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中国のエリート大学生 なぜ日本の専門学校に!?

猛暑が続いたことしの夏、東京・新宿区にある専門学校で熱心にゲーム開発を学んでいたのは、中国の理系大学のトップ、清華大学のエリート大学生たちでした。QRコードを使った決済やシェアサイクルなど、日本を追い越さんばかりにIT分野で驚異的な成長を続ける中国からの留学生が日本の専門学校で学ぶ姿は、意外な光景でした。世界のおよそ3分の1を占める巨大マーケットとなった中国のゲーム市場。その中国のエリートたちがなぜ日本の専門学校で学ぶのか、取材しました。(国際部記者 高島浩)

急成長の中国ゲーム市場

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中国では、2013年から高速のデータ通信を可能にする通信システムが普及したことを背景に、スマートフォンやパソコンを使ったオンラインゲームが急速に拡大してきました。

去年の時点でゲーム利用者数は5億8000万人余りに達し、売上高はおよそ3兆4000億円と世界市場のおよそ3分の1を占める巨大マーケットに成長。中国のゲームメーカーも台頭して、世界で2億人以上が遊ぶ大ヒットゲームが生まれるなど、海外展開も加速しています。

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ゲームで遊ぶ若者(中国・天津)

さらに好調な業績を背景に、ゲームの制作に携わる人たちの収入も急上昇。中国の調査機関によりますと、ゲーム業界の平均月収は1万人民元(日本円で約16万円)を超え、給与水準が高いとされる情報通信関連の業界の中でもトップクラスとなっています。

エリート大学生が目指す日本の専門学校

そんな高い将来性に期待して、いま中国でゲームクリエーターを目指す若い世代が急増し、日本を留学先に選んでいます。

実は、世界的に有名な日本のゲームメーカーと同じくらい人気があるのが、ゲームづくりを学べる日本の専門学校。ことし8月、私が取材した東京にある専門学校には、ちょうど中国の理系大学のトップ、清華大学の大学生15人が短期留学に訪れていました。

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この清華大学、世界的にも名門大学として知られています。国際的な調査機関がことし6月に発表した最新の「世界の大学ランキング」で、清華大学は17位と中国で最高順位、日本でトップだった東京大学の23位よりも上位にランクインしました。

中国のエリートと呼ばれる大学生たちが、日本の専門学校に学びに来る理由は何なのでしょうか。その1つとして大学生たちが話してくれたのは、「中国にはゲーム開発の専門的な知識を学べる場がほとんどない」ということでした。総合大学の中で就職に有利な学問を学べても、興味がある分野を深く掘り下げることができないため、大学生たちはサークル活動を通じて独学でゲーム開発に取り組んでいるということです。

ゼロからゲームをつくる技術

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呂松沢さん

そんな大学生の1人、呂松沢さん(19)が習得を目指しているのは、日本が培ってきた「ゼロからゲームをつくる技術」です。

日本のゲーム業界は、およそ40年前の家庭用ゲーム機に始まり、各メーカーが激しい開発競争を繰り広げた結果、ゲーム機とゲームソフト、両方で、それぞれが独自の開発技術を蓄えてきました。

一方で、ゲームの歴史が浅い中国では、欧米のメーカーが開発した「ゲームエンジン」と呼ばれるソフトウエアを使ったゲームづくりが主流です。例えば、格闘技の対戦型ゲームをつくるときに、あらかじめ開発されている「ゲームエンジン」をゲームの土台として活用すれば、より短い時間で効率的に新しいゲームをつくり出すことが可能になります。こうした手法は、大手メーカーだけでなく、中小メーカーもゲーム開発に参入しやすいようにするメリットがある一方で、どれも似たようなゲームになってしまい、独創性に欠けるという短所も指摘されています。

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このため、呂さんは日本のゲーム会社でプログラマーとして活躍していた講師から、既存の「ゲームエンジン」を使わずにオリジナルのゲームを開発するノウハウを学び取ろうとしていたのです。

呂さんは留学期間の最後には2日間でゼロから新しいゲームを完成させ、理解のスピードが速いと日本人の学生たちを驚かせていました。

呂さんは「日本のゲームの技術や伝統は本当にすばらしい。ゲームを開発する全体の流れを学べたし、具体的な制作の過程も知ることができてよかった」と話していました。

日本メーカーの熱い視線

取材した専門学校では、ゲーム関連の学科で多くの外国人留学生を受け入れていて、中国からは300人余りが学んでいるということです。こうした人材に対して、中国市場への参入を目指す日本のゲームメーカーも熱い視線を送っていて、今回の短期留学の間も、企業の担当者が視察に訪れていました。

日本企業の担当者は、「優秀な中国の人材をめぐっては、すでに獲得競争が激しくなっている。巨大な中国市場に参入するには、現地の状況やゲームユーザーの特性を理解したうえで、言語や文化の違いを乗り越え、橋渡しとなる人材が欠かせない」と話していました。

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専門学校によりますと、日本企業から「中国からの留学生を採用したいがよい人材はいないか」といった要望が数多く寄せられていると言うことです。こうした日本企業に対して、取材した清華大学の学生たちからは、「すばらしい技術を持っている」とか「日本のゲーム文化が色濃く反映され、ゲームの世界観に独自性がある」などと高い評価が示された一方で、「国際的な競争力が足りない」とか「日本企業で働くことを考えると言語面で不安が残る」といった意見も聞かれました。

世界のゲーム市場では、インターネットを使ったオンラインゲームが主役になっていて、家庭用ゲーム機を中心に開発が進んできた日本は立ち遅れも指摘されています。中国メーカーが急速に力をつけるなか、日本のゲームメーカーが世界市場で影響力を維持するためには、中国の優秀な人材の確保が重要な意味合いを持つのではないかと感じました。

高島 浩
国際部記者
高島 浩
平成24年入局
新潟局を経て現在国際部