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元大リーガー斎藤隆が語るメジャー流ビジネス、そして危機感

「プロ野球球団を持ちたい」

7月、衣料品通販サイト「ZOZOTOWN」の運営会社の前澤友作社長のツイートが大きな反響を呼びました。急成長を成し遂げた起業家が関心を寄せる理由はプロ野球ビジネスの魅力なのでしょうか。

しかし、実は日本のプロ野球は市場規模でアメリカ・大リーグとの差が広がり続けているのが実情です。20年余り前までは大きく変わらなかったのが今やその差は3倍以上です。

それでは日米の差はどこから生まれたのか。
現役時代は日本とアメリカで海をまたいで活躍し引退後は球団スタッフとして異色のキャリアを歩む元大リーガー・斎藤隆さんに聞きました。(ネットワーク報道部記者 伊賀亮人)
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斎藤さんは、横浜ベイスターズ(当時)のエースとして活躍後、36歳で大リーグに移籍するとドジャースのクローザーを務めるなど日米の野球界を湧かしてきました。

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そして3年前に引退したあと、第二の人生に選んだのが大リーグのパドレスにインターンとして留学し編成や球団経営を学ぶという異例のキャリアパスでした。その斎藤さんは今、パドレスの球団本部・環太平洋顧問を務めています。

規模の違う経営

日米の違いを感じた点は?

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ーーー球場を訪れると球団のベースボールオフィスサイド(チーム運営)とビジネスオフィスサイド(経営)が明確に分かれていて、ベースボールサイドはスタッフがせいぜい常時15人くらいしかいないけど、ビジネスサイドには200人くらいいるんです。

これが最初に行って、いちばん驚いたことですね。日本の球団の事務所には何度も行ったことはあるけど規模が違うので驚きましたね。

球場は野球を見に行くところじゃない?

日本でも今、球場を「改革する」ことで生まれ変わろうという流れが出ています。その先駆けとして「稼ぐ」球団となった広島カープは大リーグ式の経営を参考にしています。球場はスポーツビジネスでなぜ大事なんですか?

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ーーースポーツで収入というのは球場の中から生んでいかないといけないと思います。今人気が出ているeスポーツとかに唯一ないものは、人間が人間を見て感じる感動だと思うんですよね。このライブ感というものが重要で経営者としてはよくそれを知らないといけないと思うんです。カープの人たちはよくそれを理解しているんだと思います。

日米の球場では何が違うのか?

ーーーアメリカでは半分くらいは試合を見ていない人がいると言われます。例えば企業はお得意さんが好きなチームの球場のVIPルームを借りてミーティングをして、契約後はパーティーをするとか、球場の使い方が違います。

それに野球を見るために行くっていう感覚ではないんですよね。時間を持て余した時に家族で行けるところとしてレストランと同じ感覚で行くんですよ。

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例えばマイナーリーグの球団ではイニング間の催しもので子どもたちを球場の中に入れて走らせるようなイベントを独自にやっている。そうすると家族で行って、子どもたちは野球に興味が無くてもイベントがあるとグラウンドに出たり外野にある滑り台で遊んだりして、お父さん、お母さんはビールを飲みながらホットドッグを食べてという構図があります。

それに対して、やっぱりまだまだ日本の野球ってかたいなと思いますね。

球団経営はプロじゃなかった

スポーツビジネスについて取材を進めると、関係者からは日本のスポーツは教育だという点がビジネスとしての発展を妨げているという指摘されます。
この点、日米ではどういう違いがあるのでしょうか?

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ーーーアメリカの学生スポーツの試合を見に行くと、必ずファンというか一般の人が見られるゾーンを大学も高校も持っています。日本で観客席がある高校の体育館はないですよね。やっぱり教育で見せるものではないという閉じられた感覚があるんですけど、アメリカの場合、スポーツはやる人もいるし、見る人もいる、どの立場からもしっかり成り立っているという違いは大きいです

それにアメリカの高校や大学の試合では飲み物とか食べ物とかTシャツとかグッズを売って、それを部費にしてとさまざまやっている。あれも教育の一環だと思うんです。でも日本ではそれをよしとしない風潮がありますよね。

なぜ、日本ではスポーツがビジネスとして語られてこなかったのですか?

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ーーーなぜこういう形になったんだろうという疑問を感じました。そこで僕が出した答えは親会社との関係です。球団幹部は親会社から数年の期限で出向している場合も多いし赤字でも親会社が補填(ほてん)します。言ってみれば球団の中にはいまだに社会人チームと何らシステムが変わらないところがあったんです。つまり球団の経営としてはプロじゃなかったんです

メジャーに飲み込まれる危機感

斎藤さんは今、人口減少や少子高齢化の中、野球の競技人口が全国の中学校の軟式野球部の部員数がこの15年でおよそ半数に落ち込むなど減少していることや、市場規模が全世界で1000億円に上ると推測されて成長が続く「eスポーツ」などとの競争に危機感を募らせています。

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ーーー今はプロ野球もチケットが手に入らないくらいの人気があるんですけど、今後の懸念として人口が減少する中でどの層をどれくらい球場に引き込むと球団として採算が取れるのかということがあります。人口が減っている部分を埋めるには、日本以外の野球熱をあげないといけない。そう考えるとアジア、特に中国の人たちに野球を理解してもらいプレーしてもらう環境をつくれるかどうかです。中国人の1割でも日本の人口ですから。そうしないと20年たたないうちにメジャーリーグに飲み込まれて、まるでマイナー組織みたいな扱いになる可能性もゼロではないと思います。

大リーグがさらに規模を拡大しようとすると、アジアのマーケットしか狙うところはないので。

日本としてはアジアでリーグをつくって、台湾や韓国と試合を1か月間組んで、アジアというのを一つにしていくのが、この数年後、10年前後くらいには必要になってくるだろうと思います。

競技人口も減少する中で危機感は強い?

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ーーーあります。オリンピックが終わっても野球はたぶん4、5年は大丈夫でしょう。でも早ければ6、7年後がどうなっているか誰もわからないくらい不安定な時間にさしかかる可能性がありますよね。

ZOZOの社長が球団経営に意欲を示したという話がありましたけど、日本で球団を持って宣伝したいと思ってくれるような会社ってこれから減ると思うんですよ。パイが減っていくので世界を見据えないといけないけど、そうするとプロ野球で宣伝するよりもeスポーツのようなものに投資したほうが見てくれる人の数が明らかに違うので、これは野球界の衰退につながると思うんです

これからはスポーツだけでは成立しないと思うので医療や自治体とのコラボレーションが重要だと思います。

例えばロッククライミングなんかは、特別にいい地域が日本のどこかにあるはずで、地の利を生かして、ここはこのスポーツに最適というものを明確にしていくと、日本のスポーツはもっともっとビジネスとして、消滅の可能性があると言われるような街を成長させるくらいの可能性も秘めていると思います。

伊賀 亮人
ネットワーク報道部記者
伊賀 亮人
平成18年入局
仙台局 沖縄局を経て
経済部で経済産業省などを取材