世界史が消える?新しい高校教育は

世界史が消える?新しい高校教育は
世界史といえば、ゴロ合わせで年号を覚えた人も多いのではないでしょうか?4年後、高校ではその世界史が大幅にリニューアルされます。文部科学省が今週公表した高校の「学習指導要領」の改訂案。世界史だけでなく、多くの教科の内容が見直されます。その影響は大学入試にも!いったいどんな内容なのか、みていきます。
(社会部記者 荒川真帆)
取材で訪れたのは今月、東京・練馬区の東京学芸大学附属国際中等教育学校です。

ちょうど、第一次大戦後のヨーロッパの歴史を学んでいましたが、驚いたのが授業の進め方。授業の大半が生徒たちどうしの議論にあてられていたからです。

(女子生徒)
「この外交政策がヨーロッパをどう変化させたのか。一つ考えられるのが、ファシズムでは?」

(男子生徒)
「国際連盟が形骸化していた、と言えるかも」

歴史の授業で議論?

取材で訪れたのは今月、東京・練馬区の東京学芸大学附属国際中等教育学校です。

ちょうど、第一次大戦後のヨーロッパの歴史を学んでいましたが、驚いたのが授業の進め方。授業の大半が生徒たちどうしの議論にあてられていたからです。

(女子生徒)
「この外交政策がヨーロッパをどう変化させたのか。一つ考えられるのが、ファシズムでは?」

(男子生徒)
「国際連盟が形骸化していた、と言えるかも」
自分で資料や本をみながら、議論し合う生徒たち。先生は全体を見ながらたまに問いかけをするだけです。生徒に議論を通して、歴史をさまざまな角度から考えさせる。
次の学習指導要領では、こうした授業を「アクティブ・ラーニング」と呼び、すべての教科で導入しようとしています。

新しい必修科目 続々と

今回の学習指導要領の改訂案。教える量は変わっていませんが、内容が大幅に見直されています。新設されるのは実に27科目。
例えば地理歴史。
冒頭の「世界史」は廃止され、新たに必修となるのは「歴史総合」です。日本と世界の近現代史を融合させて学ぶ科目で、今に通じる国際的な課題を考察するのが狙いです。

公民では、「現代社会」が廃止となり新たに「公共」が設けられます。「公共」は、選挙権が18歳に引き下げられたことを受けて設けられました。社会の構成員として、生徒を自立させることを目指します。

「ゆとり」「脱ゆとり」?

学習指導要領はおよそ10年に1度、改訂されてきました。

授業時間数や教える内容が最も多かったのは昭和45年の改訂です。授業についていけない生徒が増え「新幹線授業」とか、「詰め込み教育」と批判されると内容は徐々に削減。
平成11年の改訂では考える力を育てるため、「総合的な学習の時間」が新たに導入された一方、教える内容はさらに大幅に減らされました。

しかし、その後の国際学力調査で日本の順位が下がると「ゆとり教育」と批判をうけ、文部科学省は前回の改訂から再び教える量を増やす、「脱ゆとり」にかじをきりました。

“学び方”も変わる!“大学入試”も変わる!

今回の学習指導要領は従来のものと違い、学習方法にまで踏み込んで書かれています。

それが、冒頭で紹介した、「アクティブ・ラーニング」と呼ばれる学習方法です。生徒たちにグループで議論させたり、調べ学習を通じて発表させたりして、生徒みずからの思考力や判断力を育てようというのです。
この狙いはなにか?

高校教育は、大学入試に対応するため知識の暗記に偏りがちだと指摘されてきました。文部科学省は、「思考力」や「表現力」こそ、次世代に必要な学力だとして、これまでの教育を見直し、今回の改訂に踏み切りました。

これにより、今の大学入試センター試験も見直され、2021年1月から新たな「共通テスト」が始まります。思考力や表現力などを問うため、国語と数学に記述式の問題が導入されます。去年秋には、本番に向けたプレテストが全国で実施されました。

テストを受けた生徒に感想を聞くと、「今までよりたくさん頭を使った。新しい試験を受ける後輩は大変だと思います」と話していました。

現場の先生どう思いますか?

高校で始まる新たな教育。「ゆとり世代」と呼ばれる筆者の私から見ると、常に頭をフル回転させる必要があり、「大変だなあ」と感じます。

今回の改訂案について現場の先生たちはどんな風に受け止めているのでしょうか。
前向きに受け止めたのが東京都内の40代の高校教員です。
「単に生徒に議論させればいいというものではないので難しい面もあります。いかに深い学びにつなげられるか、これまで以上に教員の問いかけや工夫が大事で、まさに力量が問われると思います」


これに対し、「“それどころではない”というのが現実です」とため息交じりに話したのが関西地方の高校の教頭です。
教頭の高校はいわゆる教育困難校です。英語のbe動詞が分からない。数学を教えようと思っても、九九が怪しいなど、小中学校で学ぶ知識が身についていない生徒が少なくないといいます。

さらに、ひとり親だったり、経済的に厳しい家庭だったりする生徒も多く、教員たちは日々奔走。本来なら授業準備にあてたい放課後の時間は家庭訪問や保護者との話し合いにほぼ消えるといいます。

「なんとか頑張っていますが、新たな学びを展開するには教材作りや教師の自主研修がとても大事です。正直その余裕がありません」

教頭はこうつぶやきました。

専門家はどう見る

今や中学生の98%が進学する高校。しかし、この教頭の話のように、高校間の学力差や環境の違いは極めて大きくなっています。

こうした高校の実情に今回の学習指導要領は見合っているのか。教育政策に詳しい名古屋大学大学院教授の中嶋哲彦さんに聞きました。

中嶋さんは、「これまでの学校が知識・技術に偏重していて、考える授業は学校に必要だと思う」と一定の評価はできるとしました。

その一方で、「新たな指導要領は学習方法まで細かく書かれている。高校は生徒の学力差も大きい。どのように教えるかは学校現場それぞれで取り組んでいくべきだ」と課題を指摘しました。

取材を終えて

今回の取材を通して感じたのは「こんなレベルの高いこと、学校で本当にできるのかな?」ということでした。

今の学校は本当に大変です。厳しい財政状況で教員の配置は減る一方、学校に求められる役割はむしろ増え続け、教員は多忙を極めています。

今度の学習指導要領が目指す方向性は正しいのかもしれませんが、「出来る子だけが伸びて追いつけない子は置いてきぼり」とならないように、学校の環境整備や教員のサポート体制をいかに充実させられるか。国の「本気度」も問われていると思います。