「出社困難」その時出社すべき?帰宅する?

「出社困難」その時出社すべき?帰宅する?
震度6弱を観測した今回の「大阪直下地震」。発生した午前7時58分ごろ、関西地方は通勤ラッシュのまっただ中でした。ネット上では通勤中に電車に閉じ込められたとか、長時間歩いて出社することになったという声が数多く上がりました。さらには、そもそも災害時に出社する必要があるのか?という議論も起きています。東日本大震災では「帰宅困難者」への対応が課題となりましたが、今回、浮き彫りになったのは「出社困難」。どうすればいいのか、企業はどう対応すべきか、取材しました。
(ネットワーク報道部記者 伊賀亮人・吉永なつみ)
通勤時間帯に起きた今回の地震。在来線の中には10時間以上、運転を見合わせる路線があり、駅には運転再開を座って待つ人やタクシー待ちで長蛇の列ができ、関西地方の公共交通機関がマヒしました。

歩いて出社が議論に

通勤時間帯に起きた今回の地震。在来線の中には10時間以上、運転を見合わせる路線があり、駅には運転再開を座って待つ人やタクシー待ちで長蛇の列ができ、関西地方の公共交通機関がマヒしました。
JR大阪駅では座り込む人も 18日午前9時20分ごろ
ツイッター上ではこんな声が…

「2時間大阪まで歩いて仕事した」
「電車が緊急停車。線路歩かされて駅へ。駅から会社まで5キロ歩いた」

中には、自宅に帰ったら会社からタクシーで出社するよう指示されたことや、一刻も早く出勤すべきだったと叱責されたという投稿も寄せられています。

こうした声に「そもそも出社させる必要があるのか」といった声や、「社員が無理してでも出社しようとする社会はおかしいのではないか」といった疑問が投げかけられています。

また、医療関係者や消防など、緊急対応しなければいけない人たちが出勤できるよう、不急な出社は控えるべきだ、などという意見もあります。

出社した人の中には、結果的に、帰宅が困難になり避難所で一晩過ごした人の姿も見受けられました。
歩いて帰宅を急ぐ人の姿も多く見られました 大阪市

「有事休暇」で備え

「出社困難」をきっかけに企業や社員の対応が議論になっている今回の地震。実は企業の間では柔軟に対応していたケースもありました。

その1つがおよそ200人の従業員が働く神戸市中央区のソフトウエア会社「神戸デジタル・ラボ」です。この会社では、18日は急きょ会社全体で休日としました。

近年、全国で豪雨災害などが相次いでいたことから、災害時に社員を出社させるほうが危険な可能性もあるのではないかと、おととし「有事の特別休暇」という制度を導入していたのです。この制度は災害時に出勤できなくても欠勤扱いにはならないというものです。

一方で、すでに出勤していたり在宅勤務ができたりして、働いた場合には休日手当が付きます。さらに、余震が続くなど被害が出るおそれがある場合には、何日間でも休日にします。

18日は地震を受けて会社として特別休暇とすることを速やかに決定し、全社員に通知しました。社員のうちおよそ9割は帰宅したり在宅勤務したりして対応しました。それ以外の20人は、すでに出勤していたり会社近くまで来ていたりしていたため、そのまま安全を確認したうえで社内で仕事をしたということです。

会社では「阪神・淡路大震災を経験した神戸市にある企業なのでこれまでも災害時の対応を検討してきた。有事休暇の制度も周知していたので戸惑うことなく対応できたと思う」と話しています。

働き方改革が災害の備えにも

さらに今回の地震で思わぬ発見もあったと言います。それは働き方改革で会社から離れて働く「テレワーク」を進めていたことです。

この会社では、どこでも仕事ができる環境を整えていたので地震が起きてもわざわざ出勤する必要もないというのです。今後、余震が発生することも想定されますが、必要に応じて「テレワーク」を活用して社員の安全を確保していきたいとしています。

働き方改革が有効だという会社はほかにも。それが製薬大手の武田薬品工業です。
地震直後に全社員に周知
「大阪を中心とした近畿圏で最大震度6弱の地震がありました。出勤は無理をせず、安全な場所で待機して下さい」

18日の地震直後、国内のすべての社員向けに周知した内容です。およそ560人が勤務する大阪市の本社では、社員の安否確認を進めたうえで、社員個人の判断で、在宅勤務とするか、その時にいた場所の最寄りの営業所での勤務とするかに切り替えました。

武田薬品工業の広報担当者は「この数年で働き方改革が進み、社員の間では、在宅勤務やフレックス勤務制度を使って、自分の働き方は自分で組み立てるという意識が広がっていた。それが今回のような災害時にも生かされたのではないか」と話していました。

企業はガイドライン策定を

実際自分に置き換えるとどうすればいいのか迷うという人も多いのではないでしょうか。
災害リスク評価研究所 松島代表
そこで企業の防災対策に詳しい「災害リスク評価研究所」の松島康生代表に、通勤時に地震が発生した場合の対応を聞きました。

「災害の状況にもよりますが交通機関が動いていないのであれば、人命やライフラインに関わる仕事に就く人以外は基本的には出社する必要はないと思います。無理に出社すれば逆にリスクを大きくする可能性があるからです。すでに出社した人でも早めに帰宅するほうが望ましいと思います」

では企業はどうルールを定めておくべきなのでしょうか。

松島さんは「出社前ならこう、出社後はこう、と事細かにマニュアル的に決めておくとそれに縛られて危険なこともあるので、もう少し緩やかな『ガイドライン』を作っておくことが重要です」と指摘します。

社内で必ず出勤する要員を決めておくことや、震度だけを基準とするのでなく携帯電話の通信状況や公共交通機関の状況などに応じて判断することが重要だというのです。

さらに、地震発生時には会社と連絡を取れないことが多いことも想定されることから、松島さんは「緊急時には従業員が自己判断で行動することも求められます。企業の間では東日本大震災をきっかけにBCP=事業継続計画を策定する動きが広がっていますが計画を作って終わりではなく周知・普及が何よりも重要です」と指摘します。

安全あっての企業活動

企業の防災対策というと、まず想定するのはいかに生産活動を継続、再開することではないでしょうか。しかし松島代表は、社員の安全をどう確保するかが何よりも優先されるべきだとして次のように話します。

「企業の活動も従業員がいなくては継続できないからです。災害時には本当に必要でなければ出社しなくてもいいという考えがもっと広がってもいいのではないでしょうか」

いつ起きるか分からない都市型の大地震。その時どうすべきか、職場で、家庭で、改めて話すきっかけにしたいと感じました。