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「DAZN」担当者が語る課題と可能性(詳細)

海外の成長に取り残され縮小する日本のスポーツ産業。そこに“黒船”として進出してきた「DAZN」の担当者に日本市場での今後の戦略を聞きました。

インタビュー全文

Q: なぜJリーグを選んだのか?

A:DAZNのサービスを立ち上げた時にリサーチの結果、ポテンシャルがあるのに伸びていないという国の中に日本があった。それとJリーグは発足から25年なのにいまいち盛り上がっていないよねと。自分たちがうまくてこ入れすればJリーグというコンテンツがより魅力的に輝くのではないかということもあった。それに他の国はテレビ局の力が強いので新参者の私たちがいわゆるメインストリームのキーコンテンツがなかなか手に入らなかったりする中でフットボール(サッカー)が独占配信できるとなったことが大きい。

Q:日本のポテンシャルはどういう部分にあると見ているのか?

A:オリンピックやサッカーワールドカップで日本代表が活躍するときの国民的な熱量はほかの国と比べても非常に高い。だけどプロフェッショナルスポーツの盛り上がりとなるとそうでもなかったりする。そこがなぜなのか、今までのスポーツ業界をマネージしていた人たちの考え方というか、スポーツをビジネスとしてとらえていないというところがあったのではないかという感覚がある。そして日本のいちばんの課題は若年層がプロスポーツを応援していないことだと思う。

Q:若年層をどうつかまえるのか?

A:若年層に一番近いデバイスはやはりスマホ。スマホがなくなるとあたふたするのに家にテレビはない。あるいは引っ越すときにテレビを買わない。テレビがない生活って普通だけどスマホがない生活は考えられない。常に身近にあるデバイスでライブで発信するというのは若年層を取り込むツールだと考えている。

Q:ネットでの動画配信は従来のテレビ中継とは全く違う。

A:私ももともとは放送業界にいたが、いわゆるマス4媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)の中でテレビだけ大きな違いがあってこれだけ持ち運べない。結局テレビというデバイスで見ないといけないから、視聴者側がライフスタイルを合わせないといけないというのがすごく矛盾していると、こんなにすてきなモーメントを伝えるのにファンの気持ちになれてないなというのがいちばん大きな疑問だった。それを大きく変えられるのが私たちみたいなサービスだと。いろんなファンのライフスタイルに合わせて、ライブのスポーツのモーメントを提供できるというのがいちばん自分たちにとっては大事だと思っている。

Q:なぜJリーグと中継だけにとどまらない関係を結んでいるのか?

A:DAZNは例えばドイツでもJリーグの配信をしているが、もっとグローバルコンテンツとしていきたいとも考えている。もっと魅力あるリーグ、コンテンツになると自分たちは考えている。

Q:もっと成長できるはずだと思っていると?

A:思っている。まだファンの拡大がうまく進んでいないので。これまでJリーグのクラブがいちばん大事にしてきたのは平均入場者数だったがそれを守るイコールリピート率を上げることをずっとしてきた。それは理解しているが、同時にライトファンを増やさないとファンベース自体が広がらない。例えばファンベースが5万人だとすると、4万人が毎試合来ていれば売り上げはキープできるがファンは拡大しない。4万人が高齢になっていなくなったらゼロになってしまう。ファンをキープしつつ若年層を広げていくという2つの柱をやらないといけないですよって言っている。自分たちのビジネスにとっても、エンゲージメントの高いファンは大切なんだけど、毎日DAZNを見ても会員料金は1750円。でも1か月に3回見る人を10人増やせば1万7500円になるわけなので、ライトファンというのはとても大切。

Q:金曜夜の開催は土日よりも入場者数が少なくなる可能性があるが?

A:売り上げが下がることをクラブが懸念していることは理解している。ただ、例えば土日の入場者数3万人から金曜日だと2万5000人になりましたというと、究極のことを言ってしまうと、シーズンパスを買っている人が5000人来なかったと考えるとクラブにとってデメリットなくないですかって。だってもうシーズンパスを買っているんだから。逆に言うと新しいお客さんが、10%でも20%でも定期的にスタジアムに来てくれるようになったら、シーズンパスを持っていて来なかった5000人を後悔するよりいいんじゃないか。

Q:これまではそういう発想がなかったのか。

A:単純に売り上げ減るじゃん、みたいな発想だったのでは。入場者数も一つの指標なのでその数字が落ちているのは厳しいのかなと思うけど、ただ中身をちゃんと話をさせていただくと各クラブの方には理解してもらえる。

Q:海外の手法を取り入れることでこそ物事は変わる?

A:自分たちが本当に言えるのは「ファン・ファースト」だということ。例えばプロ野球はテレビだけで見ていたら1回から最終回まで見られないことがある。時間で切っちゃう。発信側の都合でコンテンツをこういう風にしてしまうのってファンのことを全く考えていない、自分たちの利益だけを考えている行動なのかなと思う。メディア業界をディスラプト(創造的破壊)したのはデジタル技術の発展だと思うが今度はこのデジタルを生かしてスポーツ業界をディスラプトしたい。ネットの発展で消費者のライフスタイルは大きく変わったと思うがそれは明らかにネガティブじゃないと思っているので今度は技術革新をスポーツコンテンツに持っていきたい。

Q:今後の課題は?

A:一つは魅力的なコンテンツを増やしていくこと。最終ゴールはDAZNにいけば何でも見られるということにしたい。「スポーツ好きでDAZNに入ってないとおかしくない?」っていうくらい。「ホーム・オブ・スポーツ(スポーツの新しい本拠地)」というのが柱としてあって、いわゆる自分たちがフットボールの本拠地であると、こういうカテゴリをどう増やしていくか。2018年後半も「これを今度DAZNはしかけてきたんだ!」と思うようなことを見せていきたい。

平田正俊さん
「DAZN」(日本) コマーシャルパートナーシップ本部長
広告代理店/外資系テレビメディアを経験し、2017年から「Perform Investment Japan」に入社。マーケティング部門で「DAZN」(日本)を担当。Jリーグとのパートナーシップを統括する。

伊賀 亮人
ネットワーク報道部記者
伊賀 亮人
平成18年入局
仙台局 沖縄局を経て
経済部で経済産業省などを取材
佐藤 滋
スポーツニュース部記者
佐藤 滋
平成15年入局
スポーツニュース部でオリンピックやアジア大会の取材などを担当