地価上昇率日本一! 外国人爆買いの理由を調べてみた

地価上昇率日本一! 外国人爆買いの理由を調べてみた
「どうして、ニセコエリアばかりが…」 北海道のニセコエリアでは、来年あの外国資本の超高級ホテルがオープン予定。世界中の富裕層や外国資本を呼び込み続けています。ことし9月の地価調査でも、ニセコエリアの中心地、倶知安町が商業地、住宅地ともに全国1位の上昇率となりました。北海道を代表する観光地の1つ、小樽市出身の記者からすると、なぜここまで違うのか、不思議でなりません…。ニセコエリアが外国人に人気である理由とは? 調べてみると、とんでもないことになっていました。(札幌放送局記者 藤本智充 函館放送局記者 川口朋晃)
ニセコエリアと呼ばれるのは、北海道の倶知安町、ニセコ町、蘭越町の3つの町。このエリアで外国資本がどの程度、不動産を取得しているのか、調べようとするも、いきなり壁にぶつかりました。

ニセコエリア不動産 外国資本1500超が所有

ニセコエリアと呼ばれるのは、北海道の倶知安町、ニセコ町、蘭越町の3つの町。このエリアで外国資本がどの程度、不動産を取得しているのか、調べようとするも、いきなり壁にぶつかりました。
森林については、北海道庁の調査がありましたが(5月29日公開「水資源が狙われている問題を調べてみた」)、宅地やマンションなどの不動産については、国や自治体などのデータが全くないのです。諦めきれない記者は、自治体への取材を重ね、登記簿をとり、独自に集計してみました。

半年ほどかけて調べた結果、3つの町で不動産を所有する外国資本の数は、少なくとも1512にのぼることがわかりました(NHK調べ ことし1月時点)。
国別の内訳をみると、最も多いのは香港の法人や個人で560。次いでオーストラリアが390、シンガポールが191となっていました。このほかにもアラブ首長国連邦やプエルトリコといった国もあり、判明した国と地域は合わせて35にも及んでいました。

どうして、これほどの国や地域の法人などがニセコエリアを…。調べてみて、あらためて疑問がわきました。

ステータスで不動産に50億円!?

海外の所有者に直接、その理由を聞きたいと思い、不動産関係者と交渉を重ねましたがここでも難航。ようやく話が聞けたのは、ニセコエリアで50億円規模のコンドミニアムの建設を計画しているという中国の30代の男性とその妻でした。

男性は、世界の富裕層を顧客に持つプライベートジェット販売会社の社長だといいます。本人も30代の若さで財を成し、およそ200億円の資産を世界中で運用しているという、まさに大富豪です。夫婦は、取得したスキー場のふもとの土地に記者を案内してくれました。
「なぜ、ニセコエリアで不動産を取得するのか?」

ずばりその疑問をぶつけてみると、こう話してくれました。

「良質なパウダースノーで多くの外国人観光客をひきつけている。海外のスキーリゾートに比べてニセコは大きく発展する潜在能力があり、利益が十分に見込める」
さらに夫はドローンを飛ばし、みずからの土地を撮影しながら、こうも話してくれました。

「それにニセコエリアに投資するのはステータスでもある。友人たちにも自慢できるからね」

謎の“ヴェブレン効果”

「友人たちに自慢できるからー」

実は、記者はこのフレーズを、5月に公開した「水資源が狙われてー」を取材中にも聞いたことがあります。

私たちには到底理解できないのですが、海外の富裕層は、ステータスで不動産を買うというのです。不動産関係者などによると、こうした行動・心理は、富裕層によく見られるもので、「見せびらかしの消費」、「ヴェブレン効果」とも呼ばれるものだと説明してくれました。

「なぜ、ニセコエリアに投資することがステータスなのか?」

いま一度、さきほどの中国の若き大富豪にぶつけてみました。その答えを聞いて、驚きました。

「ニセコエリアはすでに世界の“高級スキーリゾート”として注目されている。そこに投資することはステータス以外のなにものでもない」
リゾートエリア中心部と羊蹄山
えっ、なんと、記者の知らないうちに世界の“高級スキーリゾート”というブランドで認知されていたとはー。映画やドラマなどで見る、海外セレブが訪れるというカナダやスイスやフランスなどにある、あの“高級リゾート”の仲間入り!? それもふるさとの小樽ではなくニセコエリアが…。

“高級スキーリゾート”というブランド

信じられない記者は、今度はニセコエリアを訪れ、直接、不動産業者に聞いて回りました。

地元の不動産業者に聞くと「リゾートエリアの中心部はすでに外国資本に握られていてありえない価格で取り引きされている。しかも今ではその取り引きに日本人が関わることはほとんどない」。

実際、中心部の所有者や買い求めている人の多くは外国人で、仲介するのもほとんどはオーストラリアやカナダなどの外資系の不動産会社だというのです。中心部のコンドミニアムでは、分譲された1部屋の価格が6億円を超えるものまで出ているといいます。
高級コンドミニアムの部屋
そこでニセコエリアの不動産事情に詳しい、別荘地の管理会社の代表で、海外の投資銀行にも勤めていたエディ・ギルメットさんにずばり聞きました。

「近年、ニセコエリアは高級スキーリゾートとして海外の富裕層に認知されるようになりブランドとなっている。しかもヨーロッパや北アメリカの高級リゾート地と比べるとまだまだ不動産価格が安く、魅力的なエリアとしても注目されている」
どうやら北海道民の記者が知らないうちに、ニセコエリアは本当に“高級スキーリゾート”になっていたようです。

だから、世界中の富裕層や外国資本がニセコエリアで不動産を取得し、高級ホテルやコンドミニアムが建設され続けているということだったのです。

高級スキーリゾートの条件は…

でもなぜ、ニセコエリアは“高級スキーリゾート”となることができたのでしょうか。

良質のパウダースノーは北海道や日本のほかの地域にもあるのに…。その疑問をギルメットさんにぶつけると、こう話してくれました。

「雪質、おいしい料理、空港からのアクセスの良さ、そして英語のインフラ。このうち1つでも欠けていれば、これほどの人気が集まることはなかったでしょう。ただ、あえて1つ大きな条件をあげるとすると、英語ですべて完結できる環境があったことですね」

ニセコエリアはもともとその魅力に気づいたオーストラリア人が中心になって開発を進めてきたところで、宿泊施設をはじめスキー場や飲食店、不動産会社など至るところに外国人スタッフが常駐しています。
当然、リゾートエリア中心部の不動産を買っていたのも、もともとはオーストラリア人で、以前から不動産の売買手続きなども英語で行われてきました。このためニセコエリアの中心部では、日本語は一切必要なく、すべてが英語で完結する環境ができあがったのです。

さらにギルメットさんは富裕層の消費心理・行動について、こうも説明してくれました。

「彼らは1人ぼっちになりたくないのです。だから彼らが欲しがるのは、山を中心にした半径1キロの範囲だけです。それは世界のどのスキーリゾートでも同じです。中心から離れれば離れるほど不動産が安く買えることを彼らは知っています。しかし、英語が通じない場所でどのように家を建て、そして誰が管理してくれるのでしょうか。だからこそ山に近く、英語のインフラが整っている場所に需要が集中します。そこから離れたくないのです。これに対し、供給できる不動産の数は限られています。この独自の需要と供給のバランスが価格の上昇を引き起こしています。ニセコが海外の富裕層にとって“熱い”リゾート地となっているのはそのためなのです」
ニセコエリアの不動産会社のパンフレット

地元では懸念も…

その一方で、地元の住民からは不安の声も聞かれました。

その1つが生活コストの上昇です。例えば、倶知安町は人口が1万5000人余りの小さな町ですが、アパートの家賃はワンルームでも月7万円というところがあり、札幌市並みになっています。わざわざ町外の安いアパートを借りてそこから通う住民もいるということです。

また、地価の上昇とともに固定資産税や相続税も徐々に上がっていて、3年前と比べて税負担は10%から20%程度上昇したといいます。
倶知安町で飲食店を営む女性は「観光客が来るのは冬だけなので夏場は節約しなければならない。もう高齢だし、固定資産税や物価がじわじわと上がる中、仕事ができなくなったらと思うと不安です」と話していました。

増え続ける外国からの投資とどう向き合っていけばいいのか、真剣に考えなければならない時期に来ていると感じました。

「タックスヘイブン」がなぜニセコに?

そしてもう1つ、今回の取材でわかったことがあります。

ニセコエリアの不動産を所有する外国資本の中には、いわゆるタックスヘイブン=租税回避地に拠点を置く法人が多く含まれていたのです。タックスヘイブンといえば、世界各国の首脳や富裕層の隠れた資産運用を明らかにした、いわゆる「パナマ文書」でも話題になった国や地域のことです。

高級スキーリゾートに生まれ変わりつつあるニセコエリアでいったい何が起きているのでしょうか。引き続き、取材をしていきたいと思います。