「やっぱり買い物はやめられない」“その効果も実証”

「やっぱり買い物はやめられない」“その効果も実証”
足や腰の痛みを訴える高齢者の割合が3か月間で半分以下に? そんなデータが評判を呼んで注目を集めている取り組みが山形県で始まりました。「買い物は恐るべし」と感じた取材です。(山形放送局記者 風間郁乃)

ショッピングリハビリって?

将棋の街として有名な山形県天童市。先月、市内のスーパーに80代の男女6人が集まりました。ふだんは、足や腰の痛みなどで、ほとんど外出できなくなってしまった人ばかりです。話を聞いてみると、何と買い物に来るのが2年ぶりという人もいました。
取り組みの名前は「ショッピングリハビリ」。買い物をしてもらうことで、介護が必要になるのを予防しようと、天童市が全国で初めて本格的に導入しました。

“歩けなくなる”強い不安

参加した村岡イシヨさん(87)です。3年前に夫を亡くして、息子さん夫婦と暮らしています。
もともと買い物が好きだったという村岡さん。以前は、夫に車を運転してもらって、夫婦で買い物をするのが楽しみだったそうです。夫が亡くなったあとも、しばらくは自転車で買い物に出かけていましたが、よく転んでしまうようになって、ひざや腰の痛みも出てきました。そのため、ここ2年ほどは家族に買い物をお願いするようになっていたそうです。
村岡さんは「家にいてもテレビを見るばかりで、外出することも少なくなりました。このまま歩けなくなってしまうのではないかと思うと怖いです」と話していました。

知らず知らずに体を動かせる

そこで、出歩く機会を増やしたいと、ショッピングリハビリに参加することにした村岡さん。当日は、介護施設の職員が車で自宅まで迎えに来てくれました。そのまま、近くのスーパーへ向かいます。
店に着くと、簡単なガイダンスを受けて、早速買い物のスタートです。転倒したりしないよう、介護職員が一緒に店内を回ってくれます。
買い物に使うのも、リハビリのために特別に準備された専用のカートです。足腰に痛みがある村岡さんでも、簡単に押すことができる作りになっています。
さて、村岡さんが最初に向かったのは、お菓子のコーナー。チョコレートやポテトチップスなどを手にとっては、次々とカゴに入れていきます。聞いてみると、やっぱり好物ということでした(笑)。

商品の中には、頭より高い棚や足元に並べられたものもあります。商品を取ろうとして、手を伸ばしたり、しゃがんだりすることで、知らず知らず体を動かすことにつながっています。

“足が軽くなったみたい”

村岡さんの表情もだんだん生き生きしてきました。そして、買い物が終了。気がつくと、何と買い物を始めてから1時間近くたっていました。

ここで、買い物を始める前に足につけていた「万歩計」をチェックします。気になる結果は…958歩! 距離にすると、なんと574メートルにもなりました。
さすがにお疲れだろうと思いきや…、村岡さん、何だか充実した表情です。感想を聞くと「おもしろかったです。歩くと足が軽くなったみたい」とうれしそうに話していました。

介護予防に“手応え”

天童市の担当者も手応えを感じたようです。保険給付課の課長補佐をしている後藤栄さんは「想像していた以上に皆さんすごく笑顔を見せていたので、楽しく運動できるのがすごくよかったと思いました。これからショッピングリハビリ以外にも介護予防のためのいろんな選択肢を出していきたいです」と話していました。

足腰に痛み 半数以下に

それにしても「本当に買い物するだけで介護予防になるの?」と疑問に思う人も多いと思います。

そこで、天童市の担当者に聞くと、以前、地域を限定して導入した島根県雲南市がショッピングリハビリの効果を検証していました。雲南市では去年9月に「ショッピングリハビリ」をスタート。参加した51人のうち、80%の人が、当初は「足腰の痛み」や「運動機能の問題がある」と判定されていましたが、3か月後には32%にまで減少したそうです。

認知症予防にも期待

さらに、認知症への効果を期待する声も出ています。天童市のデイサービスの施設などで作る「天童市通所介護事業所連絡協議会」の伊藤順哉会長は「ショッピングリハビリでは、買い物の前に、自宅で何を買うかを考えます。そして、店に来てからは、歩きながら、自分が買いたい商品を探すので、『何かをしながら考える』という行動が、認知症にも効果があるという面もあります」と話していました。
天童市でも、今後、参加者に聞き取り調査などをして、どのような効果があったか検証するということでした。

全国初 全域導入の鍵は?

しかし、どうしてほかの自治体はこれまで本格的に導入しなかったんでしょうか。

ショッピングリハビリには、スーパーへの送迎や買い物の付き添いなどが欠かせませんが、全国で導入を進めているコンサルティング会社の「光プロジェクト株式会社」によると、協力してくれる介護施設はまだまだ少ないということです。

一方、天童市は、今回、市内の9つの介護施設が協力を表明してくれました。その結果、介護施設が地区を分担して、送迎や付き添いをしてくれることになり、全域での導入が実現したそうです。ちなみに、利用料の9割は国と自治体が負担してくれるということで、利用者の負担は、月額で1410円となっています(月4回まで利用可)。

背景には“2025年問題”

天童市がショッピングリハビリを本格的に導入したのは、もちろん「高齢者に生き生きと生活してもらいたい」という理由からですが、実は切実な事情もあります。

皆さん“2025年問題”というのをご存じでしょうか。いま日本で介護が必要な高齢者は650万人を超え、ここ10年で1.4倍に急増しています。さらに、7年後の2025年には、団塊の世代が全員75歳以上になって、介護が必要な高齢者はますます増えると見られています。これが“2025年問題”です。
介護サービスの費用は、自治体も負担します。このため、天童市としても、財政上、どうにかして介護が必要な高齢者を減らしたいというねらいがあるんです。

高齢者が生き生きと暮らせる社会へ

今回、取材していちばん印象に残ったのが、参加した方々が買い物をしているときのうれしそうな表情でした。買い物に出かけることができず、ほしいものも自分で買えないというのは、やはり寂しいものだと思います。
自治体の財政的な事情も大切ですが、高齢者ができるだけ長く、生き生きと生活できる社会を作っていくことが、今、求められていると感じました。