子どもの像とモニタリングポスト

子どもの像とモニタリングポスト
福島市が設置した現代アートの作品で、防護服を着た子どもの像「サン・チャイルド」。設置後に「誤解を招く」などと批判的な意見が寄せられ、今月、市は像を撤去する方針を決めました。福島第一原発の事故が起きてから7年半。原発事故をめぐる意見の対立や混乱は「サン・チャイルド」だけではありません。放射線量を計測するモニタリングポストの「撤去計画」を巡って、いま大きな議論が起きています。(福島放送局記者 桜田拓弥)
現代アート像「サン・チャイルド」は、防護服を着た子どもがヘルメットを外して立ち、遠くを見つめてほほえんでいる高さ6.2メートルの作品で、現代美術家のヤノベケンジさんが福島の復興への願いを込めて平成23年に制作しました。

像を寄贈された福島市が、ことし7月に子育て支援施設の前に設置したところ、「原発事故の後、福島市では防護服が必要だったと誤解を招く」などの批判の声が市に寄せられました。

一方で「作品の意図に共感するので撤去しないでほしい」といった意見もありましたが、市は設置から1か月で像を撤去する方針を決めました。

子どもの像に“批判”と“共感”

現代アート像「サン・チャイルド」は、防護服を着た子どもがヘルメットを外して立ち、遠くを見つめてほほえんでいる高さ6.2メートルの作品で、現代美術家のヤノベケンジさんが福島の復興への願いを込めて平成23年に制作しました。

像を寄贈された福島市が、ことし7月に子育て支援施設の前に設置したところ、「原発事故の後、福島市では防護服が必要だったと誤解を招く」などの批判の声が市に寄せられました。

一方で「作品の意図に共感するので撤去しないでほしい」といった意見もありましたが、市は設置から1か月で像を撤去する方針を決めました。
福島市 木幡市長
福島市の木幡浩市長は記者会見で「賛否が分かれる作品を『復興の象徴』として市民の皆様の前に設置し続けることは困難と判断した」と述べました。

原発事故が起きてから7年半。今なお、事故をめぐる意見の対立や混乱は続いています。

モニタリングポスト撤去計画

原発事故の後、国が福島県内に設置した、空間の放射線量を計測するモニタリングポストをめぐっても、いま大きな議論が起きています。

ことし3月に国の原子力規制委員会は、モニタリングポストのうち最も数が多い「リアルタイム線量測定システム」の大部分を撤去する方針を示しました。

これは、白い円柱タイプのモニタリングポストで、脇には、空間の放射線量を示す電光掲示板が設置されています。

1台当たりの値段はおよそ80万円。原発事故のあと、幼稚園や保育園、学校を中心に福島県内におよそ3000台が設置されました。

国は、このうち、原発周辺の12市町村をのぞく47の市町村の2400台を3年かけて撤去する計画ですが、異論が噴出しています。

今月、三春町や須賀川市で開かれた住民説明会。国の担当者はモニタリングポストの撤去計画に理解を求めました。
住民説明会 8月(福島 三春町)
住民からは批判の声が相次ぎました。
「モニタリングポストは、線量がどういう状態かを可視化できるという意味で住民の安心材料になっている」
「住民の安全の担保と事故を起こしたことについての福島県民に対するおわびとして半永久的に設置したものだと思っていた」
「燃料デブリの取り出し方法すら確立されていない今のタイミングで撤去しようとする姿勢が全く理解できない」

年間6億円の維持費

国はなぜモニタリングポストを撤去する方針を決めたのでしょうか。

まず、放射線量が下がり、安定していることが理由です。

福島駅近くの8月30日の放射線量は、0.13マイクロシーベルト。

原発事故が起きた直後の100分の1ほどに低下し、健康に全く影響がないレベルになっています。

また「リアルタイム線量測定システム」のモニタリングポストは耐用年数が8年ほど。

機器を更新するには高額な費用が必要なほか、維持にも年間約6億円がかかるというのです。

箱型の別のタイプのモニタリングポストが福島県内におよそ580台あり、この機器があれば放射線量は十分計測できると説明しています。

いまだに残る放射線への不安

しかし、原発事故の恐怖を経験した県民の多くは放射線量が数値で「見えなくなる」ことに不安を感じています。
事故当時、福島市の保育所で勤務していた大橋玲子さん(40)。

大橋さんが働いていた地区は市内では比較的放射線量が高い地域でした。

震災後1年ほどは、子どもたちを外で遊ばせることができず、園舎の廊下で運動させたり、遊戯室にシートをひいてプール遊びをさせたりしていました。

その後、外で遊べるようになってからも、子どもたちの散歩コースは保育士が専用の機器で測定して放射線量のマップを作ったうえで細心の注意を払って決めていました。
大橋さん自身も2人の息子の母親。

震災が起きた当時、福島市から多くの人たちが避難する中、自分たちも避難すべきか、保育所の子どもたちのために福島市に残るべきか、夫と何度も議論を重ねました。

見えない放射線への不安と葛藤し、悩んだ末、最終的には福島市に残る決断をしました。

大橋さんは「廃炉作業が今後何十年も続く中、また何が起きるか分からない。なぜ今、撤去を進めようとするのか。その意図が全く分からない」と話しています。

「無用な不安をかき立てる」

一方、モニタリングポストの撤去に賛成する住民からは、2020年に福島市で東京オリンピックの野球とソフトボールの試合が行われる際にモニタリングポストが目立つと、国内外から訪れる人の無用な不安をかき立ててしまうのではないかという声も上がっています。

撤去計画をめぐる賛否がある中、原子力規制庁は年内いっぱい各地で住民説明会を行ったうえで、「住民の意見を踏まえ原子力規制委員会のメンバーに再度議論してもらう」としています。

また、来年度予算案の概算要求でも、モニタリングポストの維持費として今年度と同じ規模の6億円を盛り込みました。

「トリチウム」の処理も問題に

国の有識者会議の公聴会 8月30日(福島 富岡町)
8月30日、福島第一原発にたまり続けている「トリチウム」という放射性物質を含む水の処分について国の有識者会議が一般の意見を聞く公聴会が始まりました。

福島第一原発で出る汚染水を処理したあとの水には、取り除くのが難しい「トリチウム」が含まれていて、原発の構内でおよそ92万トンが保管され、増え続けています。

この水の処分について、国の有識者会議は海への放出や地中への処分といった選択肢のうち、トリチウムの濃度を薄めて海に放出する方法が最も早く、低コストで処分できるとする評価結果をまとめています。

これに対して、福島県漁連は「海への放出は、漁業に壊滅的打撃を与えることは必至だ」など風評被害の懸念があるとして反対しています。

放射性物質の濃度を監視したうえで海への放出を容認する意見なども出ていて、有識者会議がどのような方法を国に提言するのか、地元ではその行方に注目が集まっています。

福島と向き合って!

福島第一原発 2011年3月12日
原発事故から7年半が経過し、福島県の多くの地域では普通の生活が戻っていますが、ふとしたことをきっかけに「見えない」放射線に対する不安や恐怖がよみがえるという人も少なくありません。

原発事故が残した傷痕は今も残っています。

福島第一原発の廃炉作業は溶け落ちた燃料の取り出し方法さえ決まっていません。

放射線への不安や風評被害への懸念など、難しい問題が起きるのはこれからも避けられないかもしれませんが、全国の人たちにも福島で起きる問題の背景に思いを巡らせ、向き合ってほしいと感じます。