あなたの病気 見落としのおそれあり!?

あなたの病気 見落としのおそれあり!?
体の中の様子を写し出すCTやMRIの検査。受けた経験がある人も多いと思います。検査で得られるデータをもとに医師が診断する「画像診断」は、病気を突き止めたり、治療方針を検討したりするための強い味方で、医療現場で広く行われるようになっています。しかし、専門の医師でなければ病気を見落とすおそれもあると指摘されています。そこで、画像診断の専門医を集め、画像診断に特化して病気の有無などを調べる会社が、今、増えているんです。現場を取材すると、診断の精度向上や、医師不足解消に向けた工夫が取り入れられていました。(広島放送局記者 大石理恵)

広がる画像診断 ところが…

広島市佐伯区にある「五日市記念病院」。

脳神経外科を中心に、内科や外科、循環器科などがあり、救急患者も受け入れています。

この病院では、X線を使って体の断面を撮影するCT検査を年間5000件近く行っています。装置の性能が向上し、より鮮明な画像が得られるようになり、CT検査を行う頻度は年々高まっているということです。

ところが、大きな課題に直面しています。

画像診断を専門とする放射線科の医師がいないことです。

全国的に不足していて、雇いたくても雇えないというのです。
土井謙司副院長は、内科や外科の医師が画像をみた場合、得意とする分野以外では、異常があったとしても見落としてしまうおそれがあると指摘します。

「私のような内科の医師も画像をみることはできますが、どうしても専門分野に意識が集中してしまいます。いわば、自分がみたい部分に目を奪われ、ほかの病気を見落としてしまう不安がつきまとうのです。全般にわたる精度の高い診断は、やはり画像診断の専門医でないとできないと思います」

画像診断専門の会社 その実態は

そこで、この病院は、所属する医師が直接画像をみるのに加えて、画像診断を専門とする会社に委託することにしました。

画像診断に特化した会社…どんなところなのか、訪ねてみました。
この病院の委託先は、広島市南区にありました。

中にお邪魔すると、一見、普通のオフィスです。

でもよく見ると、皆さん、大きめのモニターに、体の断面や、それを積み重ねて作った立体的な画像を映し出し、真剣に見入っていました。

パソコンに向かう11人は、全員、日本医学放射線学会が認定する「放射線診断専門医」だということです。

この会社は、インターネット上に情報を保存する「クラウドシステム」を活用しています。

契約する全国42か所の医療機関から、毎日、CTやMRIの画像が送られてきます。それを専門医が読み解いて、異常があるかどうかや、病気の状態について所見をまとめ、医療機関に回答します。そして、患者を直接診療する現場の医師は、これを参考に最終的な診断を行うのです。
この会社の医師は、多い日には30人分の画像診断を行います。

緊急時は、1時間以内に医療機関に回答することもあるそうです。

X線を使うCTや、磁気を利用するMRIは、少しずつ位置を変えながら、いわば体の「輪切り」の画像を撮影するもので、患者1人当たりの画像は数百枚から数千枚にのぼるということです。

医師たちは、病気によるわずかな変化も見逃すまいと、目薬をさしながら懸命に目を凝らしていました。
患者と直接会うことはありませんが、遠く離れた患者の体内と、静かに対話しているようにも見えました。

こうした取り組みで、契約先の医療機関からは「通常の医師ではとても気づかない、ごく小さながんが見つかった事例がいくつもあった」という声が届いているそうです。
この画像診断会社「エムネス」の北村直幸社長はこう話しています。
「より多くの医師が画像に目を通し、また、精通する専門の医師がみることで、早期発見や的確な診断につながる可能性が高くなると考えています」

病院を取材した日は、肺炎を患った90代の男性患者のCT検査が行われました。
首から腰にかけて5ミリごとに断面を撮影し、500枚の画像が会社に送られました。

専門医がみた結果、肺炎は快方に向かっていましたが、すい臓に別の病気があるおそれが指摘され、経過を観察することになりました。
家族は「病院の先生と画像で判断する人が一緒にみてくれるので安心です」と話していました。

増える会社 医師をどうやって確保?

体に大きな負担をかけることなく体内を写し出す画像診断は治療のための強い味方で、こうした専門の会社も増えています。

業界団体によりますと、規模の小さな会社も含めると、今では全国に100社以上あり、昨年度の診断件数はおよそ600万件(推計)と、最近の3年間で30%増えたと見られています。

そもそも、医療水準が高い日本には、CTとMRIの検査装置が合わせておよそ2万台あるということで(2014年OECD=経済協力開発機構まとめ)、世界的に見ても、かなり普及が進んでいます。

この一方、学会が認定する画像診断の専門家=「放射線診断専門医」は全国で5000人余りで、その数はあまり増えていません。

医師を目指す学生の間で知名度が低いため、なり手が少なく、大きな病院でも専門医は数人程度というのが一般的だということです。

では、会社はどうやって専門医を確保しているのでしょうか。

実は、今回取材した会社の常勤の専門医11人のうち女性は7人。子育て真っ最中の女性も3人いました。

話を聞くと、勤務時間が長かったり緊急の対応を迫られたりする病院などと違い、決まった時間に働けるので、家事や子育てと両立しやすいということでした。
この会社は、短時間勤務や、自宅のパソコンを使う在宅勤務も認めていて、それぞれの都合にあわせた働き方ができるそうです。

結婚や出産を機に臨床現場から離れた女性医師たちも、専門性を生かすことができるのです。

AIでさらに進化も

さらにこの会社、診断の精度をより高めようと、AI=人工知能の活用を目指しています。

これまでに蓄積した5000人分のデータをコンピューターに学習させ、その情報をもとに病気を見つけてもらおうという研究を、ベンチャー企業とともに進めています。
脳の血管を写し出したこの画像。

○で示したところに、くも膜下出血を起こす「動脈りゅう」があります。

この画像を、AIを組み込んだシステムに読み込ませると、医師が指摘したのと同じ場所に「動脈りゅう」があることを識別しました。

最近では、医師が気付かなかった病変を見つけ出すケースも出始めているということです。

AIと人間の、最大の違いは何かを、北村社長に尋ねると、「AIは決して疲れないことです」という答えが返ってきました。
「人間には感情の起伏もあり、50人、100人と画像を見続ければ、どうしても精度が落ちてきます。ところが、コンピューターはまったく疲れないんです。何十例かに1例はAIに助けられる場面があり、日々、手放せなくなってきています」

今の段階ではまだAIに頼り切ることはできず、当面は、医師がみたあとにAIが再確認するという段取りで試行するということです。

健康を守るために

働き方の工夫で専門の医師を集約し、さらに事例を集積して診断技術の向上を図る。離れた場所でも大量の画像を瞬時にやりとりできるIT技術で可能になった、新しい医療の形と言えます。私たちの健康を守るのに役立つよう、さらなる進化が期待されます。