緊迫! “異例”の阿波おどり

緊迫! “異例”の阿波おどり
8月13日夜、ふだんは人通りが多くない徳島市中心部の商店街のアーケード周辺は異様な熱気に包まれていました。阿波おどりを主催する実行委員会の制止を振り切って、色鮮やかな衣装をまとった1000人以上の踊り手たちが時に優雅に、時に勇壮に練り歩いたのです。400年以上とも言われる長い歴史の中でも例をみない“異例の事態”。いったい、何が起きているのでしょうか。(阿波おどり取材班 徳島放送局 久野晴之 宮原豪一 文入太郎 名古屋放送局 江田剛章)

新生!阿波おどり

「踊るあほうに見るあほう、同じあほうなら踊らにゃ損々」

有名な掛け声で知られる徳島市の阿波おどり。毎年8月、4日間の開催期間には、国内外から100万人を超す観光客が訪れます。
ことし、この阿波おどりに大きな変革がありました。主催者が46年ぶりに変わったのです。新たに阿波おどりを主催することになったのは、徳島市を中心とする実行委員会。“異例の事態”は、この新たな実行委員会の運営をめぐる混乱に端を発しているのです。

“赤字4億円”の衝撃

主催者変更のきっかけは、これまで地元の新聞社とともに阿波おどりを主催してきた徳島市観光協会が抱える巨額の赤字が明るみになったこと。その額は4億円にのぼりました。
台風によるチケットの払い戻しといった不測の事態に加え、採算を度外視した演出やサービスへの支出などで赤字が積み重なっていたのです。

事態を重く見た徳島市は、観光協会の破産手続きを裁判所に申し立て、観光協会の解散が決定。

そしてことし4月、市が中心となって新たな実行委員会を組織し、阿波おどりを運営することになりました。

改革への道険し

新たな実行委員会が取り組んだのが運営の改善です。これまで特定の業者に発注してきたPR用のポスターを競争入札に変えるなどして予算の削減に取り組みました。

波紋を広げた“総おどり”中止

そんな中、実行委員会が下したある決断が、運営の混乱を招きます。

それが、「総おどり」の中止です。

総おどりは、4日間の期間中、毎日、プログラムの最後に1000人を超す踊り手が一か所の演舞場に集まって一斉に踊りを披露する演出です。
均斉の取れた踊りと鳴り物が奏でる旋律、色とりどりの衣装が織りなす集合美は阿波おどりで最大の見せ場と言う人も多く、さだまさしさんの原作で徳島を舞台にした映画、「眉山」でも印象的なシーンとして取り上げられています。

なぜ“見せ場”を中止? 狙いは財政改善

この総おどりについて実行委員会が中止を決定した目的は、チケットの売り上げ向上による財政の改善でした。

阿波おどりでは、有料の観覧席を設けた演舞場が4か所設けられますが、チケットがよく売れるのは総おどりが開催される1か所の演舞場でそのほかの3か所では売れ行きが伸び悩んでいました。
そこで4か所に技能の高い踊り手グループを均等に配置すれば、売り上げを伸ばせるのではないかという狙いがあったのです。

有力団体が反旗 事態が複雑化

この決定に猛反発したのが、長年にわたって総おどりを実施してきた有力な踊り手のグループでつくる団体、阿波おどり振興協会でした。振興協会は卓越した技量を持つ14の踊り手グループ(阿波おどりでは「連」と呼称される)を束ねる団体で、阿波おどり全体の運営に大きな影響力を持っています。この振興協会が総おどりの中止は絶対に受け入れられないと、実行委員会に反旗を翻したのです。

“総おどり”開催をめぐる応酬

懸案の総おどりはいったいどうなってしまうのか?

事前にさまざまな情報が乱れ飛びましたが振興協会は口を固く閉ざしたままでした。もし総おどりが独自に実施されることになれば、群衆の中で危険も想定されます。

実行委員会は、「規律ある行動」、つまり総おどりの自粛を求める文書を振興協会に送ると共に、実行委員会の委員長を務める徳島市の遠藤彰良市長が開催2日前に記者会見し、改めて自粛を訴えました。

“総おどりを実施する”

そして迎えた開幕の日。

振興協会の山田実理事長が取材陣に対し、「あす(13日)午後10時から総おどりを実施する」と突然明らかにしました。
これに衝撃を受けたのが実行委員会です。再度、振興協会に自粛を求める文書を送りますが、逆に振興協会の担当者が市役所を訪れ、総おどりへの協力を求める文書を手渡すという一幕もありました。

動き出す踊り手

13日午後10時前。振興協会の総おどりを一目見ようと、アーケードの両側をぎっしりと観衆が埋め尽くしました。
実行委員会のメンバーである市の幹部は、現場で振興協会の山田理事長に面会。「危険なので自粛してほしい」と最後の説得を試みようとします。
しかし説得には応じず、総おどりが始まりました。

“ぞめき”と呼ばれる阿波おどり特有のリズムが奏でられる中、1000人以上の色鮮やかな衣装をまとった踊り手たちが動き出します。およそ120メートルの道路を30分ほどかけて、時に優雅に、時に勇壮に練り歩きました。

沿道を埋め尽くした観客からは、大きな拍手と歓声が送られていました。
説得に応じてもらえなかった実行委員会は現場で混乱が起きないように観客の整理を手伝っていました。警察によりますと、総おどり会場やその周辺でのけが人や事故などの情報はありませんでした。

観客の1人は「今までにない盛り上がりで、見てる方も緊張感があってよかった。ぜひ続けてほしい」と話していました。

一方で、安全面を懸念する声も聞かれました。地元の70代の男性は、「子どもが押しつぶされそうな感じで危なかった。こういう道での総おどりはやめた方がいい」と話していました。

総おどりを終えた振興協会の山田理事長は「多くの方の熱気を受け止めることができ、やってよかったと感じています。本来、総おどりは広いスペースが必要なので来年は演舞場で踊りたい。今後は市民と実行委員会が話し合い、知恵を出し合うことが必要だ」と話していました。

“祭りのあと”は…

総おどりの直後、徳島市の遠藤彰良市長は「演舞場以外での大規模な踊りは大変危険なため再三にわたり実施しないよう求めてきたが、それを無視して行われたことは誠に遺憾です。今後の対応は実行委員会で十分協議したい」というコメントを出しました。

一方の振興協会は、安全面や運営面への影響を考慮し総おどりの実施はこの日1日に限るとしました。ただ、実行委員会と振興協会との溝は残ったままです。

徳島じゅうを熱狂の渦に包む阿波おどり。会場にいる誰もが、心から踊ることを楽しみ、またその踊りに魅了されます。その伝統を壊すような対立はあってはなりません。
今回の阿波おどりで異例の事態がなぜ起きてしまったのか、そして阿波おどりの未来に何が求められているのか、これからも取材を進めていきます。