平成最後のグッドデザイン

平成最後のグッドデザイン
昭和32年 「農薬散粉機」
平成元年 「パスポートサイズのビデオカメラ」
今年   「お寺による貧困家庭支援」

クールなデザインの工業製品に贈られると思っていた「グッドデザイン賞」のプチ受賞史ですが、お寺がグッドデザイン? この変化、何が起きているのでしょうか?(ネットワーク報道部記者 藤目琴実 玉木香代子 宮脇麻樹)

「おてらおやつクラブ」の衝撃

10月31日に発表された平成最後のグッドデザイン賞の受賞作を紹介する作品展。大賞を見てわが目を疑いました。

「おてらおやつクラブ」

お寺にお供えされたお菓子や果物を支援団体を通じてひとり親など経済的に苦しい家庭に贈る活動で、こうした慈善事業がグッドデザイン賞の大賞なんだそうです。

寺と社会をつなぎたい

きっかけは5年前のある事件でした。大阪で母親と3歳の息子が遺体で発見され、部屋から「食べさせられなくてゴメンね」と書かれたメモが見つかりました。
「おてらおやつクラブ」を始めた奈良県の寺
事件を知った奈良県のお寺が子どもの貧困対策として始め、現在、全国975のお寺が宗派を超えて参加。1か月に延べ9000人の子どもにおやつを届けています。

「おてらおやつクラブ」のメンバーの1人で、和歌山県にある興山寺の福井良應 副住職は「お寺の世界としても今の時代にどうやって社会と接点をもつか、ということが大切になってきています。お供えのおすそわけは昔からお寺がやってきたことですが『おてらおやつクラブ』という仕組みによって本当に苦しい状況にある子どもたちの元に支援が届くのではないかと思います」と話しています。

起源は模倣からの脱皮

それにしてもグッドデザイン賞はクールな工業製品などに贈られる賞というイメージを持っていました。

主催者の日本デザイン振興会によりますと「グッドデザイン賞」が創設されたのは1957年、昭和32年のこと。日本製品の海外輸出が盛んに奨励された時代でした。しかし、ちまたにあふれるのは海外製の模倣や粗悪な製品ばかり。そこで、輸出に耐えるような高い品質とデザインを兼ね備えた製品作りを奨励しようと国の肝煎りで表彰制度を始めたのです。

モノからコトへ

最初の年に表彰されたのは農薬散粉機に灰皿など。その後も電気釜やミシンなどの工業製品や食器などの日用品が中心でした。
それが70年代、80年代になるとより個性的な製品が登場します。この時期を代表するのが1981年に受賞したカセットテープを再生する「ウォークマン」。音楽をアウトドアで気軽に聴けるようにするアイデアが斬新でした。

90年代にバブルが崩壊すると、受賞の対象が「モノ」だけではなくなり、建築物や公園など公共の豊かさを演出する「場所」も含まれるようになりました。

2011年には、東日本大震災の被災地でスムーズな移動を支援しようとカーナビの情報からそれぞれの車が実際に走行した情報を集めて通行可能なルートを表示するサービスが大賞を受賞しました。
通行実績のデータマップ
このように社会の課題を解決するための取り組み自体がグッドデザインとして選ばれるようになってきたのです。

「『モノ』から『コト』へ。グッドデザイン賞はその時代の人々の最前線の欲求とニーズを反映してきました。近年、社会の課題解決に向けた取り組みが受賞するようになったのは、いろんな人が社会をデザインしようとしていることの表れだと思います」(日本デザイン振興会 秋元淳さん)
秋元淳さん

社会をデザインする

「おてらおやつクラブ」の人たちも同じ思いでした。

グッドデザイン賞は応募があったものから選ぶ仕組みですが、お寺の慈善事業を応募した理由は「一般の人たちにも活動を知ってもらい活動の輪を広げたい」ということでした。

この活動を知った檀家さんや地域の方が「子どもはこういうの喜ぶかしら?」と言いながらクリスマスやハロウィーンのパッケージのお菓子をわざわざ持ってきてくれることもあるそうです。

「『おてらおやつクラブ』は思いやりの受け皿にもなっていると感じます。こうした社会の流れをつくったことがデザインという視点からも評価されたのではないかと思います」(福井副住職)

ぼくは桃太郎

再び、グッドデザイン賞の受賞作を並べた展示会。
こんな書き出しで始まる絵本を見つけました。

「すぅーっといきをすいこむと、あまくてやさしい、いいにおい。ぼくは生まれる前、大きな桃の中にいました。」

そう、童話「桃太郎」です。小さい頃に誰もが読み聞かせで聞いたこの童話。でも聞き慣れた「昔々、あるところに…」のフレーズはありません。

この絵本、「童話の主人公が自ら語ったら」という設定で展開していく「1人称童話」で、そのユニークさが評価されて受賞しました。
例えば、クライマックスの鬼退治の場面はこう描かれます。

「門のむこうからどなり声がとんできて、僕の体にぶつかりました。…僕は刀をぬきました。でもどういうわけか、足が前にうごきません。ぼくはいつの間にかふるえていました。ぼくは鬼がこわいと思いました」

なんともリアルな心理描写。くじけそうになりながらも自分を励まし鬼に立ち向かう桃太郎に共感してしまいます。

絵本で想像力をデザイン

「物語の世界を自らの目で見つめ彼らになったつもりでその気持ちをひしひしと感じてみる。『共感と想像する力』を広げてもらいたい」

絵本の作者でコピーライターの久下裕二さんは1人称のねらいをこう話します。

制作する中で念頭に置いていたのは、いじめの陰湿化だといいます。SNS上で行われている、顔の見えないやりとりが相手の気持ちを想像する力を欠如させ問題を深刻化させていると感じています。
絵本の最後では、主人公だけでなくほかの登場人物の気持ちも想像してみようと呼びかけていている久下さん。

「読み聞かせのあと、自分が桃太郎だったら、鬼だったら…と、親子で盛り上がってほしい。絵本を読んだ後が本当の始まりだと思っています」と1人称の物語に込めた思いを話してくれました。

物語を通じて子どもたちの想像力を養うこともデザインの1つなのです。
ことしで創設から61年を迎えたグッドデザイン賞。受賞作の展示会場からは今、日本の社会が求めているものが見えてきます。

この展示会は11月4日まで東京 港区の「東京ミッドタウン」で開かれています。