ニュース画像

ビジネス
特集
その日はどうなる? 軽減税率の始まる日

この物語を始めるために、時計の針を少し進めます。

時は2019年10月1日。
消費税率が10%に引き上げられ、食料品などに限って税率を8%に据え置く「軽減税率」の制度が導入されました。
消費税に8%と10%という複数の税率が存在することになったこの日。日常生活がどう変わるのか、国が示している指針をもとに想像してみました。

どんな1日が待っているのでしょうか。(経済部記者 影圭太)

コンビニの朝食は8%? 10%?

ニュース画像

2019年10月1日、火曜日の午前7時。

朝からニュースが、消費税率が10%に引き上げられたことを繰り返し伝えていました。

妻「消費税が上がっても、こづかいは現状維持よ」

すかさず機先を制してきました。

私「分かってるよ。でも出世して給料があがれば、増やしてくれるよな」

妻「出世すれば・・・ね」

そんな会話を交わしながら身支度をして勤務先の会社に向かい始めた私。朝食を食べ損なったので、自宅のすぐ近くのコンビニで買うことにしました。
・・・あれ? いつもよりレジが込んでいるぞ。

ニュース画像

この日買ったのは、サンドイッチと牛乳。
しばらく待って、ようやく自分の会計になりました。すると、店長が聞いてきました。

「持ち帰りですか? それとも店内飲食ですか?」

軽減税率の制度では、「持ち帰りか外食か」が重要な分岐点となる。この制度では、「酒類と外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が結ばれた週2回以上発行される新聞」が8%の税率に据え置かれる。

ニュース画像

同じ食料品を買っても、コンビニのイートインスペースで店内飲食すると外食にあたり、10%の税率が適用される。
その際に判断の基準となるのが、テーブルやいすといった「飲食設備」があるかどうか。
飲食設備がある場所での食事の提供は外食とされるため、コンビニのイートインスペースやスーパーの休憩スペースでの食事もレストランなどと同じように外食として10%の税率が適用されることになる。

「もちろん持ち帰りです」と答えた私。
商品に適用された税率は8%。税込み367円でした。
もし店内で食べていたら374円になっていました。
少ないこづかいでやりくりする身には、7円の差は貴重です。

お昼の出前は?

オフィスに着くと急いでサンドイッチを牛乳で流し込み、仕事に取りかかります。

仕事中に、コピー機の紙がなくなったので注文しました。
「これは飲食料品ではないので、税率は10%だな」
事務作業に必要なファイルや文房具も
「10%だな」

ニュース画像

ついつい軽減税率かどうか、考えてしまいます。
仕事をしながら、原則、飲食料品ではないものは10%の税率になるんだと、少しずつ軽減税率にも慣れ始めてきたと思っていると、昼休みの時間になっていました。

「昼飯は、そばの出前をとろうか」
先輩の提案に乗って、そばの出前を注文しました。
「かけそば3つにもりそば2つ、あわせて4000円になります」と電話の向こうでそば屋の人が答えます。
でも少し待って。
出前の税率は8%だっけ? それとも10%だっけ?

そばの出前やピザの宅配の税率は8%となる。飲食店での注文であっても、顧客の指定した場所に、食べ物や飲み物を単純に届けているだけで、調理などを伴う外食にはあたらないと判断されるため。

ニュース画像

うーん、わかるようなわからないような。
でも少し得したような気持ちで、そばをすすりました。

コーヒー回数券は?

午後は、営業先への外回りです。
2社と商談を済ませた後、時間があったので入ったのはなじみの喫茶店です。

私「マスター、ブレンド1つ。コーヒー券で支払います」

ニュース画像

マスター「この回数券は8%の税率で売ったものです。店内で飲むなら2%分の差額を頂きます」

私「えっ。差額分って・・」

どちらの税率が適用されるかは、回数券でコーヒーを注文した時に判断するとされている。回数券そのものを販売した時には店内か持ち帰りか判断できないので、国税庁では、税率を変えて店内用と持ち帰り用、2種類の回数券を販売することも考えられるとしている。

「本当に差額払うの?」

そう思いながら渋々、5円を支払うことにしました。複雑な気持ちでコーヒーを飲んでいると、マスターと別の客が口論になっています。いやー、軽減税率って大変だー。

帰りがけの1杯は?

仕事が終わり、同僚と帰宅途中に立ち寄ったのは、焼き鳥屋。
軽減税率って少し疲れるなあと、焼き鳥をほおばりながら、ビールを2杯飲み干しました。

ニュース画像

持ち帰りもできるこのお店。妻のお土産にと、ねぎまとつくねを注文しました。メニューを見ると、店内での価格は書かれていますが「持ち帰りの場合、税率が異なるので、別価格となります」とだけ書かれています。・・・一体いくらなんだ?

店内飲食と持ち帰りの両方を行っている店では、価格表示が増えることになるため、政府は、どちらか片方の税込み価格だけを表示する方法もあると例示している。

持ち帰りの値段を店員に確認して、何とかこづかいの範囲内で支払うことが出来ました。

「なんか、ややこしいなあ」
複雑な気分を抱えて家路につき、長い1日が終わったのです。

なぜ増税?の議論を

ここで時計の針をもとにもどしましょう。

1日を想像しただけでも、どちらの税率か迷う場面がいくつもありそうです。場合によっては「追加での支払い」などこれまでと違った手間がかかることになるかもしれません。
少なくとも、小売業者や外食業者にとっても、会計処理は今より複雑になり、価格をどう表示するかに頭を悩ますケースも出てきそうです。

ニュース画像

そもそも軽減税率は、日常生活の必需品の税率を据え置くことで、所得の低い家庭の負担増を和らげることが目的です。

しかし、税や財政に詳しい成城大学の田近栄治特任教授はこう話します。

「軽減税率は、高所得の世帯の負担軽減にもつながり、小売店の対応が複雑になることもあって、導入すべきではないというのが経済の教科書では当然のことになっている。それでも導入するのであれば、小売りや外食の現場が混乱しないようルールを設計すべきだ。そもそもなぜ消費増税をしなくてはならないかも考え、議論するべきだ」

制度の導入まで1年足らず。せめて小売店や飲食店の混乱が小さくなるよう、国には、わかりやすい丁寧な説明が求められています。

影 圭太
経済部記者
影 圭太
平成17年入局
山形局 仙台局をへて
現在 財務省を担当