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生まれるか? 日本版“GAFA”

「日本でスタートアップ企業は育ちにくい」。多くのスタートアップ(ベンチャー)企業がグローバルで活躍するアメリカや中国に比べて、日本はスタートアップに元気がないと、まるで“定説”のように言われています。ところが、そうした“定説”を言下に否定するのはスタートアップの聖地、アメリカ・シリコンバレーの世界的ベンチャーキャピタル。日本のスタートアップは「有望」なんでしょうか?(ネットワーク報道部記者 伊賀亮人・田辺幹夫)

日本のスタートアップは成功している?!

シリコンバレーで最も有名な「アクセラレーター」の1つ「Yコンビネータ-」。

アクセラレーターは、アメリカのスタートアップが成長するうえで欠かせない存在です。彼らは起業家や創業間もないスタートアップに、顧客ニーズの把握方法や投資家との人脈づくりなど、経営のノウハウを教え込んで育成します。有望な企業に早い段階で投資して、大企業に成長させることで収益を稼ぐビジネスモデルです。

2005年の設立以来、Yコンビネータ-の支援を受けた企業の中から1億ドル(約110億円)以上の価値を持つ企業が93社、生まれていて、「エアビーアンドビー」や「ドロップボックス」など世界的な企業も輩出しています。

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Yコンビネータ-のパートナーで、「ヤフー」の創業期の従業員の1人だったティム・ブレイディー氏と、自身も起業家で世界に先駆けてスマートウォッチの開発を手がけたエリック・ミジコフスキー氏の2人に話を聞きました。

冒頭、「日本でスタートアップは育ちにくいと言われるが」と話を振ると、異口同音に「なぜそう思うんだ?」とけげんな顔をされました。

Q:日本のスタートアップは成功しているということか?

A:〈ティム〉「来日してから成功した企業にたくさん会った。確かにグローバルに成功した日本のスタートアップが多くあるかと聞かれれば、アメリカや中国ほどではないかもしれないが、それでも成功している企業はある」

Q:ただ、これまでYコンビネータ-の支援を受けた日本人はまだ1人だが?

A:〈エリック〉「おそらく日本のスタートアップの創業者は、Yコンビネータ-のことを聞いたことはあっても選択肢として考えたことはなく、アメリカの企業のためのものだととらえていたのではないか。ただ、この数年間、われわれは海外のベンチャー創業者が参加しやすいシステムに変えてきている」

問われるのはアイデアではなく『人』

日本のスタートアップにポテンシャルを感じているという2人。
彼らは年に2回、世界中からスタートアップを募集して、3か月で集中的に育成するプログラムを運営しています。
数多くの企業が参加を申し込むため書面や面接による審査の合格率は3%とも言われる狭き門です。企業に何を求めているのか聞きました。

Q:特に関心を持つテクノロジーや業界はあるか?

A:〈ティム〉「われわれは独自のアプローチを持っている。アイデアよりも人を重視している。起業間もない段階で持っているアイデアは完璧ではなく、ほとんどの場合は間違っている。だから早く学び正しい答えを見つけ出すことができる『人』に賭けた方がいい」

〈エリック〉「アイデアは変えられるが人は変えられない」

Q:どういう才能や特徴を求めているのか?

A:〈エリック〉「起業することは難しい。『飛行機を製造しながら操縦するようなもの』とも例えられるが、会社を作りながら製品の問題を解決していかないといけない。創業者にはあきらめない、強じんであることが求められる。スキルより意思が重要だ」

宇宙に“アバター”を

2人はシリコンバレーと日本企業を結ぶために活動をしている「SVJP」という団体が主催するマッチングイベントに参加するため来日しました。

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イベントでは、日本企業に育成プログラムの雰囲気を体験してもらおうと、アメリカで実際に行っているようなパートナーとの面談が模擬的に行われました。

参加したスタートアップの中に、宇宙空間での作業を地球上から行う技術を開発している「GITAI」という企業がありました。

宇宙に自分の“分身”となる「アバターロボット」を置いて、視覚や触覚、それに動きを地上に高速通信で伝えて遠隔操作で作業することを目指しています。

宇宙飛行士が活動するには多額のコストが必要で、常に危険と隣り合わせ。ここに大きなビジネスチャンスがあると考えているのです。

CEOの中ノ瀬翔さんにパートナー2人が繰り返したのは「まずは近くの顧客を探そう」という言葉でした。技術を評価しながらも、まずは「技術を地球上の顧客で試し、そこからブラッシュアップしていくのがいいのでは」というアドバイスをしたのです。

Yコンビネーターでは“Sell before you build”(製品を作る前に売れ!)というほど、顧客のニーズを聞きながら製品をどんどん改良していくことを重視しています。

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「『うっ』と思いましたよ」。
指摘を受けた心境を中ノ瀬さんはこう明かします。

「2人の言うことは『確かにそうだ』と思いました。でも、私たちはまず宇宙でビジネスを始める、という考え方は変わりません。Yコンビネーターには2人と違う考え方のパートナーもいると思いますし、彼らの人脈やノウハウはとても魅力的なので、ぜひ参加してみたいと思っています」

GITAIのように、世界を目指す日本のスタートアップは着実に育っているようです。去年(2017年)、日本のスタートアップ企業が調達した資金総額は2791億円と、過去10年で最高になりました。(出典:entrepedia「Japan Startup Finance 2017」)

日本のスタートアップ事情に詳しい「デロイト トーマツ ベンチャーサポート」の斎藤祐馬事業統括本部長は、現状をこう分析しています。

「日本は起業しやすい環境で、大企業との協力も進み、世界で勝負できる技術を持ったスタートアップは存在します。ただ、世界で大成功を収めたスタートアップはまだありません。世界を目指して戦略的に事業を進めていくことができる経営陣がまだまだ足りないからだと考えています」

アジアのベンチャー投資が急伸

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実は今、アジアのベンチャー投資額はアメリカ以上の伸び率を示しています。

その中で新たな投資先を探そうと、シリコンバレーのアクセラレーターの間で、日本にも拠点を設置したりマッチングイベントに参加したりする動きが出ています。

Yコンビネータ-のような育成プログラムに参加して投資を受けるチャンスが広がっているのです。

Q:日本のスタートアップの課題をどう感じたか?

A:〈エリック〉「企業が抱える問題はだいたい共通している。例えばどのように人材を確保するか、どのように顧客を確保するかなどだ。私たちの売りの1つはこれまでに約1900社がプログラムに参加しているので、その経験から学ぶことができることだ。今から参加すればゼロから学んだりトライ・アンド・エラーを繰り返したりする必要がないのだ」

〈ティム〉「参加した企業には『同窓会』のようなネットワークがあり、その助けを受ければ成功する可能性は高まる」

Q:日本ではベンチャー投資が少ないことが課題とされているが?

A:〈エリック〉「国内で資金を集められないなら、海外に目を向ければいい。以前は企業にシリコンバレーに拠点を移すことを求めていたが、今では自国にとどまるよう勧めている。プログラムに参加して、人脈を得て、投資家と話し、シリコンバレー文化を学び、戻ってもらえればいい」

Q:日本の起業家が成功するために鍵となるのは?

A:〈エリック〉「挑戦すること。挑戦しなければ可能性はゼロだが、挑戦すれば10億ドル(1100億円)規模の収益を生む企業に成長する可能性もゼロではなくなる」

〈ティム〉「シリコンバレーが特別な理由の一つに、失敗を許容することがある。投資家によっては失敗した経験を持つ創業者がいる企業を選んで投資する人もいる」

Yコンビネータ-は、中国に拠点を設置する予定があるなど、目線の先にあるのは中国のスタートアップというのも事実。ただ、目の前に新たな機会が広がるなか、国という枠やこれまでのビジネスモデルにとらわれることなく挑戦することが、日本のスタートアップが世界に羽ばたくために求められていると感じました。

伊賀 亮人
ネットワーク報道部記者
伊賀 亮人
平成18年入局
仙台局 沖縄局を経て
経済部で経済産業省などを取材
田辺 幹夫
ネットワーク報道部記者
田辺 幹夫
平成20年入局
北九州局 科学文化部を経て
現在、ネット関係などを担当