アフターピル(緊急避妊薬)、譲ります!?

アフターピル(緊急避妊薬)、譲ります!?
「コンドームが途中で外れちゃった」
「着けたくないっていうお願いを断り切れなかった」
そんなとき、比較的高い確率で妊娠を防ぐ「アフターピル」。国内では医療機関での処方が必要とされる薬です。しかし、SNSを介して安い“アフターピル”が野放しで広がっているといいます。何が起きているのか、取材しました。
(ネットワーク報道部記者 高橋大地)

えっ!SNSでアフターピルが買える?

「アフターピルあります。即日発送いたします。速達可能です」
「使用しなくなったアフターピルあります。DMでお話うかがいます。1個限定です」

ツイッターで「アフターピル」「緊急避妊薬」と検索をすると、こうしたツイートが次々と見つかります。

ツイートをしている人と直接やり取りをして配送や手渡しをしてもらうものや、ツイート内のURLをクリックすると医薬品の輸入代行業者のサイトにつながるものなどさまざまです。

こうした中でアフターピルを求める書き込みはいくつもありました。
「ツイートを見て連絡させていただきました」

私もアカウントの1つにメッセージを送って、現状を調べてみることにしました。

アフターピルとは

そもそもアフターピルとは、コンドームが外れて避妊に失敗したときなど、思うように避妊ができずに性行為に至ったときに服用することで比較的高い確率で妊娠を防ぐことができる薬のことです。
国内では2011年に医薬品として承認され、認められたものは性行為から72時間以内に服用すれば有効とされています。また極力、早く服用したほうが効果が高いとされています。

あらかじめ計画的に服用する「ピル」とは違って、緊急避難的な薬とされ、使用するためには医師の処方が必要となっています。

価格は1回につき1万5000円くらいから2万円ほどかかるとされています。

アフターピルの“壁”

しかし、現状では女性がアフターピルを手に入れるにはさまざまな「壁」があるといいます。性教育や性の健康に関する活動を行っているNPO「ピルコン」の染矢明日香代表に聞きました。
「医師からきちんとした説明を受けて処方してもらうのは大切なことですが、高校生など若い女性たちからは人目が気になって産婦人科にはなかなか行きにくい、という声がしばしば寄せられます。また土日や夜間などに医療機関が開いておらず、そもそも行くことができないというケースもあるようです。また1万5000円から2万円という価格は決して気軽に購入できる値段ではありません」(染矢さん)

氾濫する“SNS市場”

その裏返しとして広がっているのが「SNSを介したやり取り」とのこと。SNSで“アフターピル”として販売されているものは、1000円から3000円と大幅に安い値段で取り引きされているといいます。

パッケージの写真や名前から、そのほとんどが国内では未承認の薬で、海外から輸入されたものと見られるということです。

誰がどういう方法や目的で販売しているのか、本当にアフターピルなのか、そこに問題はないのか、調べてみることにしました。

売買の場に現れたのは…

「購入について相談したい」とメッセージを送ったアカウントでは、「1箱1200円で譲る」としていました。メッセージを送ってから10分余り。

「フリマアプリか、銀行振り込みでお願いいたします。速達も可能です」

すぐに返信がありました。

「手渡しでも大丈夫でしょうか」

そう問い合わせてみると…。

「手渡しでも可能です。場所は○○や□□などでどうでしょうか」

場所の候補が送られてきたので、時間などを相談したうえで、受け取ることにしました。
待ち合わせの時間。指定された場所に現れたのは、20代後半から30代前半くらいの女性でした。

ごくごく普通の雰囲気で、受け答えも丁寧。

「72時間以内に1錠。そのあと12時間後にもう1錠飲んでください」

使い方とともに、“アフターピル”が入っているという1箱を手渡されました。

また買えるのですか、と問うと、女性はこう答えました。

「個人で輸入していますが、『自分もほしい』と困っている人が多くて、余ったものをお譲りしています。もうけるつもりはありません。今回はこれで最後ですが自分の分も持っておきたいので、また手に入れるつもりです。何かありましたらお声かけください」と言って、その場を離れていきました。やり取りは数分で終わりました。

受け取った箱を見ると、品名や成分が英語などで記されていました。
中を開けてみると、白い錠剤が2つありました。でも本当にアフターピルかどうか、これだけでは確証を持って判断することはできませんでした。

SNS売買 法律的問題は

また、こうしたものが本当に海外から輸入された「アフターピル」であったとしても、SNSを介して個人が売買することは問題がないのでしょうか。

厚生労働省の医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課に聞いてみました。

「国内で未承認であっても、個人で使用する範囲で一定量の医薬品を海外から輸入することは認められています。こうした輸入を代行している業者もあります」(厚生労働省)

自分で使う範囲での購入はOK。では、輸入したものを個人が売ってはいけないということか、とさらに聞くと。

「未承認の薬の場合、個人が販売したり、譲ったりすることやそうした目的でため込むことは法律に違反することになります。また、承認されているものだとしても、『業』として、つまり反復して不特定多数の人に向けて、個人が販売したり、譲渡したりすることは違反です。ただし、購入することについての規制はありません」(厚生労働省)

ほとんどがアウト 危険も

“アフターピルあります”として個人がアピールしているアカウントのほとんどは、繰り返しツイートして購入を呼びかけているので、アウトということになりそうです。

そもそも、偽造品が混ざっている場合もあることが“アフターピル”以外でもさまざまな薬で指摘されていて、個人のSNSを介した購入は極めて危険な行為だといえます。

一方で行政側が指導しようとしても、こうしたアカウントはすぐに作り直されて「いたちごっこ」となり、広がりを食い止めるのは難しいといいます。

オンライン診療 分かれる見解

SNSでの販売が野放し状態になっている中、インターネットを使った診療でアフターピルを処方する医療機関が出てきています。

東京にあるナビタスクリニック新宿。ことし9月から、スマートフォンを使った「オンライン診療」を始めました。

医師はアプリを通じた問診票をつかってオンライン上で診療。宅配便でアフターピルを送るという仕組みで、初診から顔をあわせることはありません。
ナビタスクリニックの久住英二医師は「かかりつけの医師からアフターピルを受け取りにくいという人も多く、オンライン診療のニーズが高いのではないかと考えて始めました。診療を始めてから2か月ほどの間で利用した人はおよそ30人。多くは都内ですが東北や近畿の人もいます」と話します。

一方、こうした診療について、厚生労働省の医政局医事課の見解を聞くと。

「オンライン診療については指針で『初診は原則、直接の対面で行うべきである』としています。例外として遠隔地などにいて、すぐに適切な医療を受けられない状況で、オンライン診療を行う必要があるときは初診でも認められるとしていますが、こうしたケースはそこまでの緊急性があるとは考えられず、適切ではないと考えられます」

これについて久住医師は。

「緊急避妊薬なので、まさしく例外に当てはまると考えています。アフターピルは血栓など危険な副作用も少なく、対面でないとリスクが高まるということは特にありません。何よりも迅速な対応、アクセスのよさが大切な薬なんです」

この見解に対して、再び厚生労働省に聞くと。

「処方したあとに、妊娠しなかったかどうか、妊娠していたらどうするかなども含めて、対面でのフォローアップも重要です。オンラインだけで完結するのではなく、対面診療を組み合わせて行う必要があります」

薬局での販売は…市販薬化議論は否決

「アフターピルにアクセスしやすくする」という点については、薬局で一般的に販売できる薬、「市販薬化」の是非について厚生労働省で議論が行われてきました。

しかし、去年開かれた会議で、市販薬化は否決されています。
専門家からは、
「実際の処方現場では、緊急避妊薬を避妊具と同じように意識している女性が少なくない。安易に販売されることが懸念されるほか、悪用や乱用の懸念がある」
「性教育そのものが遅れていて、避妊薬に関するリテラシー(知識や理解)が不十分」
「薬剤師が販売する場合、専門的な知識を身につけてもらう必要がある」
といった意見が出されたといいます。

つまり、これまでどおり医師による処方が必要とされたのです。

一方、会議に伴って行われたパブリックコメントでは、集まった348件中、320件が「市販薬化」に賛成だったこともあって、否決という結論との差が目立ちました。

やはり「市販薬化」を 始まった署名活動

こうした結論に納得できないとして、ことし9月、NPOの「ピルコン」の染矢代表が呼びかけて、改めてアフターピルの市販薬化などを求める署名活動が始まりました。
署名の中では「アメリカやヨーロッパなど20か国以上では市販薬化がすでに行われていて、日本でも進めてほしい」「このままSNSでの購入が続くのは危険で、経過措置として、初診の際に医師による対面診療を必要としないオンライン診療などを認めてほしい」といったことを訴えています。

染矢代表は「『性教育が進んでいないから』といって、困っている人たちがアクセスしにくいまま放置するのはおかしいと思います。それだったら性教育の充実と一緒に進めていけばよいだけの話です。また、薬局であっても薬剤師がきちんと説明すればよいのであって、アフターピルを必要な状況になった個人が手に入れやすい機会を用意することが大切だと思います」と話しています。

12月上旬までに集まった署名は約1万5000人。今後、厚生労働大臣や日本産科婦人科学会理事長などへ届けることを検討しています。

その扱いをめぐって議論が続くアフターピル。緊急事態を乗り切る薬として、ニーズが高まっているのは間違いありません。「アクセスがよく」かつ「安全に」手に入れられる環境をいかに整えるのかが求められています。