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自動運転でアメリカ超え狙う 中国の野望

ITや自動運転などのハイテク技術をめぐって、激しい“覇権争い”を繰り広げるアメリカと中国。

“デジタル覇権”をテーマにシリーズでお伝えする特集の2回目は、国ぐるみでアメリカ超えを狙う中国です。

習近平国家主席が「国家千年の大計」として整備を急ぐ巨大都市の中核部分を歩くと、最先端の技術で世界をリードしようとする中国の野望が見えてきました。(中国総局記者 吉田稔)

習主席肝煎りの新都市で進む実験

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首都・北京から南に約100キロ、車で2時間ほどの距離にある「雄安新区」。

2035年までに東京都のほぼ8割の面積にあたる、およそ1700平方キロメートルを開発する計画で、習近平国家主席の肝煎りプロジェクトとして「国家千年の大計」とも呼ばれています。
去年10月に訪れたときは、辺り一面トウモロコシ畑でしたが、わずか1年で中心部には近代的なビルが建てられ、駐車場にはEV=電気自動車用の充電スタンドがずらりと並ぶなど急ピッチで整備が進んでいました。

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さらに、建物を周回する片側1車線の道路に書かれていたのが「自動運転専用」の文字。

走ってきたのは丸形の小型バス「アポロン」です。

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世界初という量産型の全自動運転バスで、長さは4メートルほど。8人乗りで車体には「データ収集中」と書かれています。

雄安新区では、人や一般の車両も行き来する公道で、日常的に自動運転車両が走行し、実用化に向けたデータ収集を重ねているのです。

究極の“つながる車”実現へ

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雄安新区が目指しているのは、街を走る車どうしはもちろん、交通標識や信号、駐車場や街灯、さらにはゴミ箱までネットとつながる究極のIoT(もののインターネット)社会の実現です。

車がカメラやセンサーで周辺の状況を感知して走行するだけでなく、車どうしや周辺施設、さらには歩行者までがネットを通じてつながることで、より安全な環境を街ぐるみで実現しようというのです。

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膨大な情報をやり取りするために必要となる次世代の通信技術「5G」も来年、いち早く導入される計画です。

こうしたプロジェクトでは、既存の街のごく限られた一角をモデル地区としてスタートするのが一般的ですが、雄安新区は、国が強力なリーダーシップを発揮して、いきなり「都市ごと」開発してしまうという中国らしいスケールとスピードが反映されたプロジェクトなのです。

中国政府の長期戦略

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このプロジェクトで重要な役割を担っているのが、中国を代表するIT企業の1つ「百度(バイドゥ)」。

去年、中国政府から中国全土での自動運転に関わるビッグデータの収集・分析を特別に認められ、実用化に向けた動きが本格化しています。

自動車や半導体のメーカーからすれば、中国で自動運転の開発を進めるためには百度に協力したほうが圧倒的に有利です。

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その結果、中国国内はもちろんのこと、アメリカからも「マイクロソフト」や半導体メーカーの「エヌビディア」などが百度の自動運転システム「アポロ」の開発プロジェクトに参加を表明。
日本からもホンダが加わるなど、すでに100社以上が参加する国際プロジェクトに成長しています。

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中国の自動車業界に詳しい、みずほ銀行国際営業部の湯進主任研究員は「米中が貿易問題で対立したとしても、巨大な中国の自動車市場を無視することはできない。中国では外国企業が自動運転に不可欠な地図情報を自由に取得することができないため、百度が主導するプロジェクトに参加しなければ今後の開発に大きな後れを取りかねない。中国は長期的な視点で自動運転の国際標準になるという戦略を描いているのではないか」と分析しています。

情報収集では欧米より優位に

中国の自動車開発をめぐっては最近、気になるニュースがありました。

AP通信が「中国政府がメーカー各社にEV=電気自動車など新エネルギー車の位置情報などのデータ提供を求めている」と伝えたのです。その目的は個人情報の取得ではなく、EVや次世代スマートカーの品質向上に役立てるものとされています。

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私も中国のEVメーカーを取材した際に「充電スタンドを通じて車両の走行情報などを把握することは可能だし、必要があれば政府にそうした情報を提供することもあり得る」と聞きました。

個人情報の取り扱いに敏感な欧米や日本であれば、こうしたデータ収集に慎重な対応が求められますが、国家の統制が強い中国では大きな抵抗もなく行われているのが実態です。

次世代のEVやスマートカーの開発ではビッグデータの収集と解析のスピードが勝利の鍵を握ると言われています。こうした国ぐるみの支援が、今後の開発競争で圧倒的に有利に働くのではないかと感じます。

“中国製造2025”に痛手も

しかし、中国の勢いに冷や水を浴びせる事態も生じています。

アメリカ商務省は10月末、中国の半導体メーカー「福建省晋華集成電路(JHICC)」に対し、アメリカの安全保障をおびやかすおそれがあるとして、アメリカ企業との取り引きを制限する措置をとると発表しました。

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おととし、政府系の企業や地元政府などが出資して設立された新興企業のJHICCがなぜ目を付けられたのか。それは、半導体が自動運転やAI=人工知能の核となる技術だからです。

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中国は、産業の高度化政策「中国製造2025」を実現させ、世界トップクラスの技術強国を目指していますが、半導体の大半を海外からの輸入に頼っているのが現状です。
そこで、半導体の国産化を推進するため立ち上げられた国策会社がJHICCとみられているのです。JHICCは、およそ60億ドル、日本円で6800億円を投じて海外から半導体製造装置を輸入して第1期の生産ラインを建設。
この中には、半導体製造装置で最先端の技術を持つアメリカ企業のものも多く含まれていたとみられます。
ところが、本格生産に入ろうというやさきに、取り引き制限措置を課されたのです。

私は影響を探ろうと、12月上旬にJHICCがある福建省晋江を訪ねました。

工場から出てきた従業員に取材を試みましたが、大半が拒否するなか、ある男性社員は「アメリカの制裁があろうとなかろうと、われわれは半導体を生産するんだ」とだけ話しました。

一方、協力企業の社員は「アメリカの措置が発表されてから、アメリカ企業のエンジニアはすべて現場を去った」と実情を明かしてくれました。生産開始直前の突然のエンジニア不在は、工場にとって大きな痛手になったようです。

覇権争いは一層しれつに

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12月1日に行われた首脳会談で関税引き上げを見送り、90日の休戦状態に入った米中の「貿易戦争」。

中国側は農産品、エネルギーなどの購入拡大による貿易赤字の削減でいったんはお茶を濁した形となっています。
しかし、貿易摩擦の背後にある知的財産権の侵害や強制的な技術移転といった問題には何も進展がありません。

世界の盟主・アメリカ超えの野望を隠さない中国にとって、ハイテクを含む産業の高度化は国の命運を左右する差し迫った課題です。デジタル覇権をめぐる米中両国の争いは、一層激しさを増しています。

吉田 稔
中国総局記者
吉田 稔
平成12年入局
経済部で財政や貿易などを取材
現在は中国総局