覚えてほしい「はひふへほ」

覚えてほしい「はひふへほ」
今週、ある女性が投稿したツイッターが大きな反響を呼んでいます。内容は、乗っていた電車の中で突然倒れた面識のない人と、その人に自分がとった対応について。このツイッターをきっかけに覚えてほしい、ある病気に関する「はひふへほ」です。(ネットワーク報道部記者 佐藤滋 玉木香代子)

反響呼んだツイッター

「以前、電車の中で突然倒れた人がいて。連れの人が動転した様子で『どなたか甘い飲み物やお菓子を持っている人はいませんか?』と大声を上げだしたんだけど、車内の人たちはキョトン。私たち家族は身内に糖尿病患者がいたから、もしかして低血糖昏睡?とハッとして、ジュースやお菓子を手渡した」
都内に住む女性からの投稿です。

これに対し、2万8000を超える反響が寄せられています。

低血糖の「はひふへほ」

「低血糖」は血液中のブドウ糖の濃度が低くなった状態を指します。そこで必要となるのがジュースやお菓子といった糖分の補給なんです。
実は糖尿病の人がなりやすい症状で、状態によっては命に危険が及ぶ可能性があることから、日本糖尿病協会は、症状をわかりやすく「はひふへほ」で表現し注意喚起しています。

「は」らが減り
「ひ」や汗
「ふ」るえは低血糖
「へ」んにドキドキ
「ほ」うち(放置)は昏睡


厚生労働省によると、糖尿病が強く疑われる人は全国で推計1000万人。いわゆる「予備軍」も1000万人いるのではないかとみられています。

患者は、薬を飲んだりインシュリン注射を打ったりして血糖値が高くならないようにしなければなりませんが、薬の量や種類を間違えた、食事の量がいつもより少なかった、食事の時間が通常と違った、長く激しい運動をした、飲酒や入浴をしたなどが原因で、血糖値が逆に低くなりすぎることがあるんです。

症状が重い「重症低血糖」で救急搬送された糖尿病患者は年間2万人に上る可能性があるという日本糖尿病学会の調査結果もあり、決して見過ごすことができないものです。

知られざる症状

冒頭のツイッターを投稿した都内に住む30代のももこさん。先日、京都・舞鶴で行われた大相撲の巡業で市長が突然、土俵の上で倒れ、緊急時の対応が議論になったニュースなどを見ていて、ふと、旅先の電車内での出来事を思い出したそうです。
他界したももこさんの母親は、妹の出産をきっかけに糖尿病を患い、毎日、食事の前におなかや太ももにインシュリンの注射を打っていました。思うように食事をとることができず血糖値が急に下がった時は、横になって、ブドウ糖のあめやジュースを口に含み、血糖値を維持していたそうです。症状は年を重ねるごとに悪化し、外出先で突然手が震えたり力が抜けたりすることも増えたと言います。

ろれつも回らなくなってベンチなどに倒れ込んでいたら、周りからけげんな目で見られたり、「泥酔した人」と間違われたり。

母親は、ももこさんに、1時間かけて休み休み何とか帰宅したことや、周囲に理解してもらえずつらい思いをしたことを打ち明けていたそうです。

ももこさんは、「糖尿病」というだけで、食べ過ぎ、飲み過ぎといった「生活習慣病」のイメージがつきまとい、妊娠をはじめさまざまなきっかけでなることや、血糖値の調節が難しくなって危険な状態に陥るケースがあることがまだまだ知られていないと実感したと言います。

私たちにできること

低血糖になった人を前にした時、私たちに何ができるのか。糖尿病に詳しく、「重症低血糖」による救急搬送者の実態を調べた兵庫医科大学病院の病院長、難波光義さんに話を聞きました。
難波さんによると、患者ごとの生活リズムにあわせて指導しているそうですが、時には、使用量やタイミングを誤ったり食事など生活のリズムが乱れたりすることがあり、それをきっかけに低血糖を引き起こし重症化することもあるということです。

その場合、患者がコミュニケーションをとれる状態なら、本人に確認したうえで、あめやジュースといった甘いもので血糖値を補うのが有効だと指摘しています。

一方、意識がはっきりしない状態なら、無理にブドウ糖を飲み込むと誤えんや窒息の原因になるおそれがあるため、すぐに救急車を呼び医療機関へ行くことを優先してほしいとしています。難波さんは「糖尿病の患者や家族も、日頃から、いざという時の対策を主治医や医療スタッフと話し合い、しっかり連携してもらいたい」と話しています。

“ヘルプカード”も

患者が第三者に自分の状況を知ってもらうためのカードもあります。日本糖尿病協会は患者のためにカードを作っています。

裏面は、個人情報や受診している医療機関などを書く欄になっていて、回復しない時には医療機関に電話してほしいと書かれています。このカード、病院や調剤薬局に置かれていることが多いということですが、なければ協会(電話03-3514-1721/メールoffice@nittokyo.or.jp)に相談してほしいと呼びかけています。
さらに、スマートフォン用のアプリもあります。カードと同様の内容が記され、あらかじめ登録した電話番号やメールアドレスに簡単に連絡ができる仕組みです。

“知ること”が人を助ける

低血糖で倒れたり救急搬送されたりする人がこれほど多いとは、私たちも取材をするまで知りませんでした。それを伝えると、ももこさんは「事情を知らない人が低血糖で倒れた人を見たらきっと戸惑うと思うんです。だからこそ、人の命に関わる話題がこうして共有されることはとてもうれしいし、誰かの命を救うことにつながってほしい」と話していました。

ももこさんの投稿には、いざという時の対処法をもっと多くの人に知ってほしいという思いが込められていました。“知ることが人の命を助ける”。反響を呼んだ今回のツイッターをきっかけに病気への理解や対処の仕方が多くの人に届くことを願います。