ニュース画像

ビジネス
特集
激減ガソリンスタンド どう守る最後の砦

閉鎖されたガソリンスタンド。最近、よく見かけるようになったという人も多いのではないでしょうか。それもそのはず、ガソリンスタンドの数は、人口やガソリン需要の減少を背景に、この20年余りで、半分に減っているのです。災害時にはエネルギー供給の「最後の砦(とりで)」としての役割も担うガソリンスタンドをどう守るのか。これまでにない発想で対策が動き出しています。(経済部記者 大川祐一郎)

給油に往復30分

ニュース画像

静岡県浜松市の山あいにある龍山地区。人口600人余りのこの地区には、ガソリンスタンドが1軒ありましたが、10年前に閉店。高齢化率が60%を超えるほど高齢化と過疎化が進み、収益の悪化からスタンドの経営が維持できなくなったのです。

今では、最寄りのスタンドまで15キロ。往復30分ほどかけて給油する人もいます。

長年、この地区に住むNPO法人の事務局長、松下和明さんは、この状況に危機感を募らせています。

ニュース画像
松下和明さん

松下さんは、当初、ガソリンスタンドの運営を住民たちで引き継ぐことを検討しました。路線バスは1日5往復。自家用車は生活に欠かすことができない移動手段だからです。しかし、維持費などのコストを賄いきれないため、断念せざるを得ませんでした。

「お年寄りが遠くまで給油に行くのは本当に大変。なるべく近いところで給油したいというのが切実な思いだ」(松下和明さん)

減り続けるガソリンスタンド

ガソリンスタンドの数は全国的に減り続けています。

ニュース画像

経済産業省の調査では、平成6年度の6万か所余りをピークに昨年度の時点で3万747か所まで半減。背景には人口減少や、若者の車離れなどに伴うガソリン需要の減少があります。

スタンドの数が3か所以下の「ガソリンスタンド過疎自治体」は、全国で312。このうち10の自治体は、1つもスタンドがありません。

こうした自治体では、車への給油だけでなく、高齢世帯への灯油の配送に支障を来す可能性があるということです。

始まった移動販売の実証実験

こうした中、11月下旬に龍山地区で始まったのが「ガソリンの移動販売」です。経済産業省が実証実験として全国で初めて行いました。

ニュース画像

仕組みはシンプルで、タンクローリーに直接、給油機をつないで、ガソリンを供給するというもの。ガソリンは揮発性が高いため、販売は地下にタンクを備えた場所で行うことが消防法で定められていますが、今回は、地元消防から許可を得て行われました。

この仕組みであれば、一定の広さの敷地があれば、日によって場所を変えながらガソリンを販売することができます。設備を維持する費用が大幅に削減でき、経済産業省は過疎地でのガソリン供給の新たな手段にしたいとしています。

給油に訪れた住民からは「年をとるとガソリンスタンドは近ければ近いほどいい」とか「給油に行くのに、むだなガソリンを使わなくて済む」などと期待の声があがっていました。

AI活用して運営も

さらに最新の技術を活用して、ガソリンスタンドの運営を効率化しようという動きも出ています。

利用者みずから給油するセルフ式のガソリンスタンド。一見、人手がかかっていないように見えますが、実は、利用者が給油しようとするたびに、事務所にいるスタッフが必ず給油の許可を出しています。法令で義務づけられているからです。

ニュース画像

取材で訪れた埼玉県にあるスタンドでは、利用者が給油機のノズルをあげると、事務所にあるタッチパネルが赤く点滅。利用者がたばこを吸っていないかなどをスタッフが目で見て安全を確認し、パネルを押して許可を出していました。

この作業をAIで代替できないか。石油元売り大手の「コスモエネルギーホールディングス」は実証実験に乗り出しました。

ベンチャー企業の技術を活用し、カメラで撮影した画像から利用者の動きをAIが読み取ります。

ニュース画像

AIが危険がないかどうかを分析し、給油の許可を判断することを目指しています。実用化すれば、より少ない人員でスタンドを運営できるということです。

実証実験を担当する「コスモ石油マーケティング」の久坂有史・拠点開発グループ長は「AIを活用することで、安全性を高めながら、効率化を図ることも目標にしたい」と意気込んでいました。

壁は安全規制

ただ、こうした新たなガソリン供給の手段は現状では認められていません。立ちはだかっているのは、消防法などの規制です。ガソリンという危険物を扱う以上は、安全性が確保されていなければならないからです。

ニュース画像
経済産業省の研究会(6月)

経済産業省は、ことし7月、将来のガソリンスタンドの在り方を報告書にまとめましたが、今後3年を集中期間として関係者と協議し、規制の見直しを進めたいとしています。

ガソリンスタンドをとりまく環境は、人口減少や人手不足などの課題に加え、電気自動車の普及などで大きく変わることが予想されます。

ただ、災害が起きた時には、地域の燃料供給の拠点として、「最後の砦(とりで)」の役割も担います。「地域のインフラ」とも言えるガソリンスタンドをどう維持していくのか、見直しの議論は待ったなしです。

大川 祐一郎
経済部記者
大川 祐一郎
平成23年入局
青森放送局をへて経済部
エネルギー担当