あれもダメ?これもダメ?

あれもダメ?これもダメ?
「ほら、静かにしなさい!」「勉強中にラジオを聞かない!」ー。子どものころ、よく母親に叱られた懐かしのワンシーン。でも、同じように大人が言われていたとしたら…。まさか!と思ったそこのあなた。実はあったんです。起きた場所は、あるまちの議会。そのきっかけは「品位」という言葉でした。(ネットワーク報道部記者 郡義之、熊本放送局記者 杉本宙矢)
「議場をばかにしちゃいかんよ!」
「ルールを守らないやつは発言するな!」

先月28日の熊本市議会。ある女性議員による行為で、議場内は騒然となりました。

緒方夕佳議員がかぜを理由にのどあめを口に含んだまま質疑を行ったことをめぐり、審議は紛糾。

のどあめで…

「議場をばかにしちゃいかんよ!」
「ルールを守らないやつは発言するな!」

先月28日の熊本市議会。ある女性議員による行為で、議場内は騒然となりました。

緒方夕佳議員がかぜを理由にのどあめを口に含んだまま質疑を行ったことをめぐり、審議は紛糾。
8時間にもわたって審議が中断する事態にまで発展しました。

議長らから指摘されたのが、「議会の品位を規定した規則に抵触するおそれがある」というものでした。

市議会では懲罰動議が可決されましたが、緒方議員は謝罪要求を拒否したため、出席停止処分を受けました。

礼儀・礼節の問題

そもそも、熊本市議会には、審議を円滑に行うための「会議規則」というルールがあります。

149の条文からなり、会議を進めるための手続きなどが細かく書かれています。

その中に、議長らが指摘した部分に該当する「議員は、議会の品位を重んじなければならない」という条文があります。

一方で、今回指摘された飲食に関する禁止事項はありません。

では、「品位」とは何でしょうか。

国語辞典を見ると、「人や事物に備わっている気高さや上品さ」などと解説されています。
緒方議員はNHKの取材に対し、「聞き苦しくならないように薬用のどあめをなめていただけだ。議会が8時間も中断したことは非常に残念だった」と話します。
一方、熊本市議会の原口亮治議会運営委員長は「あくまで、一般的な社会常識と議員としての礼儀・礼節の問題で、相談もせずに演壇でのどあめをなめたのは不適切だ」と話しています。

ネット上では?

今回の問題にネット上では、さまざまな反応が見られました。
まずは、議会そのものへの批判。
「のどあめをなめていた女性議員を懲罰動議にかけ、可決したことが、何よりも議会の品位をおとしめている」
「のどあめをなめると品位がない…。居眠りしているのは品位があるのか?」などと、厳しい意見が相次ぎました。

一方で、緒方議員への意見。
「どこの会社でも、あめをなめながらプレゼンする人間はおらんやろ」
「議会への敬意と、ルールを守る態度が欠けていたことが問題」
「のど飴なめるなら、会議前にやるでしょ」

どちらにも非があるという指摘も。
「私が議員でのどが痛いなら別の手段で対処するが、『マナー違反だ!』と騒ぎ立てて8時間も議会を中断させる連中も大変マナーが悪い」
「あめ玉のコロコロの音は生理的に嫌だけど、この議会の対応も生理的に嫌なんだよなあ。なんかどちらの肩をもつ気にもならん」

実は過去にもあった

議会と品位をめぐる問題。実は今に始まった話ではありません。

過去にも、全国各地の地方議会で、こうした問題が起きていました。
例えば、青森県の三沢市議会。

今からおよそ20年前の平成8年、当時の男性議員がスラックスとワイシャツ姿で本会議に出席している事に対し、ほかの議員から「議会の品位が損なわれる」という指摘があったのです。

このため、市議会は、男性議員に上着とネクタイの着用を義務づける「服装規則」を制定。

その後、ことし6月の定例市議会からは、ノーネクタイでの軽装が期間限定で認められたものの、「服装規則」は今も残っています。

三沢市の議会事務局の担当者は、「常識を持ちながら、真剣な議論を行ううえで、外見上も身なりをきちんとしておくことも品位なのだろうと思います」と話します。

また、別の県議会では、プロレスラーの男性議員がトレードマークの覆面をつけたまま、本会議に臨むかどうかで議論になったこともありました。

品位の解釈「難しい」

調べれば調べるほど、謎が深まる「品位」という言葉。

実は全国の市議会が会議規則を定める際の見本となる条文があることを知りました。

それが「標準市議会会議規則」というもの。

全国市議会議長会(東京)が昭和31年に作ったもので、その中に、「品位の尊重」という文言を見つけました。
なぜ、このような文言が入ったのか。

全国市議会議長会は、当時のことはわからないとしながらも、「議員は良識や常識を持って、仕事をしていることが前提だが、品位のボーダーラインを示すことは難しい。標準の規則はあくまで参考のためであって、地方分権の中にあって、画一的なものを見せていくのは違和感がある」としています。

うーん、ますます、わからなくなってきました。

専門家はどうみる?

そこで、地方議会制度に詳しい、山梨学院大学法学部の江藤俊昭教授を訪ねてみることにしました。

江藤教授は、議会の大前提として、住民に開かれた空間で、自由に発言できる議会をどう作るかが大事だと強調したうえで「最初から決められたルールをずっとやっていって、逸脱すれば、『品位を損なう』というのは、学芸会的な議会運営になってしまっている。あめをなめたかどうかというのは、極めてさまつな話。時々寝てしまったり、議事を妨害する行為もある。何が議員の品位として求められているのか、今一度、事の本質を議論する時だ」と話します。

また、カナダの最大都市トロントの議会では、飲み物や食べ物を自由に口にしながら議論している例を挙げ、「もう少し自由さを取り入れることを、そろそろ考えていく必要がある。時代に即した会議規則の改定というのが必要ではないか」と訴えています。

議会の品位って?

地方議会は、私たちの貴重な税金を使って、まちの将来を決める重要な場所。だからこそ、むだがなく、一点の曇りもない議会運営をすることが求められているはずです。

決められたルールを守ることは大事ですが、のどあめをなめたことで、処分にまで発展した出来事は、住民の目にはどう映ったのでしょうか。

さまざまな地方議会の姿からかいま見えた「議会の品位」。

山梨学院大学の江藤教授は、私たちの取材にこんなことを話してくれました。

「議場でしっかり議論する姿勢こそが、『議会の品位』。住民に議会が開かれ、そして尊敬される。新しい時代にこそ、新しい議会を作っていく必要があると思う」

とらえ方が十人十色の「品位」という言葉。どれだけ実を伴って、住民の付託に応える議論をしていくのか。

ぼんやりした言葉の中で、かすかに見つけた答えのような気がしました。