大型用タイヤ 破裂の衝撃

大型用タイヤ 破裂の衝撃
「タイヤから糸が切れるような鋭い音が聞こえたらすぐ逃げろ」
トラックなど大型車両のタイヤの修理や交換を行うある業界団体の研修で強調されている教訓です。強じんなタイヤが万が一、破裂すると近くにいる人は吹き飛ばされてしまうほどの衝撃があるからです。それでも痛ましい事故がまた、起きてしまいました。
(ネットワーク報道部記者 郡義之・田辺幹夫・木下隆児 札幌放送局記者 横山寛生)

タイヤ交換のはずが…

事故が起きたのは今月22日午後6時半ごろ、北海道平取町の自動車整備工場でした。

ダンプカーを運転していた男性が、タイヤ交換を行おうと整備工場にダンプカーを持ち込みました。片側に2本のタイヤが取り付けられた後輪で、タイヤとタイヤの間に石が挟まっていたためでした。

工場を経営する60歳の男性が点検を始めるとタイヤが突然破裂。経営者は2メートルほど吹き飛ばされました。服が破れるほどの衝撃で全身を強く打って亡くなりました。

道路を挟んで真向かいの自動車板金工場の経営者は「ドアを力いっぱい閉めたような大きな音を聞いた」と話しているということです。

この事故が報じられると、ネット上には驚きの反応が次々と寄せられました。

「タイヤの破裂ってそんな衝撃あるの…」
「ええ?そんなにタイヤってエネルギーためてるものなのか」

大型用タイヤ破裂の衝撃

タイヤメーカーが安全教育のためにつくった動画を見るとその衝撃がわかります。

用意されたのはトラックやバス用のタイヤで、直径はおよそ1メートル。すぐそばにマネキン人形を置き、タイヤに空気を入れていきます。

空気を入れ始めてしばらくすると、「ズドーン」という音とともにマネキン人形が後ろに勢いよく倒れました。

なぜ起きる?

なぜ、こうした破裂が起きるのか。動画を作ったブリヂストンに話を聞きました。

タイヤに使われているゴムはそのままで空気を入れて圧力をかけると耐えきれず膨らんだり裂けてしまったりするのだそうです。
そこでゴムの間にスチールのワイヤーを、網の目のように張り巡らし高圧に耐えるようにすると、タイヤがその形を保つことができます。

しかし、タイヤがパンクしてしぼんだ状態で走行したり、縁石に強くぶつかったりすると、ワイヤーが損傷してしまいます。

その状態で再び空気を入れると圧力に耐えられなくなり、ゴムが破れて空気が一気に吹き出す破裂が起きるのです。

トラックのタイヤの場合、大気圧の9倍ほどの空気が狭い穴から一気に吹き出すため、100キロほどあるタイヤとホイールが簡単に吹き飛ぶほどの威力があり重大な事故につながるということです。
一方、乗用車では、ゴムを強化する素材にナイロンなどの化学繊維を使い、入れる空気の圧力もトラックの3分の1ほどのため、万が一破裂してもトラックほどの衝撃にはならないということです。

過去にも死亡事故が

大型タイヤの破裂事故は過去にも起きています。

タイヤメーカーでつくる「日本自動車タイヤ協会」によると、平成26年から29年にかけて、整備作業中にトラックやバスなどの大型のタイヤが破裂した事故は、年間10件前後起きています。

このうち滋賀県甲賀市では4年前、ガソリンスタンドで空気を補充していた大型トラックのタイヤが突然破裂し、男性従業員が亡くなりました。

このほかタイヤの整備中ではないものの、道路で停車していたクレーン車のタイヤが破裂し、隣に止まっていた乗用車に乗っていた子どもが大けがした事故や、渋滞で停車していた路線バスのタイヤが突然破裂して乗客がけがをする事故なども起きています。

何に気をつければ?

前述のタイヤメーカーによるとまずは、日常点検が大切だということです。

トラックは運行前の点検でタイヤに異常な摩耗やキズがないか確認し、乗用車でも空気圧の点検を月1回はしてほしいといいます。
また、パンク修理をしたあとに破裂が起きるケースが多いということで、ブリヂストンタイヤジャパンの菊地俊夫技術サービス本部長は「破裂はめったに起きないが、起きた時の被害が甚大で、根気強く、注意喚起をしていきたい。ドライバーもパンクを修理した時に、修理店から『このタイヤに空気を入れると危険』と言われたときには、無理に修理せず、タイヤを丸ごと交換してほしい」と訴えます。

現場では

実際にタイヤの交換や修理を行う整備工場などではどう対応しているのでしょうか。

北海道釧路市にあるタイヤ整備工場では、タイヤを修理する際、内側についたキズが原因で破裂することもあるため、空気を入れる前に細かく点検する作業を欠かさないそうです。
タイヤに空気を入れる際は、金属製の安全柵の中に入れて行います。万が一破裂してタイヤや内部のワイヤーが飛び散ってけがをしないようにするためです。

また、誤って空気を入れすぎて破裂させないようにする「減圧弁」と呼ばれる機器を取り付けて作業を行うようにしています。
この会社でも年に1、2件は、タイヤに空気を入れる際に異常を感じて中断することがあるといいます。先月もパンクしたタイヤを修理して空気を入れた際、側面が異常な膨らみ方をしたため、作業を中断したということです。

「丸中釧路タイヤ商工」の小栗直也社長は「タイヤのちょっとした傷を見つけるのはプロでも難しい。作業は万全の対策をしたうえで、自分の目と耳で慎重に確認しながら行っている」と話しています。

業界全体で講習

死亡事故の再発防止に業界全体で取り組んでいる団体があります。滋賀県タイヤ商工協同組合です。きっかけは前述の4年前の12月に起きたガソリンスタンドでの事故でした。組合では、事故を受けて、毎年行っていた研修で、タイヤが破裂する衝撃を実際に見てもらうことにしたのです。

異音が聞こえたら逃げろ

研修では、トラックのタイヤにキズをつけたうえで、空気を入れて破裂させます。

この際、タイヤの中にワイヤレスマイクを仕込んで、破裂する直前の異音が聞こえるようにしました。タイヤの強度を保つワイヤーが切れる際に「ピーン」などという糸をはじくような鋭い音がするというのです。

研修では、この音が聞こえたらすぐ逃げるよう、参加者に強調しています。
滋賀県タイヤ商工協同組合の専務理事を務める芝山真一さんは「組合員の中にも、トラックのタイヤが破裂すると危険だということは知っていても、本当に怖いということまで知らない人が多かった。研修で意識が大きく変わったと感じている。タイヤの破裂で二度とわれわれの仲間を失うわけにはいかない」と話しています。

日々、人や物を運び私たちの暮らしに欠かせない大型車両のタイヤ。その強じんさを過信することなく異常にいち早く気付くことが事故を防ぐことにつながりそうです。