”助けてください” こぼれ落ちた女性たち

”助けてください” こぼれ落ちた女性たち
あるSNSのアカウントには、救いを求める女性たちから次々とメッセージが寄せられています。毎日を乗り切るのに必死で、心も体もボロボロで、そんな彼女たちが最後の最後に振り絞った”SOS”。行政の支援からはこぼれ落ち、助け合うはずの家族には足を引っ張られ…。彼女たちは追い詰められていました。
(熊本放送局 時松仁美 高橋遼平)
”制服を買うお金がなく、娘を入学式に出してあげられない”
”所持金が数十円しかなく子どもに何も食べさせてあげられない”
”切り詰めた暮らしのなかで体調を崩して入院し、仕事を失った”
メッセージの一部です。

女性たちの“叫び”

”制服を買うお金がなく、娘を入学式に出してあげられない”
”所持金が数十円しかなく子どもに何も食べさせてあげられない”
”切り詰めた暮らしのなかで体調を崩して入院し、仕事を失った”
メッセージの一部です。
母子家庭で育った私は、高校時代、親から何度も「大学に進学させる余裕がない」と言われ、お金を気にせず勉強に打ち込める同級生たちをうらやましく思ったこともありました。
しかし、制服を買うお金がないと言われたことはありません。食べるものに困ったこともありません。

想像を超えた事態が起こっているのではないか。SNSのアカウントの持ち主を訪ねてみることにしました。
佐藤彩己子さん
そこは熊本市東区にある女性の支援団体でした。代表の佐藤彩己子さん(65)にはほぼ毎日、手紙やSNSで”助けて”というメッセージが寄せられているといいます。

佐藤さんにメッセージの送り主を聞いてみると、そのほとんどが、シングルマザーたちからだというのです。

お米を買うことを断念も

こうした”SOS”は熊本地震のあとから急増しているといいます。

佐藤さんが、特に驚いたのが、日々の食事もままならないシングルマザーたちが少なくないことでした。家計を切り詰めるため、お米を買うことさえもあきらめてしまうという人までいました。
こうした状況に危機感を強めた佐藤さんは、シングルマザー向けの食糧支援を始めます。全国の会社や福祉団体などから集めた米や野菜、それにレトルトカレーなどを段ボールいっぱいに積み込んで毎月、支援が必要な人たちに送っています。

セーフティーネットからもこぼれ落ちた

彼女たちは、なぜ、そこまで追い込まれてしまったのか。佐藤さんが支援しているシングルマザーのひとりに話を聞くことができました。
幼い息子を育てているマキさん(仮名20代)。熊本地震の影響で仕事を失い、収入は児童手当など月に数万円ほどになってしまいました。食費を節約するため、小麦粉を水でのばしたものを2歳の息子と分け合って空腹をしのぐほど、生活は困窮したといいます。

どうして? なぜ? 頭にいくつもの疑問が浮かびました。

「実家には頼れないんですか?」。私がそう尋ねると、彼女は言いづらそうに答えました。

「両親とは同居していましたが、あまり働いてくれなくて、逆に私の手当からお金を取っていってしまうんです」

マキさんは親に頼るどころか、逆に経済的に依存される状況だったのです。それでもなんとか再就職先を見つけましたが、今度は息子が病気がちになり、看護のため仕事を辞めざるをえなくなりました。

貯金も底をつき、日々の食事さえままならない生活が1年近く続き、身も心も限界を感じるようになったマキさん。勇気を振り絞って役所で生活保護を申請できないか相談しましたが、家族と同居していたことや車を所有していたことを理由に断られたといいます。

同居していたけど、だからこそ、きつい状況。ガソリン代も払えず使うことの出来ない車。病気がちな子どものこと。何度も何度も説明しました。でも、回答がかわることはありませんでした。

「やっぱり、わかってもらえないですよね…。大げさかもしれないけど”見捨てられた”って感じました」

マキさんは親にも頼れず、相談する人もおらず、行政などのセーフティーネットからもこぼれ落ち、毎日の食事もままならないほどの貧困状態に陥っていたのです。

貯蓄なしのシングルマザー 4割近くも

増淵千保美准教授
マキさんのような状況は実は、特殊なケースではないといいます。シングルマザーの貧困問題に詳しい尚絅大学短期大学部の増淵千保美准教授はこう話します。

「シングルマザーの中には収入がぎりぎりで貯蓄がない世帯も多く、被災して職を失うなどすると一気に貧困状態に陥る。親に頼れないなど、複雑なケースを抱え、行政などのセーフティーネットからこぼれ落ち、悪循環から抜け出せない人も少なくない」

実際、国の調査によると、貯蓄が全くないシングルマザーは37.6%。さらに熊本県の調査ではひとり親の16.4%が熊本地震後に収入が減少したことがわかっています。

救ったのは1件の”SOS”メッセージ

行政の支援からはこぼれ落ち、助け合うはずの家族には足を引っ張られ…。
そんな絶望のふちにいたマキさんを救ったのは1件の”SOS”のメッセージ。

「助けて欲しい人がいます」
マキさんを心配した友人が支援団体に送ったものです。代表の佐藤さんはマキさんにすぐに連絡を入れ、米などの食料品をいっぱい詰め込んだスーツケースを抱えて駆けつけました。

さらに佐藤さんはマキさんの生活の立て直しにも着手。いったん生活保護を受給させ、最低限の生活を確保したうえで職業訓練校に通わせました。

マキさんは訓練校を無事卒業し先月、仮採用ながらも働き始めました。そして、生活保護から自立に向けての一歩を踏み出しました。

「最初は支援って聞いても本当かなって、不信感もありました。でも、すぐにこの人なら間違いないと。とにかくものすごい行動力で私と息子を救ってくれました。いまは佐藤さんみたいな人になるのが私の夢です」

「私は運がいいですよね」

今回の取材の中で心に引っかかったのは、マキさんがつぶやいた「私は運がいいですよね」というひと言です。

その言葉に、支援の手が届いていないたくさんの女性たちの存在が脳裏に浮かび、はっとさせられました。

父親を自殺で失い、母親の力だけでは大学への進学ができなかった私も、支援してくれたたくさんの人の存在があって、今、生きられています。

私たちは助けてくれる人に出会えて救われました。しかし、その一方でそうした人に出会えずに、いまだに多くのシングルマザーたちが苦しみ続けています。

彼女たちをどう支えていくか。どうすれば「運」に左右されない社会をつくれるのか。私に何が出来るか、考えていきたいです。