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危機はまた来る?当事者からの警告

2018年9月のニューヨーク。秋を感じるさわやかな風が吹くかと思いきや真夏のような蒸し暑さがぶり返したりします。マンハッタンの大通り・5番街は大きな買い物袋を抱えた購買意欲旺盛な客たちでにぎわい、アメリカ経済が好調であることを肌で感じます。しかし、ちょうど10年前、ここで歴史的な金融危機リーマン・ショックが起きたことをどれだけの人が認識しているでしょうか。私は当時、ニューヨーク駐在の記者として危機を目の当たりにしました。10年たった現地を取材で訪れ、渦中にいた人物に話を聞いてきました。(おはよう日本 おはBizキャスター 豊永博隆)

リーマンショックとは?

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2008年9月15日(月)午前1時すぎ(米東部時間)、大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻しました。

私は経済担当の記者としてニューヨークに駐在し、不安定さが高まる金融市場の動きを連日取材していました。

リーマンは信用不安が高まるなか、資金が流出しており、単独での生き残りはもはやできない。ただ、大手銀行バンク・オブ・アメリカか、イギリスの金融大手バークレイズか、どちらかが買収するのではという見方が流れていました。

週末にさしかかり、土曜日に大手メディアが「リーマン、バンク・オブ・アメリカが買収か」というニュースが流れ、私は最悪の事態は回避されるのではないかという、ほのかな期待を抱いていました。

9月14日(日)、確か昼前後だったと思います。

ISDA・国際スワップ・デリバティブ協会という団体がリーマンの破綻に備えているという速報を通信社が流し、私はがく然としました。

この団体はCDSという、企業などの破綻リスクに備える金融商品の仕組みを取り決める団体で、そこが破綻に備えているというのは、いよいよ経営破綻が現実のものになることを意味するからです。

経済は活況 死角はないのか

10年がたち、今、アメリカ経済は絶好調です。

ニューヨークを取材で訪れたところ、建設中のビルがあちこちで見られました。

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消費も堅調で、高級ブランド品の売り上げも伸びているとのこと。

夕方になるとタクシーはなかなかつかまらず、人々の活動が活発なことがうかがえます。

社債をめぐる危うさ

一方、いまウォール街でささやかれている隠れたリスクも見え隠れします。

それは社債をめぐる問題です。社債とは会社が発行する債券。

リーマンショックから脱するために行われた大規模な金融緩和策のおかげで、企業は今も比較的低い金利で債券を発行し、投資家に買ってもらえます。

リーマンショックによってお金を簡単に調達できる環境が続いているということです。

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ところが、社債市場のなかには、本来は業績がよくないのに低い金利でお金を調達できてしまい、まるで信用力があるかのようなふりをしている会社の社債も普通に取引されているといいます。

こうした社債は、金融商品にも組み込まれて幅広く取り引きされています。

債券分析のベテランは語ります。

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アナリスト マーティン・フリッドソン氏

「多くの企業が社債を発行して借金の比率が歴史的水準になってしまっている。金利が低いから負担が増えていないだけだ。身の丈を超えた調達をやっている会社が多いことはリスクだ」

何らかのショックが加わり、社債の価値が下がったら、金融市場にどんな影響が及ぶのか?かつてのサブプライムローンのときとどこか似たような構図が気がかりです。

危機対応の当事者からの警告

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ガイトナー元財務長官

私はリーマンショックの教訓と課題は何なのかを知りたく、当時、危機対応の最前線にいたガイトナー元財務長官に話を聞きに行きました。

現在、ウォーバーグ・ピンカスという投資会社の社長を務めています。

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ガイトナー氏(2008年)

ガイトナー氏はリーマンショックのとき、ニューヨーク連銀の総裁。金融システムを監督する立場で、ポールソン財務長官らとリーマンを他の金融機関に救済してもらう交渉を進めていた当事者に当時のことを尋ねました。

「関係者は重責と、足元で制度が腐食しているのではないかという恐怖を感じていた。いちばん危険だったのはリーマン破綻の直前の夏から2009年初頭までの半年間だった。永遠のように感じたが、振り返ってみればあっという間だった」(ガイトナー氏)

今、ガイトナー氏が課題だと考えているのが、FRB=連邦準備制度理事会が危機に陥った金融機関に緊急でお金を貸す仕組みが制限されていることです。

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この仕組みは危機当時、保険大手AIGや投資銀行ベアー・スターンズの破綻回避のためにたびたび使われました。

しかし、金融機関の安易な救済はすべきでないという世論の反発を受けて法律改正が行われ、FRBは迅速に金融機関にお金を貸すことが難しくなってしまったのです。

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「次に金融危機が起きたときはFRBはまず議会に行って権限をもらえるようお願いしなければならない。金融危機は急に起きるため、国の対策が遅れてしまう危険性がある」

アメリカでは、政府当局が民間ビジネスに介入することに日本では考えられないぐらいの強い反発があります。

経営を間違えた金融機関をなぜ税金を使って救済するのかという批判がことのほか強く、これがFRBの行動を制約する法改正につながったのです。

危機の経験を風化させないように

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ニューヨークから車で2時間余り。コネティカット州にあるイェール大学。

ここでガイトナー氏はみずからの体験を教えています。

金融危機とは一体どのようなものなのか、危機にどう対処すればいいのかを教えているのです。

ガイトナー氏は金融危機の体験を引き継ぐ重要性を次のように話しています。

「深刻な金融危機というのは同じ国では相当長い時間がたってから発生する。だからその国では知識が時間とともに失われ、記憶も薄れてしまうのだ。どうやっていい政策を選ぶか、何が効果的で何が効果がないのか、知識のギャップを埋めて、危機を通じて経験したことの記憶をいかして次の世代に引き継ぐ取り組みなのだ」

金融危機はいつかまた起きる

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今回、リーマンショック10年の取材を通じて、私は危機の渦中にいた複数の人たちから「金融危機はまた起きる」「2つとして同じ危機はない」と聞かされました。

その備えはどうしたらいいのか。

政府や金融当局、そして金融機関自身がしっかり対応すべきだというのは当然であり、言うのは簡単です。

私たち自身でできることは、こうした危機が起きたことを知り、知識を深める。

そのことが間接的に当事者たちへの監視の目となり、危機を未然に防ぐ原動力になるのではないでしょうか。

豊永 博隆
おはよう日本 おはBizキャスター
豊永 博隆
平成7年入局
函館局 サハリン駐在をへて経済部
金融・通商・エネルギー取材を長く担当
現在は経済部デスクを兼任