「うちの子が…」″ゲーム依存″の実態

「うちの子が…」″ゲーム依存″の実態
目の前にいる少年は普通の高校生に見えました。しかし、自宅の部屋に案内されると壁には大きな穴があちこちに開いていました。少年の家族の言葉です。「暴力に耐える日々でした。優しかったこの子がなぜ…」少年を暴力に駆り立てたものはいったい何だったのでしょうか。(社会部記者 白河真梨奈)
東京・渋谷の「ハチ公前」。有名な待ち合わせスポットですがここにあるものに熱中する若者たちの姿がありました。

ゲームに熱中する若者たち

東京・渋谷の「ハチ公前」。有名な待ち合わせスポットですがここにあるものに熱中する若者たちの姿がありました。
「1日10時間ぐらいやってしまいます。テスト期間中にもやってしまって、成績が下がりました」(18歳の男子学生)
「限定のキャラがどうしても欲しくて、1日に20万円課金しました」(男子学生)

彼らがのめり込んでいたのはスマートフォンのオンラインゲーム。ネット上で、仲間たちと「対戦型のロールプレーイングゲーム」などを楽しむといいます。

“ゲームがないと生きている実感がない”

なぜ若者はこうしたオンラインゲームにはまるのか。

関東地方に住む高校1年の男子生徒が取材に応じてくれました。
この生徒。中学時代は1日16時間、オンラインゲームに没頭。学校にはほとんど通わなかったといいます。

生徒がゲームを始めたのは小学生の時、いじめに遭い、不登校になったことがきっかけでした。

最初はただの暇つぶしだったゲームにいつしかのめり込むようになった理由は、意外な“仲間”の存在だったと打ち明けました。
「オンラインゲーム」では、インターネット上で見知らぬ人たちと対戦します。こうした“仲間”とは、名前も顔も知らない関係ですが、現実の社会で学校に通っていない生徒にとりゲームでつながるこうした“仲間”の存在は大きかったといいます。
「現実ではできなかった友達がゲームのなかではできた。自分の嫌なことから逃げるためにゲームをしていた」生徒はこう打ち明けました。

優しかったこの子がなぜ…

生徒がゲームにのめり込むなか、その影響は家族にも及ぶようになりました。

何度もゲームをやめるように注意する家族に生徒が物を投げつけたり、暴力をふるったりするようになったのです。
案内された自宅の部屋。壁に開いたいくつもの穴はこうした暴力の爪痕でした。生徒の家族は当時をこう振り返りました。

「髪を引っ張ってひきずり回され、救急車で運ばれたこともあります。都合の悪いことがあると突然暴れ出す。優しかったこの子がなぜ…と思いながら暴力に耐える日々でした」

体にも影響「肺年齢52歳」

また、ゲームへの依存は生徒の体にも深刻な影響を与えていました。3年前に病院にいったところ、思いがけない診断を受けました。
「肺年齢52歳」

部屋に引きこもり、何年もゲーム漬けの毎日を過ごしたことが知らず知らず少年の体を衰弱させていたのです。

ゲーム依存の実態 初調査

神奈川県横須賀市にある国立病院機構久里浜医療センター。全国で数少ない依存症を専門に治療する機関ですが、ここが去年、120人の患者を対象にゲーム依存の実態を初めて調査しました。

その結果です。

▽「朝、起きられない」が75%、
▽「欠席や欠勤」が59%、
▽「食事をしない」が49%、
▽「成績・仕事の能率低下」が48%と、
患者の多くが日常生活に支障をきたしていました。

さらに、
▽「物を壊す」が50%、
▽「家族に対する暴力」が26%、
▽「家族のお金を盗む」が17%と、
さきほどの少年と同じく、ゲーム依存が暴力行為などにつながるケースもあることがわかりました。
調査した樋口進院長は、ゲーム依存とは、日常生活に支障がでるほどゲームにのめり込む状態が1年以上続いていることだといいます。

患者の大半が24歳以下の男性でなかでも自分をコントロールすることが難しい子どもたちへの広がりが心配だと指摘しました。
「子どもたちがゲーム依存になると、生活の乱れだけでなく、身体や心の健康、家族関係の崩壊にもつながる深刻な問題だ。こうした実態を踏まえ、ゲーム業界だけでなく、社会全体で対策に取り組むことが必要だ」

世界でも深刻化 WHOが国際疾病に追加へ

ゲーム依存は世界でも深刻な問題となっています。WHO=世界保健機関は来月(6月)、こうしたゲーム依存を「ゲーム障害」として、新たな国際的な疾病に認定するための改定案に盛り込む方針です。

これにより、詳しい患者の数などその実態さえ把握されていないゲーム依存について、各国で治療などの対策がどこまで進むかが注目されています。

一方で、この方針をめぐってはアメリカなどのゲーム業界は「ゲームに依存症状はない」などとして、反対の声明を出しています。

どうすれば抜け出せるのか

ゲーム依存からどうすれば抜け出せるのか。久里浜医療センターの樋口院長はいきなりゲームをやめるのが難しい場合は、ゲームをする時間を徐々に減らすよう勧めているといいます。

取材に応じてくれた男子生徒もこのセンターで2度の入院を繰り返し、ゲームの時間を徐々に減らすよう取り組んだということです。

生徒はこの春、高校に入学しました。笑顔を見せながら、「高校で新しい友達を作り、勉強も頑張ってみたい」と言いました。

今もゲームの誘惑と戦いながら日常の生活を取り戻そうとしています。

ゲーム依存に苦しむ家族に出会って

今回の取材では、子どものゲーム依存に苦しむ家族の声を数多く耳にしました。

「中学生の息子がゲームのやり過ぎで、40歳になったら失明すると医者に言われた」(中学生の母親)

「ゲームのせいでわが子が別人になった。もみ合いになって首を絞められた」(関東地方の女性)

こうした数々の悲痛な声があった一方、根気強くあきらめずにゲーム依存の子どもと向き合った結果、症状が回復したと話す家族もいました。

“ゲーム依存″はその実態さえ十分に把握されていない問題です。

小中学生の多くがスマートフォンを使う今、そのリスクに社会として向き合う必要があると強く感じました。