お盆の精霊馬 すごいことに

お盆の精霊馬 すごいことに
故人の霊が家族のもとに帰ってくるとされるお盆。その乗り物としてなすやきゅうりで作った精霊馬をお供えする習慣が各地にあります。でもネット上の投稿を見ると、火の鳥にロボット、ウーパールーパーにミニカーなどもう好き放題。すごいことになっています。(ネットワーク報道部記者 目見田健 玉木香代子 吉永なつみ)

ご先祖様も大満足!?

すくっと伸びた首から尾までの姿が優美な火の鳥に、角やたてがみが猛々しい龍。茨城県に住むのんさん(31)が、宮城県の実家に帰省中に手作りした作品です。
火の鳥はきゅうりを育てている実家の畑仕事を手伝っている最中に、龍は、直売所で売っていたなすを一目見て思いついたそうです。

ポイントは同じ実家の畑で育てているアスパラガスを使うところ。火の鳥は、首の部分に加え、アスパラガスの葉っぱで尾を作りゴージャス感を演出しました。龍にもアスパラガスの角やたてがみが欠かせません。ちなみにこの世に来る時は火の鳥、あの世に戻る時は龍に乗っていただくそうですが「乗り心地は保証しません」とのこと。
去年は巨大なきゅうりを見てひらめいたキリンと、へたのうねりが特徴的ななすでウーパールーパーを作ったそうです。いろんな動物に乗せられるご先祖様も大変です。

故人の好みを反映

故人が好きだった動物をモチーフに作る人もいます。

こちらは去年2月、91歳で交通事故に遭い亡くなったおじいさんのために黒光りするなすで作った作品。
「競馬が好きだったじぃさんの為に普通の馬よりも速い競争馬にしてみました」

こう話すのは東京 台東区の佐藤一広さん(20)。調理師の資格を持つ母親が、包丁とカッターなどを駆使して作ったそうです。

精霊犬も登場

一方、こちらは福島県いわき市の勇夢将士さん(29)がことし2月に亡くなった祖母の美佐子さんのために作った精霊“犬”。生前、美佐子さんになついていたゴールデンレトリーバーのコロンをモデルにしました。
「コロンは祖母と散歩に行っていたのですが、高齢の祖母が途中で休憩する場所をすぐに覚えてその場所で待つようになった。その優しさに祖母はますますメロメロになったようです」と勇夢さん。
出来上がったのは3つのなすを使った体長10センチ余りの精霊犬。試しに本物のコロンの近くに置いてみたところ、間違って食べようとしたということです。
美佐子さんが精霊犬を気に入ってくれるか聞いたところ、「ひょうきんなおばあちゃんだったので孫のセンスにきっと『よくこんなものこしらえたねぇ』って、喜んでくれていると思います」と話してくれました。

そもそもは…

故人の霊が家族のもとに帰ってくるとされるお盆。地域や宗派によってさまざまな方法で故人を迎え、そして送る風習があります。

きゅうりとなすで作る精霊馬は、きゅうりを足の速い馬に見立て、あの世から早く帰ってくるように、なすを牛に見立て、お供え物を運びながらゆっくりとあの世に戻ってもらおうという願いが込められているとされています。

意外と多いロボット派

ネット上で意外と目にするのが精霊ロボットです。こちらは東京 練馬区の味噌グラムさんの作品、その名も「キューリオン」。体長20センチほどの精霊ロボットです。
「自宅近くの野菜の産直所できゅうりを見ていたらロボットが作れるんじゃないかと思って。なんとなく…」

ちなみに去年作ったのはなす形ロボットの「ヤサイオー」でした。
味噌グラムさんは小学1年生の時に母親(当時39)が他界。五月人形に並べてプラモデルを飾っても笑って喜んでくれるような母親だったそうで、「きっとキューリオンも喜んでくれるはずです」と話していました。

娘にせがまれ作った新幹線

精霊新幹線も登場しました。秋田県に住む2人の子どもを持つ30代の母親が小学6年生の長女にせがまれて作ったのは、秋田新幹線の「こまち」。
長女から「ばぁばが早く帰ってこれるように車を作って」と頼まれたそうですが、それよりも早く帰ってこれそうな新幹線を作ってしまいました。

でも長女には一つ心配が…。

「ばぁばが帰るのも早くなっちゃう」

女性が「新幹線は早いからギリギリまでばぁばは居られてゆっくりできるよ」と説明したところ安心した様子だったそうです。

ギリギリまで遊んで!

なぜか、涼しげなプールに立ち寄っている精霊馬もいます。
埼玉県所沢市にあるジャンプ専用のプールです。お盆の時期は、皆さん墓参りなどに行ってしまうのか客が少ないとのことで、精霊たちにもひと泳ぎしてもらおうとプールの従業員が投稿しました。

「ご先祖様にはギリギリまで遊んで頂いて同じ早馬で渋滞に合わない様に帰って頂きましょう!」

あの~、ご自宅には帰らないんでしょうか?

もはやなすでもきゅうりでもない

「ご先祖様には馬よりも快適な乗り物で帰ってきてほしい」

そんな思いを込めて、お盆の時期、家の軒先にブリキの「ミニカー」をつるす地域があります。
米どころ庄内平野にある山形県遊佐町です。この地域ではもともと、イネ科の植物「マコモ」を編み上げて作った精霊馬でご先祖様をお迎えしていたそうです。それがなぜ、いつごろミニカーに置き換わったのか。

昭和42年ごろからブルーのトヨペット・クラウン(2代目)を軒先につるしているという遊佐町豊岡の佐々木正紀さん(69)に尋ねました。「はっきりとした起源はわからない」と前置きしながらも、背景の1つにあげたのはマコモの精霊馬の作り手が減っていたこと。さらに、昭和40年代はこの地域の農家の間にもマイカーが普及し始めた頃で、車を持つことへの憧れの気持ちも相まって、ミニカーを飾るようになったのではないかと話していました。

子どもの遊び道具ではない

同じ町内の三村弥四郎さん(72)が軒先につるしているのは昔、父親が買ってきたという日産スカイラインのブリキのミニカー。
お盆の時期に遊びに来る子や孫たちが、「ミニカーを見たら遊びたがりませんか?」と尋ねると、三村さんは「とんでもない!」と即答。

「子どもたちが遊ぶおもちゃとは全く別のものです。ご先祖様が乗って帰ってくるミニカーはお盆の時期以外は衣装ケースにしまって大切に保管しています」

三村さんによると、亡くなった家族や親族が増えてくると、乗用車には乗り切れないということで、最近ではバスや飛行機をつるす家もあるということです。

それにしても自由な発想で作られている精霊馬の多いこと。お盆の時期に楽しく快適にこの世に戻ってきてほしいというご先祖様を思う気持ちに触れ、優しい気持ちになった取材でした。