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“愛と欲望”のステーキ~ボクらの胃袋を満たすのは…~

「アメリカのステーキハウス『ピーター・ルーガー』は、初めての海外店を、2020年までに日本に出すことを決めました」-。というプレスリリースを受け取ったのは、ことしの7月17日。その時、筆者はニューヨークに赴任してまだ20日ほどだったが、3年前に見た映画『Steak (R) evolution』で、その存在は知っていたし(なので、ニューヨークに行ったら、ぜひ食べてみたいとも思っていたし)、いち早く、日本に進出していた『ウルフギャング』も、行ったことがあった。がぜん、取材してみたくなった。(アメリカ総局記者 野口修司)

老舗ステーキハウスに行ってみた

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『ピーター・ルーガー』は1887年創業というアメリカンステーキハウスの老舗だ。『Keens Steakhouse』と合わせて「2大クラシックステーキハウス」とも呼ばれる。

すでに日本に進出している『ウルフギャング』や『ベンジャミン』は、ピーター・ルーガーで働いていた人たちが始めたので、ピーター・ルーガーは、言ってみれば、“源流”。「最後の大物」と呼ぶのにふさわしい。

熟成肉(“ドライエイジドビーフ”)の日本での人気は、ウルフギャングなどの盛況で実証済みだ。さっそく、ブルックリンにある1号店に取材を申し込んだ。

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出迎えてくれたのは、副社長のダニエル=ターテル氏(以下、ダン)。27歳! ピーター・ルーガーは、最初のオーナーが手放したあと、1950年から新しいオーナーの下、「家族経営」でここまで来ている。ディナーの予約は電話のみで、1か月以上待ち。基本は現金払いだ(最近、デビットカードは受け付けるようになった)。

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「肉の選定は、家族で責任を持ってやっているんだよ」と説明してくれたダン。地下の貯蔵庫に(カメラはNGだったが)連れて行ってもらう。「熟成期間や湿度、温度…」すべて、企業秘密だと笑顔で答えてくれた。貯蔵庫に入った時の、全身を包むような、こうばしい「香り(におい)」は、一生の思い出になりそうだった。

ピーター・ルーガーが提供する肉は、USDA(米農務省)選定のプライムビーフのうち、「わずか2%の最上級のものから、さらに厳選する」(ダン談)という超希少肉だ。

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筆者は、今回、かなり勉強させられることが多かったが、代名詞とも言われる人気の「Tボーンステーキ」は、実は「ポーターハウス」と呼ばれるワンランク上のものだ。「部位はTボーンより少し腰の方寄り」「フィレの割合」「一定の厚さ(1.25インチ=3.2センチ)以上」など、厳格な区切りがあるそうだ。

薄切りだったり、「口の中で溶ける」ような日本の牛肉とは、まったく違う。目を見張る厚さだったし、オーブンのみで調理したそれは、外側は独特の焦げ目とカリカリ感、中はジューシー…。

ちなみに、調理は、こんな感じだ。使うのは、鉄板ではなく、800度(カ氏=摂氏420度余り)の熱さのオーブン。まず、塩をふって約5分。そのあと、バターをひいた皿に乗せ、(「ミディアムレアー」でお願いしたので)皿ごと、さらに5分…。ちなみに、このバターは、通称「ビタミン」とも呼ばれるというのは、敬愛するステーキ好きの先輩記者から教えてもらった。

そのままの「体験」と「味」を日本に

一つ疑問がわいたのだが、日本人のおなかにこのサイズはどうなのか-。「Steak for Two」(2人前)のポーターハウスは、40oz(骨を含むと1100グラム超!)。少々(かなり)、大きいのである。

先日も、別のステーキハウスに行く機会があったが、具の入ったスープをいただき、パンをかじり、サラダを口にしてしまうと、ワインなども手伝って、それなりにおなかがいっぱいに…。このあとに、メインが来ると思うと、完食できるか不安になった。

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そんな質問(「日本人には少々多いが、何か考えているのか?」)をしてみたが、ダンはこれまた笑顔とともに、「別に。手は加えないさ。肉そのものがすべてを語るのさ」。

ブルックリンの店で提供するステーキの味と、「雰囲気そのもの」を楽しんでもらう。それが彼らが日本に進出しても成功するという自信の裏付けなのだ。

果敢な挑戦者を見つけた

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そのステーキ激戦区のニューヨークで、新たな市場を切り開いていこうという日本のステーキチェーンがある。『いきなり!ステーキ』だ。そう、客が自分で申告し、「その場で量り売り」するチェーン店。去年2月にニューヨークに初出店し、年内に11店を構える計画だ。

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当初、日本と同じ「立ち食い」で話題をさらったが、不評と知ると、あっさりイスを設置。デザートのアイスや日本酒を用意するなど、“変幻自在に”改良を加えている。「一緒に来た友だちの顔を見ながら、話だってしたいわ」と聞くと、これもおなじみの、調味料などが置かれた「仕切り(ついたて)」も、すべて取っ払うことにしたという。

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一方で、市場開拓に自信も見せる。創業者である(どの店に行ってもポスターが貼ってある方です)一瀬邦夫さんは、こう言う。「いきなり、ステーキを食べて、さっと帰って行く。そういうニーズもあると思うんですよ。忙しい方も多いし、ニューヨーカーも日本人も、世界の先進国と言われているところ、みんな、時間がないじゃないですか。だから、そういうニーズもあると思うんですよ、間違いなく」。

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現時点ではニューヨークでも絶好調という訳ではないようだが、ステーキを食べまくってきたアメリカの人への果敢な挑戦である。使う肉は、アンガス牛。元をたどれば、ピーター・ルーガーと同じとも言える。近く、これと日本の和牛のDNAを持った牛をかけ合わせたより和牛的な肉も展開するという。

一瀬さん曰く、「ステーキの方が、ピザより、よっぽど健康にいい(笑)。消化もいいし。だから、それをランチにも食べる。高くないから、週に何度も行ける」。

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ナスダック上場も武器に。10日、上場を記念するイベントがタイムズスクエアで開かれた

運営会社は、先月、ニューヨーク新興市場のナスダックに上場した。日本の外食産業としては初めてだという。上場の「知名度」も武器に、来年にはニューヨーク以外にも打って出る計画だ。

私たちの胃袋を満たすのは…

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話をピーター・ルーガーに戻す。訪れたランチの時は、日本だけでなく、中国、韓国、フィリピン、それにタイと、アジア圏の人たちが目立った。彼らなら、日本に店があれば、さらに来る頻度が高くなるという見立ても、日本進出を決めた理由の一つだろう。

すでに日本に出店し、店舗を増やしているウルフギャングのメニューをググってみた。「white rice」くらいしか、新しいものは見つけられない。ピーター・ルーガーで「ごはん」が食べられるようになるかはわからないが、「そのままの体験と味」こそが大切なのだ。そんなことを考えていると、あの味に加え、オーブンで一緒に焼かれた皿の熱さや肉の香り、それに、“ジュワ~”という音がよみがえってくる。

「美食の街・東京に店を出せるのを本当に楽しみにしているんだ」(ダン談)

実は、映画『Steak (R) evolution』では、ピーター・ルーガーは、「最もおいしいステーキ」には選ばれていない。それは意外なところのものだった。いきなり!ステーキもそうだが、牛肉(ビーフ)をめぐっても、食べる人の好みの「多様化」がどんどん進んでいることを、今回の取材でも改めて感じた。もちろん、筆者は、どちらのビーフも好きである。

野口 修司
アメリカ総局記者
野口 修司
1992年(平成4年)入局。
政治部、経済部などを経験。
リーマンショック時は、ロンドン特派員。この夏より、アメリカ総局(ニューヨーク)特派員。