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映画館が定額制に!採算が不安?でもこの流れは止まりません

最近、映画館で映画を見ましたか?定額制の動画配信サービスが台頭し、アメリカでも映画館から客足が遠のいています。ところが月10ドルの定額で、映画館で毎日映画を楽しめるというサービスが登場し、改めて映画館のよさが見直されています。人気が出すぎて、経営難に陥ってしまうドタバタも起きていますが、“映画館も定額制”が着実に広がっています。(ロサンゼルス支局記者 飯田香織)

月10ドル!これはお得でしょ

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ハリウッドのあるロサンゼルスは映画の街。そのロサンゼルスの映画館に行くと、最近、多くの人たちが赤いパスを持って入館していきます。

去年8月、ムービーパスという新興企業が「1か月10ドル(約1050円)で映画見放題」という破格のサービスを全米で始めたのです。

アメリカでは映画のチケット代は平均8ドル97セント(約1000円)。ロサンゼルスやニューヨークなどの主要都市では15ドル程度します。月に1回でも映画館に行けば、もとがとれる!これは入らない手はない!と思って、わたしも会員になりました。

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私もカードを作りました

ネットフリックスなどで自宅でも簡単に映画を見られますが、やはり大きなスクリーンで見る映画は格別です。日本が舞台の「犬ヶ島」や、太古の恐竜が現代に蘇った「ジュラシック・ワールド/炎の王国」、最近は主要キャストがアジア系の「クレイジー・リッチ!」などを映画館で楽しみました。

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「彼ママに会う緊張感を軸としたラブコメで、ファッションも楽しめました」(飯田)

スマートフォンにムービーパスのアプリをダウンロードし、クレジットカード情報などを登録。見たい映画をポチッと押し、赤いパスを提示すると映画館に入れます。▼ポチッと押してから30分以内に映画館に行かないといけない、▼映画は1日に1本まで、▼同じ映画を2度、3度と見ることはできない、など制約はいくつかありますが、手続きはいたって簡単です。アプリでは過去に見た映画が日時とともに表示され、わたしのように「ほらほら、あの映画の名前なんだっけ?」という人には便利です。

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破格のサービスだけあってたちまち評判になり、ことし6月には会員が300万人を突破しました。

でも・・・採算とれるの?

お得な定額サービスを満喫しながら、実はわたしはずっと疑問でした。ムービーパスはどうやってもうけているんだろう?果たして商売として成り立つの?

そう思っていたら案の定、会社の経営の雲行きが怪しくなってきました。

ムービーパスは、会員が見た分のチケット代を会員に代わって映画館に支払います。映画のチケット代は平均で約1000円ですから、会員が毎日見たら、毎月日本円で約3万円を会社が負担する計算です。

会員の30%はチケット代が高いロサンゼルス・サンフランシスコ・ニューヨークにいますので、会社の負担はさらに重くなります。

会社は、映画館から“大口割り引き”を受けたり、会員のデータを映画館に販売したりして、利益を確保する計画でした。

しかし、残念ながらあてがはずれました。まず大手の映画館が値引きに協力してくれませんでした。加えて、多くの利用者が会社の想定以上に映画を見たのです。会員が見る映画の本数は、85%は毎月3本以下ですが、残りの15%がヘビーユーザーで、映画館への支払いがかさんでビジネスモデルが成り立たなくなったのです。

いよいよムービーパスは大丈夫か?と話題になったのが7月27日。トム・クルーズ主演の「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」をムービーパスを使って見ようと会員がアプリに殺到し、システムがパンク。結局、この映画は終日ブロックされて、見ることができなかったのです。

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そうこうしているうちに親会社のヘリオスが7月末に緊急に500万ドル(約5億5000円)を借り入れする事態に追い込まれます。それでも経営は改善せず、先行きを不安視されて株価は1か月で99.9%急落。今や3セント(約3.3円)、紙切れ同然で取り引きされています。ことし4月から6月までの3か月間の決算は、1億2600万ドル(約140億円)の赤字に陥りました。

やっぱり、うますぎる話は・・・

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ムービーパスはやむなく方針転換します。「毎月10ドルで見放題」を打ち出してからちょうど1年となる8月15日。料金はそのままで「毎月3本まで」とサービスを一気に縮小しました。

ミッチ・ローCEOは、「将来も楽しめるようにするため」として、会員に理解を求めました。

ロサンゼルスの映画館で会員に感想を聞くと「1か月5本は見ていたのでがっかり。キャンセルした」「事実上の値上げだ。キャンセルも考えている」という不満の声もありました。一方で「1か月10ドルで3本見られるという内容でも決して悪くはない」という冷静な受け止めもありました。

定額サービスの起爆剤

ムービーパスは軌道修正せざるを得なくなりましたが、彼らの登場は映画界に変化をもたらしました。

映画館は、ネットフリックスなど定額制の動画配信サービスの拡大に押され気味です。アメリカで2017年に販売された映画チケットは12億3430万枚で、前年から6.2%も減りました(Box Office Mojo調べ)。25年ぶりの低水準でした。

こうした中でムービーパスが打ち出した“映画館でも定額制”が起爆剤になって新たな流れができつつあるのです。

米大手映画館チェーンのAMC(全米で380館)は、6月下旬、1か月20ドル(約2100円)で毎週3本まで映画を見ることができるサービスを始めました。つまり、月に見られる映画は最大12本。ムービーパスを意識していることは明らかです。1日に2本見てもいいし、同じ映画を繰り返し見てもいい。3D映画など特別な映画の鑑賞もOKで、1か月余りで26万人が会員登録しました。ほかにも追随して定額制を打ち出すサービスが出ています。この流れは止まらないと思います。

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あのアマゾンが映画館?

また、定額サービスがきっかけになって、さまざまなジャンルの映画が見られるようになっています。ムービーパスによりますと、会員の49%は「これまで見ないような映画を見るようになった」と回答しているということです。

確かにそういえばわたしも。好きなのはラブコメやドキュメンタリーですが、アクションやあまり話題になっていない映画も見るようになりました。

ムービーパスの会員の利用状況を詳しく調べたサンフランシスコの映画館は、大々的に広告を出すことができない独立系や外国映画の観客数が大きく増えたと喜んでいます。

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そうした広がりをみてか、あのIT巨人のアマゾン・ドット・コムが動き始めたようなのです。アマゾンは、会員向けにネットで映画を定額配信しています。ラブコメの「ビッグ・シック」といった映画の製作もみずから手がけています。そのアマゾンが、映画館の買収に動いていると米ブルームバーグが報じています。対象は、ランドマーク・シアターズという映画館グループ。独立系や外国の映画などを上映する50以上の映画館を展開しています。アマゾンはネット通販で急成長しましたが、高級スーパーのホールフーズ・マーケットを去年買収し、“実店舗”を手に入れました。仮にランドマークの買収が実現すると、“実映画館”も手に入れることになります。アマゾンにどんな狙いがあるのか興味津々です。

アメリカでは新しいプレイヤーが映画館に新風を吹き込んでいます。銀幕は輝きを取り戻せるのか?このあとどんなサービスが登場するのか?目が離せません。

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 飯田 香織
ロサンゼルス支局記者
飯田 香織
1992年入局
京都局、経済部、
ワシントン支局などをへて
2017年夏からロサンゼルス