“宝の山”が狙われる

“宝の山”が狙われる
国土の3分の2を森林がしめる「森林大国」、日本の山で思いもよらない事態が起きています。自分の山の木が知らないうちに切られる“盗伐”が横行しているのです。背景には、木材価格の上昇や中国など海外への木材輸出の増加、さらには再生可能エネルギーとしての需要が広がっていることなどがあります。陰ではびこる“盗伐”の闇。あなたのふるさとの山は大丈夫ですか?(宮崎局記者 松井嚴一郎 國仲真一郎/宮崎局ディレクター 河野公平/ネットワーク報道部記者 後藤岳彦)
山を所有しているけど、高齢で山に入るのは大変。都市部に住んでいて、実家に山を所有しているけど、自分の山はほとんど見に行ったことはないという人もいると思います。しかし、今、山は“宝の山”なんです。長く眠っていた日本の山が今、動きだしています。

山は“宝の山”に

山を所有しているけど、高齢で山に入るのは大変。都市部に住んでいて、実家に山を所有しているけど、自分の山はほとんど見に行ったことはないという人もいると思います。しかし、今、山は“宝の山”なんです。長く眠っていた日本の山が今、動きだしています。

日本は木材輸出国?

日本は世界有数の木材輸入国ですが、最近、木材輸出が増え始めています。平成29年の海外への木材輸出額は326億円、38年ぶりに300億円を超えました。日本の木材輸出増加をけん引しているのが中国です。全国各地で木材の伐採が本格化しています。

山に行くと…木がない?

こうした中、スギ丸太の生産量日本一の宮崎県では、林業の根幹を揺るがす事態が起きています。知らないうちに木が盗まれる「盗伐」が相次いでいるのです。

宮崎市の郊外のある山に足を運んでみると、年輪を刻んだスギの残骸が打ち捨てられていました。盗伐の現場です。
海老原裕美さん
被害者の1人、海老原裕美さんは、生まれ故郷の宮崎県を離れ、いまは千葉県に住んでいます。海老原さんの父親が世話をしてきた山ですが、18年前に亡くなり、見る人がいなくなっていました。墓参りに来たついでに山を見に行ったところ、木がなくなっていたというのです。

事件の中心は仲介業者

この事件では2人が逮捕され、ことし1月、森林窃盗の罪で起訴されました。

逮捕された2人はいずれも森林の売買を仲介する業者でした。通常は、山の持ち主から伐採する権利を買い付け、ひとまとまりにして転売するのが仕事です。

今回、2人は伐採する権利を森林の所有者から得ていないのに、権利があるかのように装って転売していました。立件された分だけでも100万円を超える利益を得ていました。

これまでの裁判で、犯行が発覚しないよう、海老原さんのように所有する森林から離れた場所に住んでいる人の山を狙って、盗伐を繰り返していたことが明らかになっています。

業者が明かす盗伐の手口とは

盗伐を行う業者はどのようにして、山の近くに住んでいない人を探すのか。今回、過去に山の木の盗伐に関わり、摘発されたことのある人物に話を聞くことができました。

この人物は「山の番地の住所が知りたい時に、法務局に行って、登記簿を調べるだけでわかる」と話しています。
この人物によりますと、山の所有者の名前や住所が記された登記簿をとって、山から離れて住む人を探していたということです。登記簿では、所有者の山の住所が宮崎市内になっていますが、現在の住所は神奈川県内にあることが分かります。この情報をもとに、近くの集落を訪ねて回り、親族が残っていないことまで確認していたということで、「家を訪ねて行っていなかったり、遠くに行って連絡がつかなかったりした時には、木を切っても分からないだろうと盗伐を行っていた」と話しています。

さらに、盗伐で狙う山の場所にも特徴がありました。山の上や奥のほうを狙っていたということで、こうした場所で盗伐をしても、木を切る重機の音は聞こえず、周囲から見ても“盗伐”をしているとは分からない場所でした。ここ数年、同じような手口で盗伐に関わる業者が、目立つようになっているということです。

盗伐材の流通ルートに抜け穴が

さらに取材を進めると、流通の仕組みに課題があることも分かってきました。

競りで丸太を買い付ける業者は、盗伐材が混ざっていても見抜くのは難しいと言います。業者の1人は「盗伐された木材が流通の過程で入っているかどうかは私たちでは分からない。盗伐された木材が流通していてもおかしくない」と話しています。
要因の一つが、丸太を競りにかける際の証明書です。法律に基づいて提出が義務づけられていますが、場所や面積などの項目があるだけで、山で切った木の本数は書く必要がありません。証明書を見るだけでは、実際に何本の木を伐採したのか分かりません。

盗伐材の流通ルートを知る林業関係者は、この抜け穴をついて、盗伐材を混ぜ込む手口が横行していると明かしました。この林業関係者は「証明書があるほかのところと一緒に混ぜてしまえばわからない。いちいち何本切ったかは数えない。悪いことをしようと思えばどうにでもなる」と証言しています。

その木がどこで切られたのか、さかのぼって調べる仕組みが確立されていないことが、盗伐を止められない一つの要因となっていました。

盗伐 各地に広がる懸念

宮崎大学農学部 藤掛一郎教授
国も盗伐被害の実態について、先月から緊急の調査に乗り出しました。専門家は、こうした状況を放置すれば、被害はさらに広がると指摘します。

宮崎大学農学部の藤掛一郎教授は「戦後に全国各地で人工林を作ってきたが、今から切り時を迎える。いま、切り時は九州にあるが、これから本州や東北に移っていくので、宮崎と同じように盗伐みたいな問題が全国的に今後、増えていくことが懸念される」と指摘しています。

進んでいない盗伐対策

日本では、違法な木材を使わないようにしようという法律が去年、施行されました。

欧米などでは産地を確認できる仕組みが整っています。木材を買う側にもその責任を負わせ、罰則も設けています。しかし、日本の法律ではまだ罰則は設けられておらず、抜本的な対策になっているとはいえません。
字図
さらに問題を複雑にしているのが「字図」と呼ばれる図面です。私たちが入手した図面は、番地ごとの境界線などが記されていますが、明治20年に作られ、今もまだ使われています。写真にあるように、黒や赤の線が境界線です。ただ、私たちが実際にこの山を歩いてみると、図面とは広さや地形が違うなど全く一致していないことがわかってきました。この境界線のあいまいさも、盗伐が横行する大きな原因になっています。

国と自治体はおよそ70年かけて、境界線を明確にするための調査を続けていますが、人と予算が限られ、確定しているのは全国の森林の半分以下にとどまっています。山林は貴重な資源であるにもかかわらず、国や市町村といった自治体、山の所有者もあまりにも無関心だったことが、盗伐という事態を招いたとも感じました。

「あなたの山が狙われているかもしれない」ーーー山が直面している危機に目を向け有効な対策を急ぐ必要があると思います。