」と構えていました。

意を決して頭からかぶりつくと、最初は口の中で硬くごわごわとした異物感。数秒して独特の臭みと苦みが一気に広がりました。はき出したくなる衝動に駆られたものの、必死にこらえました。
次第に感覚がまひしたのか、お酒のつまみのようにむしゃむしゃとほおばり、結局、1匹丸々完食。昆虫食デビューを果たしました。

ちなみに、友田さんによると味や見た目の面で「タガメ」や「ゲンゴロウ」、「カブトムシ」などは上級者向けだということです。

昆虫食マニア登場!

取材を続けること数日、つわものが現れました。自販機を目的に、北九州市から訪れたというこちらの女性。昆虫食歴6年だといいます。
「昆虫食、はまってます!お弁当にも、ムシをのせています」
次々とお金を投入、全種類の商品を買い占めていきました。

友田さんともすぐに打ち解け、現在、友田さんが開発中の料理「ゲンゴロウや芋虫のバター砂糖あえ」を、その場で一緒に試食するほど仲よくなりました。
そして、今後は情報交換しながら、九州で昆虫食を盛り上げていくことを約束していました。

昆虫食を広げるために

「今回の自動販売機はインパクトを出すために、あえて味も見た目も、そのままに近い昆虫を提供していますが、このままの形では日本で広がらないでしょう。世界各地では先人たちが試行錯誤しながら培ってきたさまざまな調理法があります。今後は、安全で本当においしい昆虫食の料理の研究を通して、普及に貢献したいです」

自販機が設置された場所は、週末には多くの人でにぎわい、今後、昆虫食に関心を持つ人たちが集う「聖地」になる可能性さえあると、感じました。
昆虫食というと「ゲテモノ趣味」というイメージも強いですが、私は自販機の登場のおかげで抵抗なく食べられるようになりました。

時代を先取りするのは今、かもしれません。あなたは食べられますか?