漫画の危機!? 海賊版サイトの実態

漫画の危機!? 海賊版サイトの実態
「このままだと、若い漫画家が育たない」『あしたのジョー』で知られる漫画家、ちばてつやさんの訴えは、深刻なものでした。
いま、日本の人気漫画や雑誌の最新号が、著作者に無断で次々とインターネットにアップロードされている「海賊版サイト」が、若い世代を中心にじわじわと広がっています。著作権を侵害していると見られるサイトが何か月もの間、多くのアクセスを許していて、漫画家や出版社が危機感を強めています。海賊版サイトの実態を取材しました。(ネットワーク報道部記者・田辺幹夫 大阪放送局記者・西村敏)
「○○(※サイト名)やばい。職場の子持ちのお母さんほぼ全員から『子供がハマっている』と聞く」。
「初めて知ったけどデジタル無法地帯だ」
「もう単行本買う意味ないな」

最近、ツイッターでこんな書き込みが頻繁に見られるようになりました。○○は、いわゆる、漫画の海賊版サイトの一つです。

人気漫画が次々と…

「○○(※サイト名)やばい。職場の子持ちのお母さんほぼ全員から『子供がハマっている』と聞く」。
「初めて知ったけどデジタル無法地帯だ」
「もう単行本買う意味ないな」

最近、ツイッターでこんな書き込みが頻繁に見られるようになりました。○○は、いわゆる、漫画の海賊版サイトの一つです。
人気の漫画雑誌やコミックの最新号が著作者に無断でアップロードされ、スマートフォンやパソコンで閲覧できる状態になっています。ある海賊版サイトでは、「少年コミック」や「漫画雑誌」といった分類で、数々の作品の画像が表示されました。

海賊版サイト 懸念される被害拡大

ネット上では、こうした海賊版サイトが、いくつも見つかります。

その存在は、どれほど知られているのか。渋谷駅前で若い世代に話を聞いてみると、「知っている」「使っている」という声が数多く聞かれました。

「タダで手軽だから毎日使ってる。100冊は超えてるかな。どこでも見る。きのうも見てたし、きょう朝も見た」(専門学校生・19歳・女性)

「家でヒマなときに読みます。Wi-Fiがつながっているときに。罪の意識は薄くて、なんとなく自分の中で便利だから使ってた。無料だからラッキーという感じ」(大学1年生・男性)
取材した実感では、漫画を読む若い世代のうち、3割くらいが「知っている」という印象でした。

インターネットの利用状況を調べているビデオリサーチインタラクティブによりますと、こうした海賊版サイトのうち最近、利用者が急増しているあるサイトでは去年10月ごろから利用者数が増え始め、2か月後の12月時点で、およそ23万人にのぼりました。

利用者の年代は▼10代がおよそ42%と最も多く、▼次いで40代が21%、▼50代がおよそ19%、▼20代が14%、▼30代がおよそ5%となっていて若い世代を中心に利用が広がっている現状が分かります。
このサイトには人気漫画や発売中の雑誌など合わせて5万冊以上が読める状態になっていてそのほとんどが作者や出版社に無断でコピーされた海賊版だと見られます。

漫画をネットで読むことができる「電子コミック」は、正規の市場がここ数年、急速に成長していて、出版科学研究所によりますと、平成29年の国内での売り上げは1711億円に上っています。

その一方で、海賊版による被害は、経済産業省が平成26年にまとめた報告書では、500億円に上ると推計され、被害の深刻化が懸念されています。

著作権侵害・海外運営で摘発逃れか

こうした海賊版サイトはだれが何のために運営していて法的な問題点はどこにあるのか。

多くのサイトでは何らかの広告が表示され、訪問者数などに応じて運営者に収入が入る仕組みになっていて、金銭目的で運営していると見られます。

大阪大学大学院高等司法研究科の茶園成樹教授によると、漫画を無断でコピーしてインターネットに投稿する行為は、著作権の侵害に当たり、違法です。

一方、海賊版サイトを閲覧するだけの行為は、日本の法律では罪に問われることはないと言います。

また、海外のサーバーに投稿されていると規制は難しい上、削除を申し入れても応じないことも多いということです。

茶園教授は、「表現の自由に配慮する必要はあるが、海賊版しか掲載していないような悪質なサイトに限っては日本から閲覧できないようにする『ブロッキング』を導入するなど規制すべきではないか」と指摘しています。

そのうえで「海賊版をなくす特効薬はないので、学校などで海賊版サイトを利用しないよう啓発する教育を進める必要がある。また、出版社側も利用者に適正に漫画を読んでもらえるように新たなビジネスモデルを構築していくことが求められる」と話しています。
漫画の海賊版サイトをめぐっては、出版社は膨大な数の削除要請を送っているほか、捜査機関と連携するなどして対応を続けています。

去年、大阪の会社役員ら9人が漫画や週刊誌の記事を無断でコピーした海賊版をネットに掲載したうえ、そのリンクを自分たちが管理・運営するサイトに載せたとして著作権法違反で逮捕・起訴されるなど、摘発された例もあります。

NHKの取材に対し、被害を受けている出版社の1つは「今後はより使いやすい正規版配信サービスの整備や海賊版を利用しないように働きかける啓発活動にも力を入れていきたい」と話しています。

「タダより怖いものはない」こんな危険性も

さらに、こうした海賊版サイトは、著作権の侵害だけでなく、閲覧した人がセキュリティーのリスクにさらされる危険性もあります。

情報セキュリティー会社のトレンドマイクロに調べてもらったところ、ある海賊版サイトでは、アクセスするだけで利用者の端末で不正なプログラムが勝手に動きだすことがわかりました。

見た目は何も変わらないので簡単にはわかりませんが、パソコンのCPUの稼働率を調べてみると、海賊版サイトを開いた直後から、「100%」を示し、大きな負荷がかかっていました。
パソコンやスマホの電力を使って仮想通貨を生成(マイニング)するプログラムが自動的にダウンロードされていたのです。

「パソコンの動作が遅くなったり、スマートフォンのバッテリーが通常より早く切れてしまうことが考えられます」(トレンドマイクロ・岡本さん)

また、他の海賊版サイトでは、表示された広告をうっかりクリックすると、実際には何も起きていないのに、「パソコンがウイルスに感染している」と表示され、駆除のための費用を請求する、「偽サポート詐欺」と呼ばれるサイトに接続してしまう仕掛けも見つかりました。

このサイトには、去年10月から1月末までの間に国内から合わせて3000件以上誘導されていたことが確認されました。

「海賊版サイトは、企業などによってきちんと管理されたサービスとは異なり、いつ、何が起きるかわかりません。今回は仮想通貨の生成に関する不正プログラムでしたが、次にアクセスしたときには例えば、ウイルスに感染することも考えられます。そもそも、配信されたコンテンツの中に、ウイルスが含まれる可能性もあります。危険な目に合わないためにも海賊版サイトにはアクセスしないことが望ましい」(岡本さん)

立ち上がった漫画家たち

こうした海賊版サイトがもたらす深刻な状況をわかってもらおうと、漫画家たちで作る日本漫画家協会は、漫画ファンに向けた声明を発表することになりました。
声明では、漫画の読み手と作り手を「輪」という言葉で表し、海賊版サイトの登場で、作り手側が、その輪から追い出され、漫画の創作に加わっていない海賊版サイトが利益を得ている現状があるとしています。そして、このままの状態が続くと、作品が作り続けられなくなり、日本の文化が滅びてしまうと強い危機感を表明しています。

若手漫画家が“死んで”しまう

日本漫画家協会の理事長を務める漫画家のちばてつやさんは、次のように訴えています。

「漫画がいろんな形で読まれることは、とてもうれしい。ありがたいんだけど、海賊版サイトで読まれてしまうと単行本にならないし、雑誌が売れない。そうすると、いろいろな取材をしたり、資料を集めたりということができなくなってしまう。いいアイデアがあって、いいキャラクターがいて、おもしろい話が作れるのに、漫画家がそれを続けることができないということが現実に起こってきている」

「特に、若い漫画家たちが、かわいそうだなと思う。いい才能を持った若い人たちが、今、一生懸命、いいものを書こうと頑張っているけれども、海賊版サイトで読まれてしまうと、若い作家が、どんどん“死んで”いってしまうことに気が付いてほしい。漫画文化をこれからも育てていくという意味でも、どうか海賊版サイトでは読まないということを、お願いしたい」

創作者へのリスペクトを

ちばさんの言葉には、漫画を愛してくれるファンを責められないながらも、苦境に陥る若手作家の実情をどうかわかってほしいという思いが込められていました。

海賊版サイトは、友達やSNSでの口コミで知り、まずいと思いながらも使っている人が数多くいるように感じます。
一方、そうしたサイトの存在を知りながら、利用はしないという声も取材の中で多く聞きました。

ある男子大学生は、「すこし調べると著作権を侵害しているサイトということはすぐに分かるので、嫌悪感があって使いません。お金を払って漫画を創作する人に届くことで次の作品の創作に生きると思う。漫画家がいなくなると自分の楽しみもなくなってしまう」と話していました。
海賊版サイトは許されないという社会的な認識を醸成するのはもちろんのこと、創作者をリスペクト、尊敬する気持ちこそが、漫画文化を守ることにつながるのではないかと改めて感じました。

日本漫画家協会の声明全文

 パソコンや携帯電話など、デジタル技術が発達して、マンガの読まれ方はずいぶん変わりました。
 そして以前よりもずっと気軽に、容易く作品を手にしてもらえるようになっています。
 本当にすばらしいことだと思います。
 私たちマンガ家に限らず、ものを創作する人間は、作品を読んだり、観たり、聴いたりしてくれる人たちに、まずは楽しんでもらいたい、と考えています。
 そして、一生懸命作り上げた作品がきちんとみなさんの心に届き、感動として実を結んだときに、私たち作り手は充実感とか達成感を感じ、また次の創作に向けて頑張ることができるのです。
 でもそれには、作り手と、作品を利用するみなさんが、きちんとした「輪」のなかでつながっていることが大事です。
 残念ながら最近、私たち作り手がその「輪」の外に追いやられてしまうことが増えています。
 その代わりに、全く創作の努力に加わっていない海賊版サイトなどが、利益をむさぼっている現実があります。
 世の中には、マンガ以外にもたくさんの作品があふれています。
 それらを観たり、読んだりするときに、その「輪」のなかに、創作した人たちがちゃんと一緒に入っているだろうか?と、ちょっと考えてみてくれませんか?
 私たち作り手は、どんなに頑張っても、その「輪」の外側では作品を作り続けられないのです。
 このままの状態が続けば、日本のいろいろな文化が体力を削られてしまい、ついには滅びてしまうことでしょう。
 そのことをとても心配しているのです。