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日中の立場逆転!? “スピード”の強みとは

アメリカとの貿易摩擦が激しさを増し、景気減速への懸念が強まる中国。その経済の命運を握ると言われる都市が、広東省の「深※セン」です。即断即決が代名詞の中国ビジネスの中でも、特に「スピード」が重視されているといいます。その魅力に吸い寄せられるように、深センで新製品の開発に乗り出す日本の若者も出てきました。日中の立場は、日中平和友好条約が結ばれた40年前から大きく変わりつつあるようです。※「土」偏に「川」(広州支局記者 馬場健夫)

中国のシリコンバレー

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かつて人口3万の漁村だった深セン。トウ※小平の改革開放政策で経済特区に指定されてから急速に発展し、およそ40年で人口1200万の巨大都市になりました。※「登」に「おおざと」

その成長スピードは世界最速とも言われています。成功を求めて全国から若者が集まり、平均年齢は32.5歳。

いまや「中国のシリコンバレー」とも呼ばれ、大手通信機器メーカーの「ファーウェイ」、民生用ドローンの「DJI」など世界的な企業が相次いで誕生しています。

最先端技術に相次ぐ視察

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座るだけで心拍数や血圧を測れる便座に、空気中の水分を集めて水を作り出す装置、そして水中を進むドローン。私が駐在する広東省広州から車で南東に約2時間。高層ビルが建ち並ぶ深センの中心部に設けられた展示場には、ベンチャー企業が開発した新製品が所狭しと置かれていました。

こうした技術開発を促すため、中国政府はベンチャー企業に対してオフィスの家賃を無料にしたり、補助金を出したりするなど手厚い支援を行っています。有望な企業には投資ファンドが殺到し、ばく大な資金が飛び交っています。

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日本から視察に訪れた人たち

急成長する深センへの注目度が高まり、このところ政治家や企業関係者など、日本から視察に訪れる人が急増しています。中には個人参加型のツアーも開催されていて、参加した男性は「イノベーションの源が中国に移りつつあると実感した」と話していました。

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新幹線を視察するトウ小平

深センを作り出したトウ小平が日本を訪問し、新幹線や自動車工場を視察したのは、ちょうど40年前の1978年。いまでは日本の関係者が相次いで深センを訪れる様子に、日本と中国の立場が逆転してしまったようにも感じます。

深センに挑む日本の若者

深センの発展に吸い寄せられるように、現地で新事業に挑む日本の若者が現れています。香港でIT系の会社を営む山本圭介さん(33)は、ことし7月、深センに拠点を設けました。

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右 山本圭介さん

山本さんが開発に取り組んでいるのは、「子どもの見守り端末」です。赤ちゃんの体温や脈拍などを測定し、急な発熱や呼吸不全など体調の異変を発見できる「ウェアラブル端末」と、AI=人工知能を活用して、スマートフォンで撮った写真や幼稚園に設置したカメラの顔の表情から感情を読み取ることができる「ソフトウェア」を組み合わせたサービスです。

強みは圧倒的な「スピード」

深センにはスマートフォンなどの工場が集積し、秋葉原の30倍の大きさの電気街もあるなど、ハードウエアを作るためのサプライチェーンが整っています。試作品を作ろうとすると、日本では半年ほどかかるのに対して、深センでは数週間で完成するほか、コストも数分の1ほどに抑えられるといいます。

すでに3代目の試作品を作った山本さんは、年明けには商品化し、種類も増やして、2020年までに日本やアメリカ、中国で100万台の販売を目指しています。

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「深センの魅力は、圧倒的なスピードに尽きる。製品を開発するのであれば、この街よりよい場所はほかにない」(山本圭介さん)

まずはやってみる、という速さ重視の「深センスピード」が、急成長を生み出してきた原動力だと実感しました。

深センの成長を取り込め

急成長する深センの勢いをどう活用すればいいのか。山本さんのように現地で起業する動きはまだ少数ですが、増えつつあります。

JETRO=日本貿易振興機構は去年から、日本の中小企業のビジネスパートナーを探す試みを開始。企業が深センで投資家や企業向けに事業内容を発表し、技術提携や資金調達を目指しています。

また、9月には日立製作所が、深センに本社がある大手IT企業「テンセント」と、あらゆるモノをインターネットにつなぐ「IoT」の分野で業務提携したことを明らかにするなど、大手も中小も積極的に動き出しています。

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10月の日中首脳会談では、イノベーションの分野で両国が協力していく方針が打ち出されました。知的財産権の保護などの課題に対応しながら、自動車や工作機械、ロボット、高齢者のヘルスケアなど、日本が得意な分野から、将来有望なビジネスを見つけることが期待されています。

そのためにも、日本の技術力と中国のスピードという、互いの強みをどう融合させるかが成功の鍵を握っていると感じます。

馬場 健夫
広州支局記者
馬場 健夫
平成19年入局
秋田局、名古屋局をへて国際部
現在は広州駐在