ニュース画像

ビジネス
特集
産地に異変!? 気候変動で変わる米どころ

「青天の霹靂」という名前のコメをご存じですか?3年前にデビューしたばかりの青森のブランド米です。コメの食味ランキングでは、3年連続で「特A」の評価を獲得。かつてはその冷涼な気候から「おいしいコメが作れない」と言われていた青森県でなぜ、今、おいしいコメが作れるようになったのでしょうか。(青森放送局記者 佐野裕美江)

青森のイメージを変えた米

「青天の霹靂」の仕入れを年々増やしているとの話を聞いて訪れたのは、東京・中央区にあるコメの卸売り会社です。

ニュース画像

この会社では、全国各地から仕入れた60種類以上のコメを取り扱い、埼玉県の工場で1日約5000トンのペースで精米しています。
「青天の霹靂」が初めて市場に出た3年前から取り引きをスタート。去年の仕入れは、はじめの年の約10倍にあたる2162トンまで拡大しました。

ニュース画像
米卸売会社 村瀬慶太郎社長

「青森はどちらかと言うと、おいしいお米がとれる産地ではなくて、業務用のコメをつくる産地というイメージが非常に強かった。青天の霹靂が登場したことで少しイメージが変わってきた」

注目は“気候変動”

各地でおいしいコメが作られている中、なぜ、これほどまでに青森のコメの取り扱いを増やすのか。その理由は、近年、西日本を中心としたコメの産地の異変にあるといいます。

ここ数年、コメが出穂期を迎えたあとに気温が高い日が続き、コメが白く濁って品質が低下する現象が増加傾向にあるのです。

ニュース画像
一部が白く濁ったコメ

一方、青森県では今のところ、こうした報告はなく、安定した品質のコメが出荷されているため、東北のほかの有名なコメどころの銘柄にならんで高い評価を受けるようになっているというのです。

この会社では、気候変動によって稲作に適した地域が北上し、この傾向はさらに強まると考えています。こうした考えは、国の研究機関による調査結果でも裏付けられています。

ニュース画像

農林水産省の調査では、2031年から2050年までの間の平均気温は、2000年までの20年間と比べて、2度上がると予想。これに伴い、北海道や東北、北陸のコメどころでは、コメの収穫量が10%~30%増えると予測されています。

一方、西日本を中心とした地域では、高温に強い品種への転換が進まなければ、一等米の比率が低下し、特に九州地方では、30%近く下がるとみられるというのです。

こうした気候の変動が、青森のブランド米、青天の霹靂の評価を後押しする要因になっていたのです。

高品質を維持する秘密兵器

それではなぜ、「青天の霹靂」が高い品質を維持できるのか?

理由を探ると、人工衛星を活用した青森県独自のシステムがありました。収穫時期を迎える直前の約1900haの田んぼをフランスの商業衛星が撮影。画像が捉えた稲の色と気温のデータを照合し、収穫に最適な日付をコンピューターが分析します。

ニュース画像

収穫が近づいている田んぼほど、赤に近い色、まだ日数が先のものについては黄色や緑色で示されます。隣あった田んぼでも、土壌の状態によって収穫日が異なることがあるということです。

こうしたデータは、スマホやタブレット端末からアクセスして、いつでも見ることができ、農家は稲が最もよく育ったタイミングで、穂を刈り取ることができるのです。

収穫シーズン間近の9月、「青天の霹靂」を生産する津軽地方の農家を訪ねました。

ニュース画像

農家は、所有する田んぼを1か所ずつまわり、タブレットを通じてコメの生育状況を確認。ことしの収穫に適した日は、去年より2日早い、9月19日だと確認しました。

作業を終えて話を聞くと、収穫に適した日を、これだけ細かく見分けることは、人の目だけではできないと関心した様子でした。

開発者の思い

青森県では、以前、職員が田畑をまわっておおまかな収穫日を予想していましたが、市町村単位での予測しか出せず、コメの品質にどうしてもばらつきが出ていたということです。

ニュース画像

システムの導入によって、津軽地方に広く点在する約8000枚もの田んぼで収穫する「青天の霹靂」の品質を均一に保つことが可能になりました。

年間コストは、衛星写真の購入費、約200万円のみ。これも、国の研究予算を活用しているため、農家は、無料で人工衛星からの情報を得ることができます。このシステムを活用して、コメ作りをしているのは現在、約500人。

開発した青森県産業技術センター農林総合研究所の境谷栄二さんは、今後、さらに利用する農家を増やし、ブランド力に磨きをかけたいと考えています。

ニュース画像
青森県産業技術センター農林総合研究所 境谷栄二さん

「青森県がこういうツールを持っていることは強みになる。農家もとても熱心に管理されているし、全国の中でも青天の霹靂がさらにブランドとして伸びていけばいいと期待している」

気候変動を契機に注目されている「青天の霹靂」の「青」は青森の青、「天」ははるかに広がる北の空、「霹靂」は稲妻を意味します。

晴れ渡った空に突如現れる稲妻のような鮮烈な存在にしたいという思いから、その名がつけられたそうです。スーパーなどで見かけたら、ぜひ、一度試してみてください。

佐野 裕美江
青森放送局記者
佐野 裕美江
平成28年入局
事件や経済分野を担当した後
むつ支局で原子力施設など取材