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レトルトカレーの50年 誕生秘話と「これから」

銀色の袋に包まれた近未来的な姿。お湯で温めて封を切れば、香ってくるのは、思わずおなかが鳴ってしまうカレーの匂い…。そんな少年時代の思いも頭の中を駆けめぐる「レトルトカレー」は、ことし、誕生から50年を迎えました。

四国・徳島から世界初の技術として生み出されたレトルト食品は、今、新たな進化もとげています。みんな知ってる、でも意外と知らないこともある、レトルト食品の50年と「これから」の物語を、召し上がれ。
(徳島放送局アナウンサー 佐々木智一)

世界初のレトルト食品は徳島から

レトルト食品が、日本発の技術だってご存じでしたか?私は徳島放送局に赴任したことがきっかけで取材をするようになり、初めて知りました。

世界初のレトルト食品は、今から50年前に、徳島県の工場から生まれていたのです。そのレトルト食品とは、女優の松山容子さんのCMや、街のあちらこちらに置かれていたホーロー看板で有名な、あの「ボンカレー」です。

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レトルト食品の研究開発は、もともとアメリカで軍用食や宇宙食として1950年ごろから始まっていました。欧米でも技術的に成果が出始めていたと言われていますが、1968年(昭和43年)に、徳島に工場がある大塚食品工業(現在の大塚食品)がいち早く、「ボンカレー」を世界初の家庭用レトルト食品として発売したのです。

今は銀色のレトルトパウチは当時は透明で、阪神地区限定で販売されました。その後、発売から5年目には1億食を突破し、長期保存ができておいしいカレーとして一躍、国民食とまで呼ばれるようになりました。

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レトルト食品は意外な技術から誕生

そもそもレトルト食品は、容器にカレーなどの食べ物を詰めて完全に密封し、レトルト釜と呼ばれる装置に入れて作ります。釜のなかで高温で加熱殺菌され、常温で長期保存可能なレトルト食品が誕生するのです。

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昭和40年代に使われていた点滴の瓶(NHK保管の資料映像より)

この技術を可能にした「ボンカレー」開発の秘密は、実は医療用の点滴薬にありました。点滴薬はヒトの体内に菌が入るのを防ぐため、高温処理で殺菌する技術が使われています。当時の大塚食品工業は、グループ会社が持っていたこの殺菌技術をカレーの製造に応用しました。

発売当初の賞味期限は冬場で3か月、夏場で2か月ほど。それでも画期的な食品として消費者には驚きをもって迎えられました。

当時のエピソードを、現在の開発担当者はこう話しています。

「当初はあまりに技術が画期的すぎて、防腐剤が入っているんじゃないかとか体によくないんじゃないかと信じてもらえず、全く売れなかったそうです。そこで、お店の方にどういった商品かということを知ってもらいたいという思いから、営業担当者が朝早く市場に行って、湯せんで温めて試食会を開催しました。簡単に誰でもおいしく食べられることをPRしてまわったんです」(大塚食品製品部 中島千旭さん)

大塚食品の徳島工場では、今も毎日、ボンカレーが作られています。取材で訪れた私が一歩足を踏み入れると、カレーのよい香りが漂っていました。

この工場では1日20万食を生産しています。創業以来、「お母さんが作った、カレーの味」を大切にし続けているボンカレー。中島さんは「すべてを機械化するのではなく、じゃがいもの芽とりや肉の味付けなど、さまざまな工程で人の手が入ることを大切にしています」と話していました。

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拡大するレトルト食品市場

レトルトカレーには、その後、多くのメーカーが参入。共働きや単身世帯が増えていることもあって、今も売り上げを伸ばしています。

市場調査会社のインテージの調べによると、レトルトカレーの去年(2017年)の売り上げ額は461億円。初めて固形のカレールウの売り上げ456億円を上回りました。

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拡大し続けているレトルト市場。私は、東京・自由が丘にあるレトルト食品の専門店を取材しました。驚いたのは、この店のラインナップ。カレーだけで60種類が並んでいます。

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カレーのほかにも、世界各国のスープや、パンケーキ用のソースなども並んでいて、店で扱うレトルト食品はおよそ100種類。さながら、「ここはレトルト食品の宝石箱や~」(失礼しました)

気になる値段は、1袋500円ほどのものが目立ちます。ちょっと高い気もしますが、外食することを考えればずいぶんお手ごろ。ちょっと高級な”ごちそうレトルト”として人気で、4千円ほどの詰め合わせを贈答用に買い求める客も多いそうです。

レトルト市場 ニーズは変化する

市場の拡大で、メーカー各社は差別化を図るためさまざまな戦略を打ち出しています。

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カレーといえばライス大盛りが当たり前の私からすると驚きですが、「ゴールデンカレー」で知られる「エスビー食品」が打ち出したのは「少量化」。容量を従来の3分の1に抑えた「小分けカレー」を新たに開発しました。見た目もかわいらしく、「ちょっとずついろいろな味を食べたい」という女性のニーズに応えた商品です。

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ラインナップは、欧風カレーにデミグラスカレーなど全部で6種類。組み合わせることで200通り以上の食べ方が楽しめるとアピールしています。

エスビー食品では、カレー購入者の6割が女性との市場データをもとに、「どんなレトルト食品が求められているか」を調べるため、20代から70代の女性600人に「家でのカレーの食べ方」を独自調査しました。その結果、少量でいいのでいろいろ食べたいというニーズを見いだし、ことし2月に「小分けカレー」の販売に踏み切ったそうです。

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「お客様から『こういう少量でおいしいものがあってよかった』という声をたくさんいただいています。ニーズやトレンドというのは、日々変化しています。お客様の潜在ニーズをいち早く発掘しながら、レトルト市場をもっと盛り上げていきたい」(エスビー食品マーケティング企画室の佐藤弘康さん)

カレーを食べて健康になろう

「ボンカレー」の大塚食品も新たな一手を打ち出しています。それは高齢者の健康に配慮したレトルト食品。売られているのは、なんと薬局です。

高齢者に不足しがちなたんぱく質を従来の2倍に増やしたカレーや、塩分を4分の1に抑えた「親子丼」など10種類のレトルト食品を展開。もともとの強みである医療分野のネットワークをいかして、スーパーではなく、あえて全国の調剤薬局や病院の売店で販売しています。発売から2年で、売り上げは当初の5倍に伸びています。

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「健康を軸に、おいしく楽しく召し上がって頂けるような商品を生み出したいなと思って日々商品開発に取り組んでいます。この先の50年後は健康に関する情報もあふれているでしょうし、こうしたメニューや商品の提案をこれからも続けていきたいです」(商品の開発を担当した大塚食品の江藤晃嗣さん)

レトルト食品には社会の姿が

50年前、レトルト食品が生まれた背景には、男性の家事参加を促したいという開発者の思いがあったそうです。当時、広がりつつあった女性の社会進出。そこで、料理をあまりしたことがない男性でも、簡単に作れる商品をと世の中に送り出されたのがレトルトカレーでした。

そして今、男性も女性も社会で働くのが当たり前のようになり、高齢世帯や単身世帯も増えています。手間をかけずにおいしいものを食べたいというニーズをつかもうと、各メーカーは商品開発にしのぎを削っています。

レトルト食品が映し出すのは、その時々の日本社会の姿。これから50年後、レトルト食品が100年を迎える未来には、どんな社会が待っているのでしょうか。そんなことに思いをはせながら、私は今夜もライス大盛りのカレーを味わうのです。

佐々木 智一
徳島放送局アナウンサー
佐々木 智一
平成17年入局
岡山局、津局などをへて、徳島では「あわとく」キャスターなどを担当