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会社を買おう!事業承継に新潮流

社長が高齢になり、引退したいのに後継ぎがいないーーー
今、事業承継がうまくいかずに廃業を余儀なくされる中小企業が増えています。こうした中で注目されているのが、個人が会社を買収して経営に乗り出す事例。事業承継の問題を解消する新たなうねりとなるのでしょうか。(経済部記者 渡部圭司)

25歳、会社を買う

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溝口勇樹さん、25歳。
2018年8月、脱サラして会社を買いました。
買ったのは、京都市にある創業およそ30年の産業用ロボットの部品メーカー。もともと家族4人で経営し、大手メーカーの下請けとして事業は安定していましたが、70歳をこえた創業者に後継者がおらず、廃業の危機に直面していました。

一方、溝口さんは、日立製作所に2017年に入社したばかり。名の知られた大企業に就職しながら、1年余りで辞めて、中小企業の経営者になる道を選んだのです。

学生時代から起業に関心はありましたが、日立と取引があった町工場が後継者難から廃業する姿をいくつも見たことで、次第に自分が会社を引き継いで経営したいという思いが強くなったと言います。

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「ゼロからの起業だと、人を集めたり取引先を開拓したりする必要があるし、何の実績もない自分に銀行もなかなか融資してくれないでしょう。一方、事業承継であれば、すでに従業員もいるし取引先もある。融資も受けやすいと考えました」

地元を支えたい!地域金融の事情も

会社を買い取るのには多額の資金が必要ですが、溝口さんは、地元の信用金庫から全額、融資を受けられました。

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人口と企業の減少に悩む地域の金融機関にとって、貸出先の確保は大きな課題。信金にとっても、毎年利益を出している優良な貸し出し先を失いたくはなく、後継者の出現は、まさに渡りに船だったのです。

新たな息吹を吹き込め!

社長に就任した溝口さん。さっそく、自分なりの経営改革に乗り出しています。

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まず取りかかったのが、金属加工の技術マニュアルづくり。
これまでは1人の社員の経験に頼っていましたが、今後、事業を拡大して人を増やすには、技術を可視化して伝えていく必要があると考えたからです。

会計ソフトをはじめとするデジタル化にも取り組んでいます。
大企業に勤めた経験が「当たり前の効率化」に生きていると言います。

「改善を進めて、大企業並みの品質管理体制を整えたいと思っています。会社を買って終わりではなく、これからどう成長させるかこそが大切ですから」

増えるマッチングサイト

溝口さんが会社を見つけたのは、会社や事業の「売り手」と「買い手」を結びつける、インターネットの仲介サイトです。

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溝口さんが利用したサイトの場合、「売り手」として登録しているのはおよそ730社。社名は匿名ですが、「モーター製造」「薬局」「居酒屋」など、場所や業種、売上高などが公開されていて、興味を持てば直接連絡を取って交渉する仕組みです。

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事業承継が日本経済の大きな課題になる中、こうしたネットを使った仲介サービスが増えています。
第三者への事業承継では、相談を受けた取引先の銀行や税理士が人づてで買い手を探すといったことが一般的でしたが、ネットで広く募集することで、これまで想定されていなかった「個人」が、有力な買い手として浮上しているのです。

中小企業の再生ファンドを手がけ、個人による事業承継にも詳しい三戸政和さんは、こう話します。

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「長年下請けをしている中小企業は、取引先を増やそうという発想が乏しく、営業担当がいないところも多い。大企業のサラリーマンが身につけたノウハウを会社経営に生かせることはたくさんある」
「ここ数年相次いだ大手電機メーカーの経営危機を見て、サラリーマン生活の将来に期待を持てなくなったことや、人生100年時代を見据えて、長く稼ぐことが求められていることも、会社経営を目指す若者が増えている背景にあるのではないか」

期待と課題

買収そのものが目的化して、その後の明確な目標がなかったため経営に失敗するケースや、前の経営者からの引き継ぎが不十分で、あとで取引先とトラブルになるといったケースもあり、買収による事業承継には課題やリスクがあることも確かです。

ただ、70歳を超えている中小企業の経営者の2人に1人が後継者不足に悩んでいるとも言われるだけに、個人による事業承継を、社会問題を解消する1つの潮流に育てていくことも大事だと思います。

渡部 圭司
経済部記者
渡部 圭司
2002年入局
2014年から4年間
ニューヨークに駐在
現在、金融業界を担当