女性パラアスリートの月経対策を考える

女性パラアスリートの月経対策を考える
9日に開幕するピョンチャンパラリンピック。日本選手のメダルラッシュに沸いたオリンピックに続き、パラ選手の活躍にも期待したいところです。そんな華やかな表舞台のうらで、女子選手のコンディションに大きく影響する「生理」への対策が特に障害者スポーツの分野で浸透していない実態が浮き彫りになっています。選手の活躍を後押しするには、どのような支援が必要なのでしょうか。(ネットワーク報道部記者 角田舞)
障害者水泳の選手としてパラリンピック出場を目指してきた矢嶋志穂さん。右半身と体幹が不自由で、ふだんは車いすで生活しています。

パラ選手は生理になると大変!

障害者水泳の選手としてパラリンピック出場を目指してきた矢嶋志穂さん。右半身と体幹が不自由で、ふだんは車いすで生活しています。
水泳競技を続ける中で、矢嶋さんは生理に伴う悩みをずっと抱えていました。毎月、生理になると激しい痛みに加え、イライラや体のだるさが出てしまい、試合にも集中できませんでした。

また、障害があるためトイレを済ますのに時間がかかります。試合前はこのトイレと、競技用水着への着替えだけで30分程度は必要でした。そこに生理が重なると、生理用品を交換するたびに着替えをやり直すことに。生理は競技を続ける上で大きな負担となっていました。
矢嶋志穂さん
矢嶋さんは「手が不自由な自分には生理用品の扱いが難しいうえ、手伝ってもらえるスタッフが十分いるわけでもない。試合と生理が重なると、競技中に血がもれたらどうしようなどと不安で、ストレスだった」と振り返ります。

その後、矢嶋さんは婦人科の医師に相談し、ドーピング違反にならないホルモン剤のピルを処方してもらって月経対策を始めました。何種類か試して体に合う薬が見つかったことで、大事な試合とぶつからないよう月経周期をずらせるようになりました。

加えて、生理痛やイライラなどの症状も軽減され、試合に向けて体と心のコンディションをコントロールしやすくなったといいます。

矢嶋さんは「ピルを飲んでずいぶん楽になった。パラアスリートにとって生理と試合が重なることはコンディション以外にも負担が大きいので、ほかの選手にも支援が広がればいい」と話しています。

進まない 月経対策

しかし矢嶋さんのように婦人科のサポートを受けられるケースばかりではありません。国内で強化指定選手に選ばれている障害者スポーツの女子選手は今年度398人いますが、このうちパラリンピックに出場するほどのトップ選手でさえも「月経対策」が進んでいないことがわかったのです。
日本パラリンピック委員会がおととしのリオデジャネイロパラリンピックに出場した46人のうち44人に調査したところ、7割以上の選手が「生理痛で競技に影響が出ている」と答えました。

また「月経前の症状で競技に支障が出るか」という問いに対しては、9割が「腰痛や精神の不安定などが競技に影響する」と答えました。

その一方で、「試合と重ならないよう月経をずらす」とか、「生理痛を抑える治療を行う」などの対策をしている選手は4人に1人の割合にとどまりました。半数以上が月経対策のサポートを受けている健常者のオリンピック選手と比べると、際立って少なくなっています。
この差はどうして生まれるのか。調査を行った東京大学医学部附属病院の能瀬さやか医師に聞きました。

能瀬医師によると、障害者アスリートの場合、それぞれの障害の特性によって使えない薬があり、健常者よりも個別に治療方針を立てて対応しなければならない事情があるということです。また、ピルの使い方を含め、どう対策すべきかという情報が選手たちにそれほど普及していないのも事実です。

能瀬医師は「対策がわからず、痛みがひどくて試合を棄権したケースもあるので、選手やコーチたちへの情報提供の機会を増やすことが必要だ。一方で、現状では障害者アスリートに対応できる医療機関ばかりではないため、全国的に受診態勢も整えていかなければならない」と話しています。

パラアスリートの支援拡大に向けて

課題はいくつもありますが、月経対策を広める取り組みは少しずつ始まっています。
日本パラリンピック委員会では去年から、障害者スポーツの大会会場に専用ブースを設けています。ここで生理痛などに悩む女子選手の相談に応じているのです。

長距離移動を負担に感じる障害者アスリートも、大会の出場に合わせれば利用しやすいという点がメリットです。今後も、陸上や水泳などの大会会場にこうしたブースが設置される予定です。

医療機関もサポートの窓口を設けています。東京大学医学部附属病院には「障がい者アスリート専用相談窓口」が設けられ、医学的な相談を受け付けています。
この病院では今後、日本パラリンピック委員会と連携し、月経対策を行う際の注意点などをまとめたガイドラインを策定する予定です。こうしたガイドラインの活用で、地方在住のアスリートでも婦人科のサポートをしっかり受けられるような環境整備につなげたいとしています。

さらに、医療関係者などが集まって支援の在り方を話し合う研究会も開かれています。先月(2月)開催された研究会にはパラリンピックのメダリストが出席して、実体験をもとに支援の必要性を訴えました。
辻沙絵さん
リオ大会の陸上女子400mで銅メダルを獲得した辻沙絵さんがとくに強調したのは、コーチやスタッフが男性ばかりでは生理の相談がしづらいことです。

辻さんは「ユニフォームの着替えに介助が必要だったり、自分で生理用品を装着できなかったりする選手もいる。女性スタッフをもっと増やしてほしい」と訴えました。

研究会ではほかにも、障害者アスリートへの栄養面や精神面でのサポートの実例などが紹介されていました。

毎月襲ってくる腹部の痛みやイライラ、眠気。女性特有のバイオリズムですが、障害者アスリートの皆さんは生理にまつわる苦労が特に多いことがわかりました。2年後の東京パラリンピックのホスト国として、今後、障害者用トイレの数を増やすなどのハード面を整えることが欠かせません。それと同時に、パラ選手たちがよりよいコンディションで大会を迎えられるよう、医療サポートをはじめとした月経対策の充実が求められていると感じました。