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MRJ 初のデモ飛行の舞台裏

5度の納入延期で、初号機の納入が2020年半ばと当初の計画より7年遅れとなっている国産初のジェット旅客機「MRJ」。三菱重工業が5000億円を超える費用を投じて開発を進めてきましたが、「本当に大丈夫なのか」と計画の頓挫を懸念する声もあがっています。そのMRJが7月、イギリス・ロンドン郊外のファンボローで行われたエアショーで、世界の航空関係者を前に初めて飛行する姿を披露。開発の遅れへの懸念は払拭(ふっしょく)できたのか。その舞台裏を追いました。(名古屋放送局記者 山田沙耶花)

待望のデモフライト!

「飛んでいる姿を見てもらい、新たな受注につなげたい」
エアショーが開かれるイギリス・ファンボローを訪れた三菱航空機(三菱重工の子会社)の営業担当、空閑克己さんは、初めてとなるMRJのデモフライトに大きな期待を寄せていました。

ファンボローのエアショーは、2年に1度開かれる世界最大級の航空機の祭典。

航空会社や航空機メーカーなど1500社が参加するビッグイベントです。

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私も初めて取材に行きましたが、最新鋭の航空機などが展示された会場は、世界の航空関係者でごった返し、活気にあふれていました。

開発の遅れで、おととしは、原寸大の模型の展示が精いっぱいだったMRJ。この2年は新たな受注もなく、ことし1月には、アメリカの航空会社の破綻で40機の契約がキャンセルされました。
その一方で三菱航空機は、安全性を担保する証明を航空当局から取得するため、試験飛行を繰り返してきました。その結果、取得に向け一定のメドがつき、ようやく量産化も見えてきています。

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三菱航空機 空閑克己さん

エアショーで満を持してデモフライトを行い、開発の遅れへの懸念を払拭できれば、営業にとっても大きな弾みになる。アジアの営業を統括する空閑さんは顧客に招待状を送り、当日を楽しみにしていました。

そして迎えた初めてのデモフライト。

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2年後に最初に納入される予定の全日空のロゴが施されたMRJは、滑走路を一気に加速し、静かに飛び立ちました。

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関係者が集まるレセプション会場では、フライトを終えて無事、着陸した瞬間、拍手がわき起こったといいます。

私は滑走路脇で離着陸の様子を取材していたのですが、そばで撮影していたヨーロッパのメディアに感想を聞くと、「静かで美しい離陸だった」との評価。

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デモフライト後、三菱重工の宮永俊一社長は「無事飛行できてほっとした。航空会社の皆さんの反応もよかった」と手応えを語っていました。

フライトの裏で、まさかの…

実は、その裏で大変なことが起きていました。

デモフライト後、MRJをけん引する際、機体の先端が牽引車に追突したのです。

このままでは明日以降、飛べないと、三菱航空機のエンジニアたちも頭を抱えます。

補修作業を急ぐエンジニアたちを見守るチーフテストパイロットの安村佳之機長に声をかけると、「悔しい。せっかくここまで来たのに。飛びたい」と辛そうに話していました。1日しかデモフライトを行えず、エアショーが終わってしまうのではないか。
不安が広がっていました。

その窮地を救ったのは、若いエンジニアたちの懸命の作業でした。

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迅速な機体の修復と点検で、追突の2日後にはデモフライトを行えることになったのです。このあと2日間にわたって、イギリスにしては珍しく晴れ渡った青空をMRJは飛び続けました。

営業の成果は?

一世一代のデモフライトの成果はどうだったのか。
実はエアショーの期間中、MRJの新規受注はゼロでした。

しかし、三菱航空機が構えたシャレー(展示商談スペース)には航空業界の関係者がひっきりなしに訪れていました。

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営業担当の空閑さんも航空会社の幹部とともにデモフライトを見守りながら、商談を進めたといいます。

シャレーから出てきたヨーロッパのある航空会社のCEOに話を聞くと、「開発の遅れはマイナスだが、技術面や騒音の少なさ、燃費の面で優れている」と好印象。

ほかにも、アメリカや北欧の航空会社の関係者が機体を見学しながら熱心に質問していて、デモフライトによって注目が集まっているのを実感しました。

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ライバルは…

とはいえ、ライバルも強力です。

MRJがターゲットとしている100席以下のリージョナルジェットの市場では、ブラジルのエンブラエルが最大手。

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MRJが初号機の納入を始める翌年の2021年には、88席、80席というMRJと競合する座席数の機体の納入を始めます。

エアショーで、そのエンブラエルのシャレーを訪れると、オペレーションを担当するヨハン・ボーデさんたちが歓迎してくれました。

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シャレーの中には、白いパラソルやテラスがあり、まるで開放的なビーチのよう。いつ訪れてもメディアの質問に丁寧に答えてくれる広報担当や、模型をプレゼントし、自社の機体の性能を熱心に語るエンジニアたち。航空機づくりへの情熱や挑戦を世界の人たちに知ってほしいという熱い思いが伝わってきました。

一方、三菱航空機では、メディアは指定された時間以外、シャレーの中に入ることができず、エンブラエルと比べて閉鎖的な印象でした。

社員一人一人の熱意はきっと同じだと思うのですが、その違いは、まだまだ大きいと感じざるをえませんでした。

シャレーで食事をしながら、ボーデさんにエンブラエルの強みと、MRJについて尋ねました。

「僕たちは顧客が必要とする要求にはすべて応える。MRJはすばらしい航空機だね。競争は歓迎するが、こちらもベストを尽くして戦うよ」

余裕たっぷりなMRJへのエール。それがとても印象に残りました。

日の丸ジェットが世界を飛ぶ日は

日本の航空機産業は、これまでボーイングやエアバスといった欧米の大手メーカーの“下請け”でした。

今回、MRJが世界の航空関係者を前に、初めて飛行する姿を披露したことは、その脱却に向けた前向きな動きだと言えるかもしれません。

MRJの部品は100万点とも言われます。日本の雇用を支える自動車でも部品は3万点で、MRJは日本に新たな産業と雇用を生み出す大きな可能性も秘めています。

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しかし、そこに到達するためには、三菱航空機が準備を進める安全性の証明や量産化の開始に加え、強力なライバルメーカーとの厳しい受注競争が待ち構えています。

日の丸ジェット・MRJは、この高いハードルを乗り越え、世界の空に羽ばたくことができるのか。今後もその動向を取材していきたいと思います。

山田 沙耶花
名古屋放送局記者
山田 沙耶花
平成22年入局
仙台局、京都局を経て、
現在、名古屋で経済を担当