地震を“予言”? 真相は

地震を“予言”? 真相は
12日早朝、千葉県で震度3の揺れを観測した地震。実は前日、政府の地震調査委員会が、この場所で起きる地震に注意を呼びかけていました。まるで“予言”のような発表。ネット上では大きな話題になっています。本当に“予言”していたのか?今後の地震にどう備えればいいのか?取材しました。(ネットワーク報道部記者 伊賀亮人 田辺幹夫 社会部記者 宮原豪一)
話題のきっかけとなった地震が起きたのは、12日午前5時9分ごろ。千葉県の勝浦市などで震度3の揺れを観測したほか、関東の各地と静岡県で震度2や1の揺れを観測しました。震源地は千葉県東方沖でした。

“予言”か?ネットが騒然

話題のきっかけとなった地震が起きたのは、12日午前5時9分ごろ。千葉県の勝浦市などで震度3の揺れを観測したほか、関東の各地と静岡県で震度2や1の揺れを観測しました。震源地は千葉県東方沖でした。
直後からツイッターには「地震予報だ」、「初めて予知できたのでは」という声が寄せられました。こうした声は、前日に政府の地震調査委員会が「千葉県東方沖の地震に注意を」と呼びかけていたことに反応したものでした。

鍵は“スロースリップ”

なぜ事前に注意を喚起できたのか。鍵となるのは、千葉県東方沖で起きていた「スロースリップ」という現象です。

千葉県東方沖には、海側のプレートが陸側のプレートの下に沈み込む境目があって、「スロースリップ」は、この境目がゆっくりとずれ動く現象です。

大きな揺れを引き起こさずに時間をかけて現象が進むことから、「ゆっくり地震」とか「スロー地震」とも呼ばれます。6月に入って、千葉県東方沖では、体に感じないものも含めて小規模な地震が相次いでいました。

さらに房総半島では、GPSによる観測で、地盤が南東に1センチほどずれ動く変化が捉えられていたため、地震調査委員会は「スロースリップ」が起きていると判断したのです。
この「スロースリップ」、千葉県東方沖では数年おきに確認されていて、この現象が起きると千葉県で比較的大きな揺れを伴う地震が発生しています。

いまから4年前の平成26年1月には、震度3の揺れを観測する地震が2回起きたほか、平成23年の12月には、震度4の揺れを観測する地震、平成19年の8月には、震度5弱の揺れを観測する地震が起きました。
「千葉県東方沖では、スロースリップの後に比較的規模の大きな地震が起きやすい」
地震調査委員会は、こうした過去の経験から、地震が起きる前日に注意を喚起することができたのです。

“予言”の真相は

この地震は、ネット上で指摘されていたように、“予言”されたということだったのでしょうか。
地震調査委員会の委員長で、東京大学地震研究所の平田直教授に取材したところ、「決して予知をしたわけではありません」と答えてくれました。
東京大学地震研究所 平田直教授
平田教授によると、千葉県東方沖では、これまでに昭和58年から数えて合計7回、スロースリップのあと、数日から1週間で地震が発生する現象が確認されていました。

今回も、今月に入ってからスロースリップ現象が観測されたことから、11日に念のために注意を呼びかけたところ、翌12日の早朝、震度3の地震が起きたということで、結果的に「予知みたいになった」ということです。

ちなみにネット上では、「蚊がいないけど地震と関係ある?」とか「熊が町に降りてきて、関係あるって人もいるけど」といった、虫や動物の行動を地震の前兆と受け止める声も上がっていましたが、平田教授は「動物は、気象条件などさまざまな理由でふだんと違う行動をするので、科学的に証明することは難しいと思います」と話していました。

“スロースリップ”千葉県東方沖だけではない

この「スロースリップ」。現象が確認されているのは千葉県東方沖だけではありません。
7年前に東日本大震災を引き起こした東北沖の巨大地震。地震後に行われた研究で、東北沖のプレート境界では、地震の1か月余り前に、一時的に「スロースリップ」が発生していたとする結果が報告されています。
さらに、将来、巨大地震の発生が懸念される南海トラフ。東海から近畿、四国、九州の沖合にあるこのプレートの境界の一部でも、繰り返し「スロースリップ」が確認されています。

“スロースリップ”確認でも巨大地震起きるか分からない

では、「南海トラフでもすぐに巨大地震が起きるのか」と問われても、必ずしも「そうだ」とは言えません。5月に行われた南海トラフの評価検討会では、愛知県から三重県の沖合付近にあるプレート境界が、数日から1週間ほどかけてゆっくりとずれ動く、「スロースリップ」が確認されたという報告がありました。
南海トラフの評価検討会
しかし評価検討会の見解は、「平常時と比べて巨大地震が起きる可能性が高まったと考えられる特段の変化は観測されていない」というものでした。

なぜならこの現象、過去にもこの場所で繰り返し起きているものの、そのあとに巨大地震が発生しているわけではありません。さらに、南海トラフで最後に起きたマグニチュード8以上の巨大地震は、昭和21年の「昭和南海地震」ですが、当時は現在のような観測機器もなく、地震の前にどのようなスロースリップが起きていたかは、分かっていません。

つまり、南海トラフでは、千葉県東方沖のように「スロースリップ」の後に「地震」が発生するという関係性を示す“根拠”が乏しいのです。どのような「スロースリップ」が起きれば巨大地震が起きるのかについてはまだ研究の途上です。

大地震の前兆なのか?

12日早朝の地震のあと、ネット上には「今回の地震は大地震が来る予兆なの?」という不安の声も上がっていました。

平田教授に尋ねてみると「少なくとも大地震の前兆とは思っていません」と答えてくれました。千葉県東方沖で繰り返し起きてきたスロースリップでは、その後に起きる地震の規模は、最大でマグニチュード5クラス、震度は5弱で、マグニチュード8クラスの巨大地震がすぐに起きるとは考えられないということです。

ただ、平田教授は、昭和62年にはスロースリップは確認されなかったものの、千葉県東方沖を震源とするマグニチュード6.7の地震が起きて2人が亡くなる被害が起きていて、必ずしも事前の兆候があるわけではないということも話していました。

備えるきっかけに

では、私たちはいったいどう備えればいいのでしょうか?

南海トラフで起きる巨大地震の発生確率は、今後30年以内で「70%から80%」。次の地震が切迫していることには変わりありません。国の想定では、関東から九州の太平洋沿岸を中心に、激しい揺れや大津波に襲われ、最悪の場合、およそ32万3000人が死亡するおそれがあるとされています。

ネット上でも、今回の地震を受けて「備蓄や避難場所や連絡方法の確認など、備えを進めなければ」という、防災の重要性を指摘する声も多く上がっています。

平田教授は、「今回の地震を防災に向けた気づきにしてほしい」と話しています。大地震の前兆ではないとしても、地震が起きる可能性はあり、震度5弱なら、固定されていない家具が倒れることもあります。

「今回の地震をきっかけに、家具がしっかりと固定されているか確認したり、避難の経路を家族で確認することは大切です」と平田教授は指摘しています。

いつ大地震が起きるのか、必要以上に怖がっていては落ち着いた生活を送ることができませんが、防災への備えを見直し、「正しく恐れる」ことで、いつ起きるかわからない大地震に備える必要があると感じました。