旅立ちの季節 学校の黒板を見てみたら

旅立ちの季節 学校の黒板を見てみたら
卒業、旅立ちの日、そんな今の季節、学校の黒板はにぎやかです。黒板がキャンバス代わりとなり生徒が、先生が学校生活への思いを描きます。チョークだけで描くその絵は黒板アートとも呼ばれ、全国コンテストまで開かれていました。(ネットワーク報道部記者 佐藤滋 飯田耕太)
3月1日、卒業式を迎えた学校で生徒たちに黒板アートをプレゼントした先生がいました。

奈良県・磯城野高校の美術の教諭、浜崎祐貴さん、3年生のクラスの副担任です。黒板に“船出”を表すという人気のキャラクターを描きました。

卒業の日の贈り物

3月1日、卒業式を迎えた学校で生徒たちに黒板アートをプレゼントした先生がいました。

奈良県・磯城野高校の美術の教諭、浜崎祐貴さん、3年生のクラスの副担任です。黒板に“船出”を表すという人気のキャラクターを描きました。
「卒業とは船出。それぞれの航海がすてきな冒険になりますように」

そんな思いを込めて前日、生徒が下校してから3、4時間かけて描きました。キャラクターの横に記したのは小さい「卒業おめでとう!!」の言葉と日付だけ。絵に込めた思いを感じてほしかったからです。

「過ごしたのは1年間だけど、もっと関わっていたかったと思うようなクラスでした。新たな道に進みいろいろなことがあるだろうけど、それぞれがよき道になればと思って描きました」

教具がキャンバスに

この黒板アート。先生から生徒へ、生徒から先生へ、卒業生から後輩へなどさまざまなパターンがあり、ツイッターなどに投稿されています。

そして今、全国から作品を募集するコンテスト「黒板アート甲子園」も開かれています。主催は黒板メーカー。3年前に始め、ことしで4回目です。
担当の山田勝美さんも、卒業の時期に黒板がこうした使われ方をしているとは、知らなかったそうです。

「黒板は教材や教具の1つと考えていました。それが“アートのキャンバス”にもなっていたことに驚いたんです」

社長もネット上にアップされているたくさんの黒板アートに気づき、その半年後に「プレ大会」を開催。おととしから本格的に作品を募集し、去年は全国の87の高校や中学から集まった作品は153点になりました。

年々、絵のレベルはあがっているそうですが、担当の山田さんは絵がうまいかどうかよりもっと大切なものが黒板アートにあると感じています。

それは”学校生活への思い”。その思いがにじみ出るような作品を期待しているそうです。

「学校での思い出の行事、先生や仲間の姿など個性あふれるそれぞれの学校らしい作品を寄せてほしいです」

力作の数々

「黒板アート甲子園」に力作が寄せられています。
奈良県立郡山高等学校 美術部/21人
奈良県の高校の作品、その真ん中に描かれたのは離任する先生の手です。学校を離れる先生に向けて描いた黒板アートだそうです。

黒板に描かれた生徒は21人。先生を見送る部員全員の姿でしょうか。“黒板アートは桜に似ている。おおきくて、あたたかくて、そして、はかない。でも、だからこそ心にはずっと残るのかもしれない。”という言葉も添えられています。

「先生に対する感謝や敬意の気持ち、さまざまな思い出を連想させる、ストーリー性にあふれた作品」と評されています。

実はこの高校は冒頭で紹介した浜崎先生の前任校。先生が離任する際に描かれたという作品です。
埼玉県立大宮光陵高等学校2年8組/2人
埼玉県の高校生2人が描いた作品は第1回の最優秀賞です。黒板に先生が絵を描いているかのように錯覚させる作品。現実と夢が交差する、白昼夢をテーマに描いたそうです。

「リアルな描写とイラスト的なモチーフ。見るほどに新しい発見がある」と評されています。
九州産業大学付属九州産業高等学校 美術部と弓道部/2人
福岡県の高校生2人の絵画と見間違うような作品もあります。チョークの色使いも豊富です。

タイトルは「期待と不安」。通学時、坂道を自転車で必死で上っていたのでしょうか。「高校生ならではの勢いを感じる作品。高校生活の1シーンで、町並みも精密に描かれている」と評されました。

消すのがしのびがたい

一生懸命描いてもいずれは消されてしまう、黒板アート。中には消されずにいる作品もありました。

神奈川県・弥栄高校の生徒2人の作品です。弥栄高校に行ってみると描いてから2年経った作品は、美術室前の廊下の壁に残っていました。
おととしの第1回大会で、特別賞を獲得。学校も消すのがしのびがたくなりそのままにしているそうです。

今は3年生で、1年生の時に友人と一緒に作品を描いた石井俊介さんは、まさにこの日が卒業式。卒業証書を手に、取材に応じてくれました。

「同級生と2人で20日間かけて描きました。絵のモチーフは同じ学年の吹奏楽部の女の子です」
「学校の屋上から望めるさわやかな景色と夕焼けの中、力強くトランペットを演奏する姿から高校時代の青春を表現したかったんです」
トランペットの周りのシャボン玉は、友人と2人でシャボン玉を何度もつくり、風に吹かれる様子を観察して描きました。制作から2年、チョークの色もとれかけていて、やがては消されてなくなるのかもしれません。

「1人でなくかけがえのない仲間と一緒に作品を作りました。たとえ、消されてしまってもその大切な一瞬一瞬はいつまでも思い出に残ります」

石井さんは黒板アートを一緒に描いた友達とともに、美術大学への進学を目指しています。

3年間ありがとう

黒板メーカーの山田さんが言っていたように、黒板アートは決して絵が上手なものがいいわけではありません。

弥栄高校の教室をのぞくと「先生方、大変お世話になりました。弥栄高校ですごした3年間は絶対に忘れられません」「ありがとうございました」

そんな大きな文字と、決してうまいとは言えないけれど一生懸命に描いた絵が黒板に残っていました。
翌日からは、約束しなければ会えなくなる先生たちに、約束しなくても会える最後の日に、感謝の気持ちを伝えておこうという、精いっぱいの思いが伺えました。

次の生徒たちのために、どんなに一生懸命描いてもやがては消されてしまう運命にある黒板アート。学ぶための黒板がほんのひと時だけ、さまざまな思いを記す場所になる、3月の今の学校はそんな季節です。