もし、あなたの大切な人が…女性専用車両を考える

もし、あなたの大切な人が…女性専用車両を考える
17年前の3月27日、電車の新しい車両に関するニュースが一斉に報じられました。「のぞみ」?「はやぶさ」?いえいえ違います。東京の京王電鉄で女性専用車両の定時運転が始まったのです。今や首都圏を中心に80を超える路線で導入されている女性専用車両ですが、ある出来事をきっかけに、その存在を改めて問い直す動きがあります。これは、あなたの大切な人のことを思い浮かべながら考えてほしい問題です。
(ネットワーク報道部)

女性専用車両は男性差別?

2月16日、東京メトロ千代田線の「女性専用車両」に乗り込んだ男性3人が乗り合わせた客と言い争いになり、結果として電車がおよそ15分遅延しました。

男性たちは「女性専用車両は鉄道会社の任意のお願いであり、男性が乗っても法的に問題がないので乗車した。すべての男性を痴漢とみなして車両から排除しようとするのは、不当な差別だ」と、鉄道会社の対応をブログなどで批判しています。

当時から反対の意見も

女性専用車両に対する否定的な意見は導入当初からありました。導入を前に京王電鉄が行ったアンケートでは、女性専用車両に「賛成」と回答したのは女性が82%、男性は56%と、男女で大きな開きがあります。

アンケートには「女性だけを優遇する差別だ」という意見も寄せられたということです。

民間の鉄道会社で作る団体の担当者は「今も昔も反対意見があることは承知しています」としたうえで、「女性専用車両は、あくまでも利用者の皆様にご協力をいただいて成り立っているもので、痴漢被害から一時的に女性が守られる場所であると同時に、男性のえん罪を防ぐ意味もあると考えています」と話していました。

導入された背景は

そもそも、日本でなぜ女性専用車両ができたのでしょうか。

1988年、大阪市の地下鉄御堂筋線で男2人組に痴漢を注意した女性がその後、2人から性的暴行を受けるという痛ましい事件が起きました。この事件をきっかけに痴漢を許してはいけないという機運が高まり、それまで見過ごされていた電車内での性被害の実態が広く認識されるようになりました。
御堂筋線では2002年11月から女性専用車両を導入
2001年に警視庁が公表したアンケートの結果では、回答した女性の6割が「被害にあったことがある」というのです。

「電車内での痴漢は増える傾向にあり、警察と鉄道会社が協力して対策にあたる必要がある」として、警視庁が女性専用車両の導入を進めるよう鉄道会社に申し入れました。増え続ける痴漢対策に有効な手が打てず、いわば窮余の策として、運行が始まったのです。
2001年3月 京王線新宿駅構内に掲げられたポスター
その春、京王線で女性専用車両の定時運行が始まり、やがて各地でも導入されるようになったのです。

日本だけじゃない イギリスの議論は

痴漢など電車内での性被害は世界の大都市に共通する問題です。女性専用車両をめぐる議論があるのは日本だけではありませんが、その結論は国によって異なります。

イギリスでは、電車や地下鉄での性被害の報告が2016年度に1448件あり、4年前に比べて倍近くに増えています。痴漢被害の多くが通報されない状況はイギリスも同じで、巨大な地下鉄網を運営するロンドン交通局は車内での性的嫌がらせや性犯罪の9割は表面化していないとしています。
女性専用車両は英国でも議論に
こうした事態を受けてイギリス議会の野党議員が去年、女性専用車両の導入について「検討する価値がある」と発言し、議論を呼びました。
インターネットのアンケート調査では、賛成23%、反対58%。男女別で見ても、女性で賛成したのは28%、男性だと18%にとどまりました。

「女性の居場所を制限する」とか「すべての男を性犯罪予備軍のように扱う」として男性だけでなく、女性からも強い反発が出たのです。

イギリスの新聞は、提案した議員の事務所に「女性が職場でハラスメントを受けたら、男女別にフロアを分けるのか」という意見が寄せられたと報じています。

これは「女性専用車両を作ることが果たして『性犯罪をなくす』という根本的な問題への解決方法なのか」という、社会全体への問いかけでもありました。

被害は記者の周りでも

かたや女性専用車両が定着した日本。導入から17年たった今、状況は変わったのでしょうか。
犯罪白書によりますと、電車内以外で行われたものを含む迷惑防止条例違反の痴漢の検挙件数と電車内における強制わいせつの認知件数は、平成18年はそれぞれ4181件、420件だったのが、平成27年には3206件、278件とやや減少傾向ですが、3000件を超えています。被害を申告できない人もいて実態はさらに多いと見られていて、単純に減ったとは言い切れません。

今回の取材にあたって、まず職場の身近な人たちに痴漢被害を受けたことがあるか聞いてみました。

すると、同僚の5人ほどに声をかけただけでも「満員電車の乗ってから降りるまで体を触られ続けた」「精液をかけられた」といった被害体験を聞きました。

ある女性は「私は“2回しか”被害を受けたことがないから話はあまり参考にならないかも…」と前置きをしてから話し始めたのです。性被害を受けるのは人生に1度だって多すぎるはずです。周りにいる女性の多くが痴漢の被害経験があるという、「ありふれた犯罪」であることに記者は衝撃を受けると同時に悲しくなりました。

シェルターの役割がある

女性専用車両の導入が、痴漢被害を大きく減らす効果があったのか、実のところ、よく分かっていません。
ただ犯罪社会学が専門の明治学院大学の澤野雅樹教授は「女性専用車両は痴漢被害に遭わないためのシェルター・避難場所としての役割がある。ほぼ確実に被害に遭わなくて済む車両があることは、女性の安心感につながります」と話していて、専用車両の導入の意義を強調しています。

あなたの大切な人かもしれない

女性専用車両が導入されたことを伝える当時の日本経済新聞の記事は「男女を分断することで女性を“守る”という不自然な姿は、ニッポン社会の病巣を映し出しているかもしれない」と伝えています。
2005年 JR中央線にも女性専用車両が登場
話を聞いたある同僚の女性は、中学・高校の6年間、電車通学をしていたときに「最低でも月に1回は被害に遭った」と言います。この女性は「体を触られるとパニックになり、静まり返った電車内で“やめてください”なんて声は出せない。でも、それ以上に怖かったのは数え切れないほど被害に遭っているのに、周りの人たちは見て見ぬふりをして、誰も助けてくれなかったこと」と話していました。

今まさに痴漢の被害にあっているのは、あなたの大切な娘や妻、恋人、友人かもしれません。そして、被害者は女性に限りません。車内に、もし痴漢被害を受けているとみられる人がいたら、声をかける、席を譲る、怪しい者との間に入るなどして、どうか被害者を孤立させないでほしいと思います。