“吾輩のかかり方も考え直す必要が”

“吾輩のかかり方も考え直す必要が”
紀元前98038年に生まれ、10万55歳のデーモン閣下。医療に関する厚生労働省の懇談会に出席し、感想をこう述べました。「吾輩のかかり方も考え直す必要があるな…」 閣下も、霞が関に出向き、議論に参加するこの問題。変革できなければ、日本の医療は崩壊するとも言われる大問題なのです。(社会部記者 本多ひろみ)
近くの大きな病院に行ったら2時間待ち…。そんな経験ありませんか。
こちらは、厚生労働省の調査結果。ベッド数が100以上の病院では、外来で訪れた際に診察までの待ち時間が30分以上かかったのがおよそ5割。待ち時間が1時間以上が3割近くにも上っていました。
“何だか調子が悪いな。心配だから、念のためちょっと大きめな病院で診てもらおうかな”

そんな経験ありますよね。

デーモン閣下もこう話していました。

「吾輩も人間の肉体を借りているので医療機関にかかることもあるのだが、近くにある大病院が便利だなと思っていて、ついついそこに行ってしまうことが多いのだけれども、今回、この懇談会に携わってみて専門の人に話を聞いているうちに今までの吾輩のやり方も考え直す必要があるなと思っている」

いきなり大病院に行くのはだめ!? 始まった議論

閣下もメンバーとして参加する厚生労働省の懇談会、「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」と名付けられています。今月から議論が始まりました。
閣下は、1回目の会合に参加したあと、上記のような感想を述べたのです。医療分野を管轄する厚生労働省では、さまざまな有識者会議があります。多くは、医師や病院を対象にしたものですが、今回のように「患者」側に「医療のかかり方」を見直してもらい、改革につなげようというのはそう多くはありません。それだけ、国民全体の協力がないと改革できないと考えているからです。

危機感1 外来が多すぎて…

各地の病院には共通する危機感があります。

「必要な人に必要な医療を提供できなくなる」

大きな病院での診療を求める外来患者が後を絶たず、医師が、入院患者などの診療や手術に専念できないからです。

今回、現場を取材させてもらった大阪 堺市の「馬場記念病院」。ベッド数300床、医師60人余りが勤務する、地域有数の大きな病院です。
かつては1日1200人もの外来患者が訪れる日もあり、医師は昼食を取ることもできず、夕方まで診療を続けることも珍しくなかったそうです。診察の待ち時間も長く、時には救急車を受け入れにくいといった影響がでていました。

状況を打破するため病院は患者に協力を求めました。外来を希望する患者には、まず、近所にある診療所にかかってもらい、より専門的な医療が必要な患者に来てもらうことにしたのです。診療所からの紹介状がある患者を受け入れるようにしました。

当初は患者から苦情を受けることもあったそうですが、症状が重くなければ近所の診療所のほうが待ち時間が少ないなど患者側にもメリットがあります。

去年の外来患者の数は1日あたり400人と、取り組み前の15年前と比べ3分の1に減りました。その結果、働きやすい病院として医師の間で評判となりました。新たな医師の採用がしやすくなり、採用した医師の定着率も高くなる効果もあったそうです。

危機感2 救急車の“タクシー化”

ニュースアップ『倒れたマンガ家と#7119』でもお伝えしましたが、救急車と緊急性との関係もずっと課題です。
この病院のケースでは、毎月500人前後の患者が救急車で搬送されてきます。そのたびに医師は翌日の手術の準備などの手を止めて処置にあたります。“救急”の患者だからです。

ところが、そのまま入院となる緊急性が高いケースは3割程度。総務省消防庁によると、全国の救急の出動件数は平成18年の524万件から平成28年には621万件に増加。救急車が到着するまでの時間も同じ期間に6分36秒から8分30秒と2分近く長くなっています。
緊急性が低いのに救急車を利用するケースが後を絶たず、本当に必要な人が救急車を利用しにくくなるケースが増えたと見られています。私たちが取材した日も救急車で搬送されてきた患者の多くが軽い症状で、すぐに帰宅していました。

この日の救急患者に対応した宮下昌大医師は「どうみても緊急ではなく、タクシー代わりに利用する患者は後を絶ちません。救急車で来たとしても症状が軽そうな人は、外来の患者と同じように並んで診察まで待ってもらいます。救急車は税金で運用しているものですから、それが一部の人だけに不適切に使われると本当に必要な人が使えなくなってしまいます」と話していました。

危機感3 “時間外”が当たり前

総務省が6年前に多くの職業を対象に行った労働時間の調査です。医師は1週間に60時間以上働いている人の割合が41.8%。調査対象のすべての職業の中で最も高くなっていました。それは、医師だけでなく、私たちにもはね返ってくる恐れがあるのです。
全国の医師を対象にしたアンケートでは、医療事故につながりかねないような「ひやり」や「はっと」した経験がある医師は77%に上っています。とくに労働時間の長い医師ほどその傾向が高くなることもわかりました。

医師の疲労による医療事故…。

そんな事態に陥ってしまいかねないのです。

体調崩した時どうすれば?

でも、“何だか調子が悪いな。心配だから念のためちょっと大きめな病院で診てもらおうかな”そう思うのは、普通のことだと思います。病院に行くべき状態かどうか、そう簡単に判断できないですよね。

その判断を手助けしようという専用ダイヤルが実はあるのです。広島県では全国に先駆け平成14年度に小児救急の相談ダイヤル「#8000」を導入。携帯電話からもかけられます。夜間と休日、看護師が待機して相談に応じています。
私たちが取材した夜もひっきりなしに電話が鳴りました。

「石けんを口に入れてしまった」「高い熱が出ている」「けいれんしている」「指を切って血が止まらない」

相談が次々と寄せられていました。
寄せられた相談について、看護師が子どもの年齢や詳しい状態を確認。家庭でできる処置などを伝えるとともに、すぐ病院に行くべきかどうかアドバイスしていました。医療機関からも患者の不安を解消しながら負担の軽減につながっていると歓迎する声が上がっています。

広島市の小児科診療所の森美喜夫院長は「急な病気のとき保護者が不安に思うのは当然だと思います。それに応えながら医療現場の負担を減らす対策を進めていく必要があります」と話していました。

小児救急の相談ダイヤル「#8000」は全国の都道府県で導入されています。
小児に限らず救急全般の相談を受け付けるダイヤル「#7119」も一部の地域で運用されています。

今月1日現在で「#7119」を都府県全域で利用できるのは、宮城、茨城、埼玉、東京、新潟、大阪、奈良、鳥取、福岡の9つです。市町村では札幌市や横浜市、神戸市などで利用できます。

もちろん突然の激しい頭痛、急な息切れや呼吸困難などはためらわず119番に通報です。そして電話での相談ですから、救急車を呼ぶ呼ばないの答えが明確に出ないこともあります。

とはいっても、相談できる場所があるというのは心強いようです。「#8000」を利用したことがある母親は「休日や夜間に子どもが熱を出すことがたくさんあったので助かりました。『急がずにあすの朝まで様子を見ても大丈夫』などと言ってもらえて、ひとまず安心して朝を迎えた経験が何度もあります」と話していました。

懇談会に参加したデーモン閣下はこうも話していました。

「医師になっている人のほとんどは治してあげようと思ってお医者さんをやっているわけで、どうしたって断れない職業ですよね。患者が来る以上は『あなたを今日は診ません』と言えないわけで」

「『#8000』『#7119』。とても利便性のあるダイヤルにもかかわらず、また、医師の負担を軽減するのにとってもいいシステムにもかかわらず、あまり世の中に伝わっていない。実際、吾輩も懇談会の事前に厚生労働省の人に簡単に説明を受けた際、初めて知った。まず最初に周知徹底をはかった方がいいんじゃないの」
こうした取り組みが知られないままになっていたのは厚生労働省のPR、私たちメディアの伝え方にも課題があったのかもしれません。限りある医療の資源を有効に活用するため対策は待ったなしです。

懇談会は年内に議論の結果をとりまとめる予定です。このまま放置すれば日本の医療は崩壊するとも言われるこの問題にどんな対策が打ち出されるのか、さらに取材を深めたいと思います。